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髪長姫は最後に笑う。 第一章(6)

第一章 「行為と好意」(6)

「……面白いぐらいに見事に振り回されてるな、お前……」
 翌朝、いつものように三島百合香の部屋にいって、簡単に昨日の出来事をかいつまんで話すと、呆れたような、面白がっているような口調で、そう言われた。
「まあ、相手が『姫』ならそんなもんか。
 で、どうだ。お前の体調の方は? まだ我慢できそうか? ん?
 なんなら、今、わたしが抜いてやろうか? 本番がNGなら、手でも口でもサービスしてやっぞ」
 とかいって、手でなにかをしごく仕草をする。

 ……『この人は、どこまで本気で言っているのだろうか?』と、いつも、判断に困る。
 今まで荒野の周囲には、いなかったタイプだ。というか、こんなのがそこいらにゴロゴロいたら、それはそれで、困るか。
「……ソッチよりも睡眠不足のが堪えますよ」
 実際、こうしている今も、荒野は、眼がしょぼついているような気がしている。
「でもあれだろ。今日はこれから東京にいって、さっきいってたヤツの仕上げする予定なんだろ?」
「そうっす。ああいうのはタイミングが重要っすから」
「わたしがお前らやり方に口出すのも何だが、アレだな、相手方に忍び込んでいって『あんたの恥部を握っているんだぜ』という証拠をわざわざ土産に置いてくるってのも……やられた方にしてみりゃ、匕首喉元に突きつけられているようなもんだろ? それも正体不明の相手に。
 よくもまあ、そんなに陰険な手を考えつくもんだ」
「基本的におれらの仕事ってぇのはヨゴレで手段を選びませんから。
 結構よくやるやり方で、その分、実行するときの意識はルーチンっす」
「そんなもんかね。じゃあ、今日はこれから夜まで帰らないんだな?」
「そうっす。なるべく早く帰ってくるようにしますが、先生が学校から帰ってもおれがまだ帰ってないようだったら、茅のことよろしくっす」
 それから、茅の髪のことを相談したりするうちにすぐに三島の出勤時刻となった。
 別れ際に、
「そうだ、先生。
『ゴルゴ』ってなんのことか分かります?」
 と尋ねたら、
「……それ知らない日本人のほうが少数派だと思うがね……」
 と前置きしてから、「非常にポピュラーなコミックブックのヒーローだ」といい、それからなにか思いついたような顔をして、「そうだ、後で注文しておいてやろう。実物もみておいたほうがいいだろ。後学のために」とかいって、「にししし」と不吉な笑い方をした。

 三島百合香の部屋から自分たちの部屋に戻ると、昨日とは異なり茅は起きていて、自分で入れた紅茶を飲みながら、テレビをみていた。相変わらず、リモコンでチャンネルをシャフルしながら。
「茅、テレビ、好きなのか?」
「好き。ジンメイと住んでいたときはビデオだけだったし、病院の時はチャンネルが少なかった。ここはいっぱいチャンネルがあるから、面白い」
 マンションの共同アンテナで、地上波以外にUHFや専用チャンネルも入っていたから、たしかに閲覧可能なチャンネル数は多い。
 荒野自身はあまり興味がなかったが、茅が退屈せずに済むのなら、結構なことだ。
「甘い物は好きか?」
「好き」
 荒野が冷蔵庫から昨日買ったケーキの残りを出すと、寝起きだというのに、茅は躊躇せずそれに手を出した。茅がフォークで一口大にしたかけらを口の中に入れると、途端に普段のポーカーフェイスが崩れ、一瞬にして締まりのない顔になる。
 その様子を観察していた荒野自身、甘い物はかなり好きな方だが、茅がそこまで露骨に顔にだすとは思わなかったので、目を丸くした。
 最初、茅の急激な表情の変化に戸惑い、次に、
『……可愛い』
 と、思った。子供や小動物に感じる類の、愛らしさだったが。

「今日おれ、用事があって一日いないから。予定よりも遅くなるようだったら、先生が様子見に来てくれると思う。なるべく早く帰るようにするけど」
 二人で朝食代わりのケーキをパクつきながら、そういうと、
「わかった。でも、わたしのお昼は?」
 と聞き返された。
「……これ食べたら、コンビニでなにか買ってくる。レンジで温めるだけのヤツ」
 先生がいうように、おれは、「いいように振り回されている」のかも、知れない、と、荒野は思った。
 茅がまたチャンネルを変えると、地元地方局のローカルニュースを映し出し、暴力団員同士の喧嘩で死傷者が出た、ということを伝えていた。
 それが、荒野が初めて確認した、「昨日の働き」の成果だった。

 在来線と新幹線を乗り継いで東京まででる、という移動距離の違いはあったが、その日やったことも、つまりは昨日やったことの繰り返しで、違ったことといえば、相手が大物になった分、侵入する先の建物も大きくなり、警戒も厳重になった、ということぐらいだった。
『……やはりルーチンだよなあ、この手の仕事って……』
 そう思いながら荒野は、昨日と、そして、今までと同じように、その日の仕事も易々とこなした。ようするに、侵入先の「大物」の汚物を、鼻先に突きつけてきたわけだ。
 涼治のいうように、この影響でまた何人か死ぬかも知れないが、顔も知らない人間の生死よりも、荒野自身と茅の身の安全を確保するほうを、荒野は優先した。
 むざむざ誰かに潰されるのを待つほど、荒野は、善人でも無能でもなかった。

 てきぱきと効率よくルーチンな仕事を片づけたおかげで、予定よりも一時間ほど早く地元に帰ることができた。
 昨日と同じように夕食の準備をしようと駐輪場に向かうと、
「ね。君、ひょっとして荒野クン?」
 と声をかけられた。
「その髪で、わかった。大樹から聞いてないかな? わたし、未樹。樋口、未樹」
 その二十歳前後の女性は、鼻ピアスの少年、樋口大樹の、姉だと名乗った。

[つづき]
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