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彼女はくノ一! 第一話 (8)

第一話 ある日、くノ一が落ちてきて……。(8)

 放課後。
 一日の授業をすべてつつがなくやり過ごした狩野香也は、ほぼ反射的に美術室へと足を向けていた。香也にとっては絵さえ描ければその場所はどこでもよく、一学期、樋口明日樹に誘われるままに美術部に入部。以後、放課後は遅くまで学校で気ままに絵を描く生活を送っている。自宅のプレハブだと、夏は暑いし冬は寒い、と、気温の変化をモロに受けるので、これはこれで良かったかな、と思う。学校の美術室だと、少なくとも、暖房だけは完備している。
 毎日学校に来なくてはならないのが難点だが、正直にそういったら、「普通、学生は毎日学校に来るものなの!」と、樋口明日樹に窘められた過去があり。

「狩野君!」
 その樋口明日樹が、美術室の前で怖い顔をして立っていた。
「な、ん、で、こんな所にきているのかなー!」
 あああいけないこれはキレる直前の表情だ。
 狩野香也は樋口明日樹に叱られ慣れているので、彼女がこういう表情をしたときにはとりあえず頭を下げる。ごめんなさい。といったら、樋口明日樹は、
「君は今朝のことが気にならないんですかあの珍しい恰好をした人のその後がみにら先生あれから結局学校に来ていないしだいたい君という人は一般常識に欠けたところがあってもう少し人並みの好奇心とか」以下略。
 と、だいたいそんな感じで三分間に渡って延々としゃべりだす。
 というわけで、狩野香也は樋口明日樹に引っ張られるようにして、真っ直ぐに帰宅した。
 帰宅した彼らを待ち受けていたものは、ピンクレディの「UFO」の振り付けを習っている最中の、くノ一の姿だった。

「いや、だからさー。二人でやる派手な振り付けの曲、っていったら、やっぱ、ピンクレディだろう。伝統的に。いや、わたしもナマで活躍していた時代を知ってるわけではないけどな。たまたま三島先生もわたしもレパートリーとして知ってたんで、二人して飲めや歌えややっていたらくノ一ちゃんが興味をしめしてな。三島先生と二人で宴会芸を仕込んでいた最中だったのだ」
 「どうしてこういう事態になっているのか」という問いに対して、羽生譲はこう答えた。
 ……いや、そうではなくて、もっと根本的なところを。
「くノ一ちゃんを家に寝かしつけて、三島先生がどっかのお偉いさんに電話して、電話、真理さんに変わって、いろいろ話していたら、なんか、くノ一ちゃんが家に同居することになっていた」
 ドサリ、と、樋口明日樹の手から、鞄が落ちる。
「んー。ということは、あれか。くノ一ちゃんもわたしと同じで、この家の居候ということになるんだな……。
 おい! くノ一ちゃん! わたしのほうが居候の先輩だからな。こっちが居候一号でそっちが居候二号だ。先輩はちゃんと敬う! 以後、わたしのことは居候の師匠と呼ぶように!」
 と、そばにいる松島楓に訳の分からないことをいいつける。そういわれた松島楓は、ははーと、素直に平伏する。
 一方、羽生譲は自分の言葉になにか感ずるところがあったのか、天井の方に顔を向けて、「いそーろーいそーろー」と呟いた。
「ニンジャのいそーろー……っていうと……」
「アレだよアレ!」
 そばに立っていたほろ酔い加減の三島百合香が、身長差がある羽生譲の顔を、ちょいちょいと指を動かして呼びつけ、ごにょごにょと何事かを耳打ちにする。
 羽生譲は、ポン、と、柏手をうち、「おー。それだー」と感嘆の声をあげ、三島百合香と二人で、律儀に正座をして待機していた松島楓に向き直り、
「ニンジャのいそーろーってーと、あれか!」
「語尾はゴザルか! ニンニンといってみろ!」
「書いた人は藤子のA先生か!」
「そのうちライバルとかおとーととか忍犬が出てくるんだろう!」
「映画化されたら主演は中居クンか!」
 とかいいながら、二人で肩を組んで「わはははは」と笑いだした。
 酔っぱらいの訳の分からないノリに加え、昔のマンガの知識なんてまるで持っていなかった松島楓は、怯えたような表情をして恐れおののいている。

 そんな騒ぎをよそに、さっさと炬燵に入っていた狩野香也は、炬燵の側に常備されているお盆の湯飲みを使い、慣れた手つきで三人分のお茶を入れる。呆然と立ちつくしている樋口明日樹の脛をツンツンと指でつついて注意を促し、松島楓もいっしょに、炬燵のほうに手招きする。
 炬燵に入った二人の前に湯飲みを置き、自分でも、ずずず、と音を立ててお茶を啜る。羽生譲と三島百合香は、すでに松島楓に興味を失ったのか、肩を組んだまま、「ぎんざのおんなはぁ、ぎりよりかぁーたいー」とコブシを効かせて歌いはじめている。
「香也も樋口さんもくノ一ちゃんも、いっぱい食べいってね。今日は、ノ一ちゃんの歓迎会なんだから」
 台所に消えていた狩野真理が、食材を山盛りにした皿を持って帰ってきた。
 具材を炬燵の中央に置いてある鍋の中にいれ、コンロに火をつける。
「……こうや……かのう、こうや……」
 すっかり「ノ一ちゃん」の呼称が定着しつつある松島楓は、真理の言葉になにかを思い出したようにぶつぶついっていたが、いきなり炬燵から出て座り直し、
「お尋ね申す! こちらのお方は、もしや、『かのうこうや』とおっしゃるのでしょうか?」
 と、炬燵に入ってくつろいでいる狩野香也を示す。
「うん。ぼく、狩野香也」
「こちらの住所は──で」
「それ、町名変更前の住所だけど、それだと、だいたいこの辺りねぇ」
 それを聞いた松島楓は、畳に額をこすりつけるようにして平伏した。
「それがし、かのうこうや様にお仕えするためにここに参りました! お側仕えすることをお許しいただきたく。なにとぞ、なにとぞ!」
 いきなり時代劇口調になって懇願する。

 樋口明日樹が「ええーっ!」という悲鳴のような声をあげ、三島百合香と羽生譲は「おおーっ!」と、明らかに面白がっている声をあげた。
 そして、何故かパチパチパチと拍手しはじめる。

[つづき]
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