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第一章 「行為と好意」(5)
近隣の「関係者たち」に死命を制する情報を保持する者が存在する証拠をばらまいて、茅と共に住むことになった町に帰ってきた頃にはすっかりく暗くなっていて、荒野は、家路を急ぐ人々に紛れて自宅最寄り駅を降りた。
駅を出たところで、朝、出会った鼻ピアスの少年(樋口大樹と名乗った)とばったり出くわし、軽く会話を交わす。
「ミキねーちゃんに荒野さんのこと話したら、凄く会いたがっていたっすよ」
といわれたので、「近いうちにいっしょに遊ぼう」ということになる。
ただし、明日は東京まで遠征する予定だったので、具体的な日時は保留しておく。荒野は、茅にも早めに年齢の近い友人を早めに作って欲しいと思っていたので、帰ってみたら誘ってみるつもりだった。
……もっとも、鼻ピアスの少年と、日本人形のような風貌の茅と、銀髪の荒野が連んで町中を歩いている図は、荒野自身にも想像しにくかったが。
駅の駐輪場に止めていたママチャリに乗り、スーパーによって食材を適当に買い足す。夕食は茅に食べ物の好みを尋ね、それに合わせて調理をするつもりだったので、できるだけ汎用的に使い回せる食材を選択した。
マンションに帰ると、流石に茅は起きていて、テレビを観ていた。用意しておいたビーフ・シチュウも食べてくれたみたいで、皿は洗って流しに置いてあった。
茅は、特定の番組にはあまり興味がないようで、リモコンで適当にシャフルしながらテレビを観ている。ただ単に、暇を持てあましているだけかも知れない。
「明日あたり、外に出てみる?」
と荒野が尋ねてみると、茅は「その前に髪を切りたいの」と答えた。
たしかに、地面に引きずるほど長い髪は、たとえ纏めたり編んだりしたとしても、外を出歩くときにはかなり邪魔になるだろう。
「でも、それ、ずっと伸ばしてたんでしょ?」
荒野は、茅が保護されてからも一貫して髪を切られることを拒んだ、と聞いていた。
「もう伸ばす必要ないの。今は短い方がいいの。このくらいで切りたいの」
と、茅は手を背中に回して、腰の上あたりを示す。
突然の心変わりは不可解ではあったが、茅が外に出たがるのはいい変化だと思ったので、「出張できる美容師、探しておくよ」と荒野は答えた。
『そういうの、ネットで検索すれば分かるだろうか?
その前に、明日の面会で先生に聞いてみるか』
荒野自身は、あまり身なりに構わないほう……というよりは、今まで、生活環境的にそういうことに気を払うほど気持ちに余裕があったことが少なかったため、ファッションや髪型には無頓着なほうだが、茅にまでその無頓着さを押しつけるわけにもいかない。
「夕食になにが食べたい?」
と聞くと、茅は「カレー」と答えた。
シチュウに続けてカレーというのも何だが、リクエストを聞いた以上はそれに応えなくては、と思い、荒野はあわててルゥを買いに再び外出した。
夕食の準備をしながら、食べ物の好き嫌いを茅に尋ねてみると、「好きな物も嫌いな物も特にない」という答えだった。夕食にカレーをリクエストしたのは、たまたまそういう気分だったから、らしい。献立を考える側としてはラクだが、張り合いがないといえばない。
ついでに「料理はできるのか?」と聞いてみると、「ジンメイに禁止されたからわからないの」とのことだった。
……禁止……。
……先天的に不器用で、包丁の扱いが危なっかしくて観ていられないのか、それとも、味音痴でとても酷い味にしあがるのか……。
非常に想像力を刺激する、返答だった。
『今度、地雷覚悟でやらせてみよう』、と、荒野は思った。
夕食を食べ終え、交代で入浴することにする。茅に先に入れ、というと、「髪を洗うの手伝って欲しいの」といわれた。
「昨日は疲れていたのでシャワーしか浴びてないの。今夜はしっかり洗いたいの」
たしかに、あの長すぎる髪を一人で洗うのは、かなり手間だろう、とは思う。茅の裸は昨日観ていたし、それ以上に抱き合って寝ていたので、今更抵抗してもはじまらない。
一緒に服を脱いで浴室に入り、風邪を引かないように茅の体を温めのお湯を張った浴槽に浸した恰好で、荒野が茅の指示に従って、その長すぎる髪と格闘するハメになった。
その結果、たかが洗髪も、ここまで伸ばした髪に丁寧に行うとなると、ものすごくい面倒な事になるのだ、ということを、荒野は学んだ。全裸で、長時間に渡り、慣れない、神経を使う作業を敢行した荒野は、「……早めに美容師を確保しよう」と、改めて決心した。
茅の髪を丁寧にバスタオルで拭い取るところまで手伝って、荒野自身はシャワーをざっと浴びただけで済ませた。
なにより、疲れていたので、一刻も早く横になりたかった。
時間的には全然早かったが、荒野が自室に入ってベッドの上に横になると、当然のように茅も後についてきて、服を脱いで荒野の横に寝そべる。そして、荒野の服を脱がせて、自分の体を、一部の隙もないように、密着させる。
茅の体温、茅の感触、茅の匂い……。
茅はどちらかといえば小柄で痩せていて、荒野が実際の年齢以上に観られるのとは対照的に、幼く見えた。でも、やはり女性の体ではあって、出るところはしっかり出ている。それも、こう惜しげもなく密着されれば、胸も股間も、荒野の肌のどこかしらに触れているわけで、女を知らない荒野にとってこのような状態は、刺激的に過ぎて、精神衛生上劣悪、といってもいいような状態だった。
数分もたたないうちに茅は寝息を立てて、そのことからも、昨夜と同様、誘っているわけではない、と、荒野は判断する。
茅は、ただ単に抱きついてくるだけで、愛撫したり、キスをせがんできているわけではない。
『……ほとんどおれ、抱き枕扱いじゃないのか?』
と、荒野は思った。
「生殺し」という意味を、現在進行形で体感しているような気分になった。
昨夜に引き続き、荒野は、その夜もろくに眠れなかった。
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つづき]
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