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髪長姫は最後に笑う。 第一章(1)

第一章 「行為と好意」(1)

 黒髪の束が、少年の体に覆い被さっている。
「……こうや……」
 否。
 黒髪の束、に見えたものは、自分の身長以上に髪を伸ばした全裸の少女である。小柄な彼女が、体格において二回りほども大きい銀髪の少年の上に跨って、自由を奪っている。
 少年は、成人男性と比較しても遜色ない体格と、常人に数倍する筋力を持っていたが、ひとふり身震いすればはじき飛ばせるような、軽い少女に跨られて、魅入られたように動けないでいる。
 銀髪の少年の上に乗った黒髪の少女は、手を伸ばして、少年が纏っていた衣服を脱がしはじめた……。

「……んで、一体、それのどこが問題なんだ? のろけか?」
 翌朝、加納荒野に相談を受けた三島百合香は、いささか疲れた声でそう答えた。
「そんなん、据え膳だ据え膳。
 相手のほうから誘われたんだから、遠慮しないでイッパツやっちまえばいいのに……」
 相談を持ちかけた加納荒野のほうも、憔悴した表情を浮かべていた。
 荒野は、加納茅と名乗る少女との同居生活初夜、裸で茅に抱きつかれ、裸に剥かれ、抱きつかれたまま、一睡もせずに添い寝していたという……。
 一方、抱きついた側の茅は、そのまま、幼子のようなあどけない寝顔をみせて、すぐに寝息をたてはじめた。
「……だってよう、先生……」
 銀髪で彫りの深い顔立ちと、落ち着いた物腰。一見、二十歳前後に見える荒野は、その実、未成熟な内面しか持たないティーン・エイジャーにすぎない。
「……そこでほいほいやっちまったらさ、それはつまり、親父と同じ事をするってことで……」

 三島百合香は深々とため息をついた。
 特殊な生い立ちを持つ荒野は、外見だけではなく、身体能力的にも卓越した存在である。が、そうした能力も、日本で平凡な一学生として生活しようとする分には、むしろ邪魔な要素でしかない。加えて、海外を転々として過ごしてきた荒野は、言葉にこそ不自由はしないものの、日本での平均的な生活というものに対して、常識的な知識を欠いていた。
 茅より一足先にこの土地に到着した荒野が起こした幾つかの騒動が、そこことを証明している……と、その後始末やらフォローやらに奔走してきた三島百合香は断言できる。

 例えば、コンビニの支払いをアメックスのゴールドカードで済ませようとして、バイト店員に注目を浴びる(買ったのは、税込み百五円の食玩入りチョコレートだった)。当座の足として購入したママチャリで車道を飛ばしすぎて、白バイに補導される。繁華街で因縁をつけてきたドキュンを返り討ちにする(ここまでならまだよかったが、調子に乗って背後にいた「組」事務所にまで押しかけていって、事務所一つを壊滅してしまったのは、さすがに行きすぎだと思う。犯人が特定できる証拠は残していないそうだが)。等々。
 三島百合香自は、自分身でフォローできる範囲を越えたと判断したら、即座にあらかじめ教えられていた緊急連絡先へと通達、「尻ぬぐい」を依頼した。その回数は、「緊急連絡先」で想定していたよりもどうも頻繁だったようで、三島百合香はすぐに、加納涼治御大の直通番号を教えられ、それを携帯に登録するはめになる。
 おかげで三島百合香は、「謎のニンジャ集団の大頭領」と随分親しくなってしまった。
『……でも、こと、子供の教育に関しては、絶対に問題あるよな、あの集団……』
 ……荒野といい、荒野の父親にあたる男のことといい……。

「あのなぁ」
 数秒、間を置いてから、三島百合香は顔をあげる。
「お前も男なら、女が本気で迫ってきてるのか、そうでないのかくらい、ちゃっちゃと見分けろってーの。そのナリで全く経験ないわけでもなかろう? ん?」
 三島百合香は軽く尋ねたつもりだったが、荒野は一瞬、端正な顔にキョトンとした表情を浮かべ、一瞬後、顔中を真っ赤にして、目を反らした。
 あら?
「……なんだぁ? お前……ひょっとして、どーてーかぁ?」
 三島百合香は椅子から立ち上がり、背をのけぞらして「驚きのポーズ」を作る。普段、迷惑をかけられている、という意識があるので、こういう場面では意地の悪い対応をしたくなる。
「……そーかそーか。荒野君は女体未経験か。そうかぁ」
 腕を組んで、うんうんと大仰に頷いてみせる。内心では『実年齢のことを考えれば、充分にありえるか』と納得しているのだが。
 外見がアレなんで、荒野がまだほんの子供だということを、忘れそうになる。
「黙ってても女なんざナンボでも寄ってくるようないい男っぷりなのになぁ。
 まぁ、なんだな。そういう相談は、わたしの職務外だな。
 お前自身がどうしたいのか、という問題だからな。
 茅とどうこうする、とかいうのを考えるより先に、お前が男性として、女性とどういうスタンスで向き合うのか?
 ……それを決めるのが、先決なんじゃないのか?
 一穴主義で行くのなら、それを口実に、茅とはやらない。
 そうでないのなら、フーゾクいくなり、ナンパしたり、ナンパされたりして、とっととキメちまえってぇの。
 なんなら、……」
 拗ねたような顔をしてそっぽを向いている荒野を、三島百合香は「可愛いな」と、思う。
「……わたしがお相手してやってもいいぞ。けけけ。
 さて、そろそろ時間だから、今朝の会見はお終いだ。外に出た出た」

 あっけにとられている荒野を部屋の外に追い出し、自分も外に出て、部屋の鍵をかける。
 そして、荒野を残して、さっさと現在の勤務先である公立校に、赴く。

 荒野がこの市に着いてからこっち、三島百合香は、毎朝の出勤前、二十分ほどの時間を、荒野との面会時間として設定していた。その時間で、カウンセリングの真似事をするときもあれば、日常生活の相談に乗ることもある。

[つづき]
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