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髪長姫は最後に笑う。 第一章(12)

第一章 「行為と好意」(12)

 平日のまだ宵の口、ということもあって、チェーンのカラオケ店は、二十人くらい入れる大部屋に荒野たちを入れてくれた。
 交友関係が閉じがちな地方都市なので、集まった男女の半数ぐらいが直接的間接的に知り合いで、でも「某の後輩」とかその程度の「かろうじて名前は知っている」程度の浅い関係しかない者が大半であって、ちょうどいい具合にうち解け、ちょうどいい具合に緊張している。軽く自己紹介をしあいながらマイクが廻り、未成年者の集まりであるにもかかわらず、当然のようにアルコール飲料を含む飲食物が内線でオーダーされた。
 この中では新顔であり、日本人としてはかなり変わった風貌の荒野に興味を示す者は多く、最初の方は質問責めに近い状態になったが、荒野が一つ一つの質問に丁寧に答えているうちに座が盛り上がり、声が大きくなり、すぐに通常の会話があまり成立しないような状況になったこともあり、荒野はすぐにこの騒ぎの中の「その他大勢」として埋没することになった。

「未樹の友人たち」と「大樹の友人たち」との間では少し年齢差があったのが幸いしたな、と、荒野は思った。大樹の友人たちは、異性に接することに飢えている学生で、半ばおちゃらけた風を装い、はしゃぎながらも未樹の友人の若い女性たちになにくれと接触しようとする。しかし、女性陣はそれをあまり真剣に受け止めず、いいように受け流し、あしらっている。そうしながらも、この騒ぎ自体はしっかりと楽しんでいる……というふうに、荒野にはみえた。
 それだけの人数がいると、ことさらにはしゃいだりマイクを握ったりする者もそれなりにいて、観察モードに入って静かになった荒野が目立たない程度の喧噪が、室内に常時維持された。
 荒野は自分ではマイクを握らない分、「砕けた自分」を演出するため、あえてアルコールを口にしていた。荒野は、日本人の平均よりはよほどアルコールに強かったし、自分の適量も弁えていたが、念のために最初の一、二杯はビール、あとはサワーとか軽いものをオーダーしてちびちびと舐め、飲み過ぎないように注意した。
 むしろ心配になったのは、妙にはしゃいでいる未樹の弟の鼻ピアスの少年、大樹で、一行の中では年少に分類される年齢であるのにもかかわらず、がぶがぶと酒を飲み、頻繁にトイレにたったり自分の携帯の液晶を覗き込んだりしていた。
 顔を真っ赤にして、かなりハイテンションになっている大樹とは反対に、荒野はニコニコと愛想を振りまきながら、静かに周囲の様子を伺っていた。

 荒野にとってはあまり身近なものではない最近流行の日本のポップソングが延々と賑やかに歌われるているうちに時間はあっという間に過ぎ去り、一度内線で店の者から「延長しますか?」という電話がかかってきたようだが、幹事役の未樹は周囲の連中に意見を求めず、延長することに決めたようだった。たしかに、あまり度を越さない程度に、ではあるが、集まった連中はそれなりに盛り上がっていて、ここで中断しなければならない理由もなさそうだった。
 そんな感じで盛り上がっている最中、不意に、乱暴に外からドアを開ける音がした。柄の悪そうな、剣呑な表情をしている男たちで、年齢的にいえば、大樹たちよりも未樹たちに近かった。つまり、二十才前後にみえた。

 バタン、というドアを開ける大きな音がした途端、当然、中にいた者は反射的にそちらを向いた。
 その乱入者たちの中に、荒野にも身に覚えがある顔が紛れていたのを確認した荒野は、平静にテーブルの上に手を伸ばし、オーダーした飲食物の中にあった、「柿の種」をひとつかみ握り、中のアラレとかピーナッツとかの粒を、乱入してきた男たちに向かって、親指で弾きはじめた。
「……ゴゥラァ……」
 威嚇の罵声を発しようとしていた、先頭にいた男の額に、荒野が弾いたアラレが高速度でぶつかり、瞬時に砕け散った。間髪をいれず、第二弾、第三弾が、男の額に的中し、砕ける。
 男は、「自分の身になにが起きたのかわからない」といった怪訝な顔をして立ち止まり、すぐに、ぐらり、と上体を揺るがせて、膝をついた。
 後続の男たちが何事か、と、膝をついた先頭の男に駆け寄ろうとしたところで、荒野は、同じように、前から順番に、「柿の種」を額に打ち付ける。
 荒野は部屋の奥まった場所にいて、薄暗い中、親指だけで「柿の種」を打ち出していたため、男たちが次々に膝や尻餅をついている、という事と、荒野の存在を結びつけて考える者はいないようだった。

 十人くらいで部屋に乱入しようとしていた男たちは、部屋に入ろうとドアに近づいた途端、ぐらりとゆれて、頭を抑えて倒れた。荒野が、指弾を使って額越しに脳みそを揺さぶり、軽い脳震盪を発生させているせいだが、それを人垣の奥の、離れた場所にいる荒野のせいと思う者はなく、一様に「薄気味悪さ」を感じるばかりで、半分くらいの人数が床に座り込んだ所で、荒野たちがいる部屋の入り口に近寄る者がいなくなった。
 乱入しようとていた男たちは立ちすくみ、室内にいた男女もなにが起きたのかわからず、声を殺して事態の推移を見守っている。
 人の声は途絶え、カラオケのBGMだけが空々しく響いていた。

 大樹が「写真だよ、写真。写真とってメールでばらまけ!」と叫びながら、自分でも携帯のレンズを向けてフラッシュをたく。大樹の友人たちもそれに続き、フラッシュの閃光が連続しはじめたところで、立ち往生していた人相の悪い男たちの間に、明らかに狼狽が走った。
「誰か、内線で店の人に連絡して。なんか、酔っぱらって具合が悪い人たちがいるらしいから」
 ことさらのんびりとした口調で荒野がいい、人垣をかき分けて、座り込んで頭を振っている男に手を差し伸べた。
「大丈夫ですか、お兄さん。なんなら、救急車呼びますか」
 数日前、目立つ風貌の荒野を呼び止めて路地裏に連れ込み、因縁を吹きかけきて、そして、荒野に返り討ちにあった男の目をまともに覗き込んで、にっこりと笑った。

 彼らは、大樹が「白柊高の」といっていた連中のようだった。
 荒野の顔を認めた男は、ひっ、と、息を吸い込んで喉をならし、座り込んだまま、ばたばたと手足を振って後ずさった。

 先頭の男が逃げ腰になると、彼らはすぐに蒼白な顔をして、先を競うようにして、荒野から逃げはじめた。

[つづき]
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