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髪長姫は最後に笑う。 第一章(4)

第一章 「行為と好意」(4)

 まだスーパーが開く時間まで少し間があったので、コンビニでケーキをいくつか買ってマンションに帰る。荒野は実は、甘い物に目がない。

 相変わらずソファの上で寝息をたてている茅を起こさないように足音を忍ばせて自室に戻り、買ってきたケーキの半分を冷蔵庫に入れ、残りを自室に運ぶ。コーヒーをいれる。「自室」とはいっても2LDKのうちの一部屋を荒野が、もう一部屋を茅が使う、という取り決めをしている程度のことで、普段からドアも開けたままにしている。
 買ったばかりのノートパソコンを立ち上げ、ケーキをコーヒーで流し込みながら、一族が管理するサーバに接続し、必要な情報を検索する。
 荒野が襲撃した事務所が所属する組の組織系統と、そこのVIPのリスト、ならびに、その系列の組に資金提供している人物一覧。
 それに、それらの主要な人物たちの、公になると致命傷になるようなスキャンダラスな情報。より具体的にいうと、裏帳簿のコピーだったり、敵対している組織の重要人物との密会写真だったり、堅気のはずの人間が組関係の人間と密接な関わりがあることを明示する写真だったり、目下の所、マイナーで白眼視される類の性的嗜好をもつことを証明するプレイ最中の写真だったりする。

 一族は普段から、行政機関、組関係、ある程度の規模や影響力をもつ企業のVIPについてのその手の情報を、継続的かつ熱心に収集している。もちろん、なにかあったときに脅したり圧力をかけたりするための材料として、だ。
 少なからぬ人手と資金の成果であるそれらの情報を、荒野は熱心に吟味してふるいにかけ、公開された際の影響力を考慮しながら「これは」というもののみを選択して自分のマシンにダウンロード、個人的に確保しているダミーサーバを幾つか経由させて、一つ一つを別個に、メールで送付する。
 組なら敵対組織の事務所に、代議士なら同じ選挙区の対立候補者に、といった具合に、一番知られたくはない相手に。
 そして、その後に、「あの件がアイツに知られたらしい」という匿名密告メールを出す。
 ようするに手の込んだ嫌がらせだが、これで、うまくすれば組内部での権力抗争が激化し、同時にスポンサーとの関係もギクシャクし、しばらくは荒野への報復など準備する余裕もなくなるはずだった。
 念のため、近郊の日帰りできる位置にある事務所に「危険資料」のハードコピーを置いてくる準備も、はじめる。厳重な警戒の中を忍び込むのは、一族の最も得意とするところで、荒野の手にかかれば、その程度のことは朝飯前なのである。

「危険資料」と忍び込む先の情報をあらかた洗い直すと、そろそろ近所のスーパーが開く時間になっていた。忍び込みは昼をすませてからにしよう、と、そう思い、二人分の食材を買いに、やはり足音を忍ばせて、外に出る。
『──茅の好き嫌いとか、好物とか、よく聞いておけば良かったな……。』
 とか、思いながら。
 茅はどちらかというと小食のほうだが、荒野は普段から食事ごとに三人前ぐらいの量を消費するので、こまめに食材を買い足さないと、冷蔵庫がすぐに空っぽになる。

 スーパーのビニール袋を抱えて帰ってきても、茅はまだ寝ていた。
『これじゃあ、髪長姫というより眠り姫だ』
 そう思いながら、比較的音を立てない煮込み料理の準備をし、鍋を火にかけた所で、携帯に、荒野が「じじい」と呼ぶ涼治から、着信があった。
 自室に入り、ドアを閉めてから、出る。
『なんであんな情報をコピーしたのか?』
 という問い合わせの電話だった。一族のサーバに接続したことが伝わったらしい。
 荒野が経緯を説明すると、
『あの情報を集めるのにどれぐらいの資金が必要だのったか』ということを滔々と説明される。
 だが荒野も、『今回のミッションは茅の救済が最優先事項であり、採算性はそもそも重視されていない。また、なにが必要なかを判断するのは、裁量権を撒かされた自分である』といった意味のことをいって反論する。『茅の安全を確保するためにも、必要な措置である』と。
 短いやりとりの末、結局、涼治のほうが折れた。肝心のメールが送付されている以上、今更とやかくいってもはじまらない、と、思ったのかも知れないが。
『お前は一番穏当な手段を選んだつもりかも知れないがな……』
 最後に、涼治はいった。
『……お前のやったことは、必要のない波紋を作り出しただけだ。
 お前のおかげで、何人か死ぬことになるぞ』

 涼治の予想は的中した。
 たしかに、荒野や荒野の身辺にいる者への襲撃や介入は、それ以降なかった。が、そのかわりに、後日、組関係の人間が内輪揉めで何人か死傷、前後して、某代議士秘書が自殺が何件か、報道されることになる。それらは別個に報道され、関連性のある事件としては扱われなかった。
 だがそれは、まだ先の話しだ。

 この日の荒野は、できあがった鍋いっぱいのビーフ・シチュウのほとんどを自分で平らげ、残りを皿に盛ってラップをかけ、メモといっしょに残し、「危険資料」の入った封筒を持って、意気揚々と出かけた。
 夕方遅くまでの時間を使って、近郊の何軒かの目的地に忍び込んだ。荒野は、「忍び込み先」のどこででも、誰にも見つかることなく、極めて安全に仕事を済ますことができた。

 あっけないほど、簡単だった。

[つづき]
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