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髪長姫は最後に笑う。 序章 (7)

序章 (7)

 さて、このわたし、三島百合香が案内役をつとめたこの序章も、そろそろ語るべき事柄が少なくなってきた。あの、邂逅の日以降経過をごく簡単にまとめて、わたしは語り手の役を降り、登場人物の一人になることにしよう。
 なにより、この物語はわたし自身の物語ではない。彼ら二人、加納荒野と茅の物語なのだから。
 いみじくも、あの二人が初めて対面した日、病室で加納涼治氏がこのようにいったように。

「荒野。
 わたしは、幼い頃のわたしがそうであったように、お前には、騙すこと、壊すこと、殺すことしか教えてこなかった。仁明にも、また。
 わたしたち一族は、そのようにして子を育み、今までを生きてきた。
 その結果生み出されたのが、この茅という少女だ。
 この茅が壊れているように、我々もまた壊れている。
 時に押し流され、後は消えて行くだけのわたしは、まだいい。
 荒野、お前にはまだ未来がある。未来のあるお前が、このままでいいわけがない。
 長として命じる。
 何年かかってもいい。この茅を、お前が、笑わせてみろ。心から笑える娘にしてみせろ」

 髪長姫と呼ばれ、加納茅と名乗った少女は、「荒野とともに生活できる」と聞くと、たちどころに態度を軟化させた。日常会話程度はするようになり、一年近くほとんどベッド上で過ごしていたため萎縮した筋力を取り戻すためのリハビリにも、積極的に取り組むようになった。
 しかし、「発見」以前の生活については、前と同じようにかたく口を閉ざしたままだ。

 加納荒野は、加納涼納氏の命令を当然のように受け止め、近い将来、加納茅と同居生活をおくることを、すんなりと許諾した。しかし、「現在進行中」の任務とやらが何件かあって、そちらが片づいてから、という条件付きで。
 結局、加納荒野が着手中の仕事をあらか片づけて帰国したのは、その年の秋もかなり深まった時期になった。

 わたしは、四月をめどに当時の職場を去り、加納涼治氏が用意した新しい職に就いた。わたしが医師免許を持っていたことと、加納涼治氏は、この市に自分名義の不動産を多数の所有しており、その市に対して、加納涼治氏がそれなりの影響力を持っていたのが幸いして、加納茅と加納荒野が通う予定の学校に職を得るのは、割合に簡単だったらしい。
 加納涼治氏は、その市内に多数の不動産を所有し、市でも有数の高額納税者、という顔も持っている。というより、そのような条件があったから、加納茅と加納荒野の新しい生活の場として、その市が選ばれた、というのが、実情らしい。わたしには詳しい説明をしてくれなかったが、その市は、「一族」とやらが、公然と根を張っている拠点、の一つなのだろう、と、勝手に推測している。

 そういうようなわけで、わたしは今年の四月から、公立学校の養護教諭、などという、とうていわたしの柄ではない仕事をしながら、彼らがこの土地にやってくるのを待ち続けた。
 四月にわたしがこの市に来て半年以上がたったとき、ようやく、「二人がこの土地に来る用意が整った」、という知らせを受けた。わたしは、加納涼治氏が所有するマンションに引っ越し、彼らの到着を待つ。
 彼らも、同じマンション内の別の部屋に居住する予定だった。

 わたしの役割は、彼らの監視役。それに求められれば、ある程度のアドバイスはしていい、ともいわれていた。
 だが、基本的には、あらゆる決定は、加納荒野が自分で考え、自分で決定しなくてはならない。過剰な干渉は不要、と、強く念を押されている。
 これもわたしの勝手な推測だが、この一件は、次期頭領と目されている加納荒野の、頭領としての資質試験も兼ねているのではないだろうか?
 だから、加納荒野に裁量権を与えた上で、わたしのような、彼らにも一族にもなんら利害関係のない第三者を張り付けて、報告させている……と、そう考えると、いろいろと不可解に思える点に、説明がつくように思う。
 もっともこの説には、どんなに説得力があっても、あくまでわたしの推測にすぎず、なんの根拠もない。実のところ、わたしなぞに、「彼ら」のような特殊な思考と行動原理を持つ連中の思惑など、本当に想像できるとは、思えない。

 いずれにせよ、役者が揃い、舞台が整い、いよいよ物語の幕が上がる。
 とても奇妙な、根本的な部分が酷く歪んだ、アンバランスな物語だが。
 だが、この物語の一番基本的な部分は、それでも、とてもシンプルだ。
 だって、「一人の少年が、たった一人の少女を、心の底から笑わせる」という、ただそれだけの物語なのだから。

 さて、そろそろわたしは語り手から一脇役の立場に戻り、物語の幕を開けることにしよう。

   [序章・了]

[つづき]
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