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髪長姫は最後に笑う。 第一章(11)

第一章 「行為と好意」(11)

「切った髪、っすかぁ?」
 甘党だという荒野が買ってきたショコラケーキと茅が入れた紅茶をいただきながら、樋口未樹はキッチンテーブルについている。荒野と茅は、並んで未樹の対面に座っている。
『……ケーキも紅茶も、おいしい……。』
 とか思いつつ、荒野の言葉に耳を傾けていたら、フォークを口にいれた茅の顔がいきなり崩れたので思わず口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
 いや、普段の凛とした表情が一瞬にして蕩けそうな笑顔に激変したので、驚いただけですが。初めてみる茅の笑顔は屈託がなくて、一挙に年齢がさがったような印象を受ける。
『……やだ……この子、可愛い……お持ち帰りしたくなる……』
「うーん。考えてなかったなぁ……。そのまま捨てようと思っていたから……。
 未樹さん、それ、お金になるんなら、持っていきますか?」
「お金になるなる。じゃあ、遠慮なく髪はいただいてくねー。
 どう、茅ちゃん。しばらくぶりに髪を切った感想は? いつから切ってなかったの?」
「頭が軽くなったの。生まれてからずっとなの」
 生まれてからずっと……なにかの冗談なのだろうか? それとも宗教上の理由かなにかなのだろうか? ……そういや、さっき「もう伸ばす必要がない」とかいっていたしな……。
 未樹は、内心の混乱が表情にでないように努力した。後で荒野を問いつめることにしよう。
『……この兄弟、面白い……』
 未樹は今日の出来事で、二人に対する好奇心がかなり膨れ上がっていくのを自覚した。
 そして、何気ない顔をつくって、
「ねぇ、荒野くん。今日、これから、なにか用事ある?
 なかったらさ、何人か呼んでぱーっと騒ごう。前々から遊ぶ約束しているし」
 と誘った。
 荒野には、断る理由がなかった。もちろん、茅も誘ったが、茅は「人が多いのは好きじゃないの」と即座に断った。
 この好機を逃すまい、と、未樹はその場で心当たりにメールや電話で召集をかける。
 未樹の友人たちと、未樹の弟、大樹の友人たちの間に連絡がまわり、数分もせずに十人以上が名乗りをあげ、あっという間に「夕方六時から、某カラオケ店前集合」という日時の相談もまとまった。
 未樹は、「一旦帰って用意してくる」といって、道具を入れたバッグと切った茅の髪を入れた袋をもって、荒野と茅の部屋を辞した。

 そして、午後五時。
「じゃあ、茅ちゃん。おにいさん、借りるねー」
 再び荒野たちのマンションを訪れた未樹は、玄関先で荒野の腕を取り、犯罪者でも連行するような勢いで部屋を後にした。
 未樹の自宅がこのマンションからさほど遠くない場所に位置することと、それに、駅まで結構あるため、「どうせならここで合流して一緒に」という話しになったからで、荒野は用意した夕食を茅がちゃんと食べるかどうか心配だったりするのだが、未樹は半ば強引に、荒野を引きずるようにして、駅前の商店街にあるカラオケ店へ向かった。平日であるため、一応登校していた未樹の弟、大樹は、学校帰りに仲間たちを集めて直接集合場所に向かうという。
「おれ、日本のカラオケって初めてっすよ」
「あー。でもなんか荒野君、歌とか巧そうだよねえ。雰囲気的に」
「いや、おれ、やったことないからよくわかんないっす。第一、日本の歌全然知らないし」
「英語の歌なんかも結構はいっているよー。それにあんなの、雰囲気で押し通すもんだから、変に身構えない方がかえっていいかも」
「そんなもんすか。でもまあ、多分、聞くほうに回ると思いますが」
「駄目駄目。ちゃんと歌わないと」
 他愛もない、意味もさほどない会話を交わしながら、結構長い道のりを二人で歩いていく。寒さも本格的にこの頃、黙って歩いていたら冷気が肌にしみこんでくるような錯覚さえ、覚える。マンションから駅まで結構距離があり、歩くのが遅いものなら三十分くらいかかるのではないか、というくらいに、遠い。その割にバスも通っておらず、荒野が拠点としているマンションの周辺は、不便な分、閑静な場所でもある。マンションで未樹と合流してから駅に向かったのも、半分は人通りの少ない夜道を、未樹単独で歩かせたくないためでもあった。

 だべりながら歩いていたためか、予定よりも時間を食い、荒野と未樹が集合場所に着いたときには、集合時間まで十分しか猶予がなかった。どうやら、荒野と未樹が最初に着いたらしいが、集合時間を一、二分過ぎた辺りから三々五々に人が集まりはじめる。未樹の友人は女性で、高卒だったり中退だったりするが、年齢は荒野が以前推測したとおり、十八才前後。次々と紹介された未樹の友人たちは、ショップ店員だったりバイトをしていたり専門学校に通っていたりして、現在の職種はまちまちだが、一様にメイクと衣装に気合いが入っていて、彼女らが集まって談笑しはじめると、「華やか」ではすまされないようなエネルギーを発散させているようで、そうした雰囲気に耐性のない荒野は若干気後れした。
 未樹の弟、大樹の友人たちもほぼ同時に集まってきていて、こちらは女性陣よりも多少平均年齢が下がる。いかにも大樹の知り合いらしく、どこか崩れたようなファッションをしていて、でも、そんな不良っぽさを意識したファッションがどこか幼さを残す顔とアンバランスで、かえって滑稽な印象を強めてもいた。
 彼らは、女性陣の賑やかさに、荒野と同じように気後れを感じているようだが、同時に憧憬とも飢餓感とも取れる表情を覗かせるところもあり、「あわよくば、お近づきに」という下心が丸見えだった。対する女性陣のほうは、年下の少年たちには、あまり「男性」を意識していないようだが……。
『……こういうところは、どこの国でも民族でも、変わらないか……』
 すっかり観察モードになっていた荒野は、そう思った。「カラオケ」とは、ようするに、この国における、健全と不健全の境目にある、この年頃の男女が集まるための口実、と、荒野は理解する。日本文化に疎い荒野は、「合コン」という語を知らなかった。
 未樹や大樹が荒野のことを改めて紹介すると、女性陣は荒野の整ってはいるがエキゾチックな風貌に最初引き気味になり、荒野が流暢な日本語でしゃべりはじめると、今度は途端に親しげに話しかけてきて、質問攻めにした。大樹の友人の少年たちは、あらかじめ大樹によっていろいろと色をつけた予備知識を植えつけられていたようで、恐れとも畏れともつかないような表情を浮かべていたが、しばらく会話を交わすうちに、荒野が気さくで人当たりのいい性格である、ということを理解すると、その後はすっかりタメ口になった。
 しばらくカラオケ店の前でしゃべり込んでいると、誰からともなく「そろそろ中に入ろう」といいだし、十数人ほどに膨れあがった若い男女の集団は、店内へと移動した。

[つづき]
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