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髪長姫は最後に笑う。 第一章(8)

第一章 「行為と好意」(8)

 茅にも了解を取り、長すぎる髪を樋口未樹に切ってもらうことになった。
 未樹にそう連絡すると、「二日後が非番の日だから、その日が都合よい」という。マンションの住所を伝えると、「なんだ。わたしん家からすぐそこじゃん」という答えが返ってきた。
「本当に、他人が来ても大丈夫か? 普通に会話できるか?」
 と、心配した荒野が尋ねると。
「大丈夫なの」
 と、茅は頷いた。
 荒野の心配も故のないことではなく、実は、茅はこれで、知られている限り、荒野としか会話していない。発見以来、他の誰とも、話していないのだ。
 樋口未樹との約束を取り付けた翌日、念のため、事情を知っている三島百合香に来て貰い、茅が実際に、あまり面識のない日常会話程度のコミュニケーションが取れるのかどうか、試してみることにした。

 三島百合香は、その日、当面の勤務先である学校から、荒野たちの部屋へと直行してくれた。
「さて、加納茅。わたしがわかるかな? 一度病院で会っているはずだが、あの時は挨拶もしなかった」
「憶えているの」
 三島百合香は挨拶もそこそこに本題を切り出し、茅は端的に返答した。
「茅が発見させる以前の事とか、いろいろ尋ねたいことはあるんだが、今まで荒野が聞いても答えてない、ということは、わたしにも答えられない、ということなのだろうな……」
「あ。先生」
 ここで、荒野が三島百合香の勘違いを訂正した。
「おれ、そのあたりのこと、全然茅に聞いてません。話したくなれば、勝手に話すだろうと思って……」
 この言葉を聞き、三島百合香は太いため息をついた。
「……まあ、たしかに、真相究明はお前の仕事じゃないからなぁ……。
 じゃあ、その真相に興味を持つわたしが、改めて聞こう。
 茅。お前が発見されるまで、お前はどういう状態にあったんだ?」
「ジンメイと暮らしていたの」
「それは、わかっている……」
 三島百合香は、なにをどう聞くべきなのか、しばらく考えた。
「その、一緒にいたジンメイは、お前にとって、どういう存在だった?」
「ジンメイはジンメイなの。わたしを育ててくれた人なの」
「つまり、茅、お前にとってジンメイとは、父親代わりみたいなものだったのか?」
「『父親』という言葉が、わからないの。昔から本でみるけど、茅は知らないの」
「では、家族……今の荒野みたいな存在だったのか?」
「今の荒野みたいな存在だったの」
「では、ジンメイを、茅、お前は、どういう人だったと思った? 怖い人だった? 優しい人だった?」
「怖いときも優しいときもあったの。茅が悪いことをすると怖くなるの」
「それは例えば、どんなときだ?」
「茅が危ないことをしそうになった時。小さいときは、刃物や火を勝手に扱おうとすると、すっごく怒られたの」
「大きくなってから、怒られたことは?」
「そんなことはないの」
 茅はかぶりを振った。
「大きくなってからは、怒られていないの。優しかったの」
「ジンメイは、今、どこにいると思う?」
「わからないの」
「ジンメイは、なぜ、姿を消したと思う?」
「わからないの」
「ジンメイが消えた後、どうしていた?」
「ずっと寝ていたの。あのまま死んでもいいと思ったの」
「食事は、ずっとジンメイが用意していたのか?」
「ずっとジンメイが持ってきてくれたの。ジンメイがいなくなってからは、なにも食べなかったの」
「ジンメイは、どういう人だと思う?」
「複雑な人なの」

 三島百合香が知りたいと思ったことは、全然、知ることはできなかった。が、茅が荒野以外の相手と、通常の日常会話程度なら支障なくできる、ということは、証明された形になった。
 そう判断した三島は、荒野に、
「これなら、問題ないんじゃないか?」
 とだけ、いった。
 もっとも、この程度の会話が不可能なのでは、三学期から始まる予定の「普通の学校生活」に適応できない、ということになるわけだが。

[つづき]
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