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髪長姫は最後に笑う。 第一章(13)

第一章 「行為と好意」(13)

 樋口大樹がいちはやく反応し、友人たちに「写真を撮ること」を指示したことで、荒野は、「白柊高」と呼ばれた男たちの襲撃が偶然ではなく、あらかじめ仕組まれたものであることを確信した。
 クスリを扱っている「組」の事務所がこの地域から撤退した今、その組がバッグにあることで大きな顔をしていた「白柊高」の権勢が目減りしていたであろうことは、十分に予測できた。その事務所を潰した男、という噂が飛び交っている(らしい)荒野を不意打ちにでもできれば、たしかにそれなりに面目を施すこともできただろう。
 だから、彼らの襲撃が、彼ら自身からでた動機に基づくものである、ということ自体は、否定しない。
 が、現在、荒野が「しかじかのカラオケ店内のしかじかの室内にいる」という、より具体的な情報を間接的に彼らに提供したのは、おそらく大樹なのだろう。
 たぶん、大樹は、白柊高の面々と繋がりがありそうな共通の知人、それも、できるだけ多い人数に「今、ここに荒野がいる」という情報を故意にばらまいた。
 大樹が頻繁にトイレに立ったり携帯の画面をチェックしたりしていたのは、流した情報がどこまで浸透し、本来の目標である、白柊高の連中にちゃんと伝わっているのか、探りをいれていたのに違いない。

 襲撃した側は、室内でくつろいでいるところを急襲すれば、それに、いざとなれば同席した女性たちを人質に取れば、どうにでもなる、と高をくくっていたのだろうし、襲撃されるように仕組んだ大樹は、初めてであった時の荒野の落ち着き払った言動から「荒野は、かなり強い」と判断した。
 万が一、見こみ違いで荒野が遅れをとるような事があったら、友人たちとともに加勢して、逆襲でもするつもりだったのだろう。「高い可能性で、このタイミングで奇襲がありうる」と身構えているだけでも、襲撃される側は、なにがしかのアドバンテージを得るものだ。
 そして、返り討ちにした白柊高のヤツラの醜態をカメラに収め、付近の不良仲間に流すことで、彼らの面子を潰す、という算段だったに違いない。

 襲撃した側、襲撃させた側、双方にとって誤算だったのは、彼らの予測をこえて、荒野が「襲われること」に対して、免疫があったことだった。

 強いか弱いか、といえば、もちろん、ほとんど生まれた時から修練を積まされている荒野は、滅法強い。
 だが、それは、武道家やスポーツ選手のように、外部に自分の長所を誇示するための強さではなく、自分や自分の身の回りの者たちを最小限の犠牲で守るための強さだった。だから、間違っても、自分から目立つような真似は、しない。今回のように不意の襲撃に際しても、できるだけ自分が目立たないような、可能なら「荒野がなにかをした」ということさえ悟られないような方法を、採用する。
 たぶん、樋口大樹が一番期待していたのは、荒野一人(それが無理なら、荒野と大樹の友人たちの連合軍)に襲撃者側がぼこぼこにされているシーンだったはずで、でも実際にあったのは、「どこかの酔っぱらいが、部屋を間違えて入ろうとして、勝手に尻餅をついて、荒野が助け起こそうとすると、なぜか悲鳴をあげて揃って逃げだした」という図である。
 少なくとも、背後の事情を知らない傍目には、そう見えたはずだった。
 これはこれで情けのない場面ではあっただろうが、周囲に「白柊高のヤツラのへたれっぷり」をアピールし、同時に、「荒野の強さ」と、「荒野が大樹たちの背後にいる」ということを印象づける、という大樹の一番の目的は、達せられていないことになる。
 第一、出鼻を挫かれた連中は、自分らが白柊高の人間であることさえ、名乗る間もなく退散したから、大樹の目論見は、根幹の所で、成就しなかった、ということになる。

 やはり、「加納荒野」という人材は、「不良学生同士の喧嘩」みたいなrチンケな舞台で活躍するのには、役者の格が違いすぎた。

「大樹君」
 襲撃者たちが逃げ去った後、席に戻る際に、荒野はは、大樹の耳元で、大樹にしか聞こえないような小声で、囁いた。
「こういうこと、おれ、今後、協力しないから」
 ひっそりと目立たず、これからこの土地で「一学生」として暮らしていく……つもりの荒野は、地元不良少年たちの勢力争いに荷担するつもりは、さらさらないのである。
 その時の荒野は、依然としてにこやかな愛想笑いを顔に張り付けていたが、耳元で囁かれたほうの大樹は、逃げ去った襲撃者たち以上に蒼白な顔をして、コクコクと忙しない動作で頭を何度も縦にふった。

 利用しようとした荒野が、自分の手には余る存在だということを、肌で理解したのだろう。

 その後は、さすがに以前ほどに場が盛り上がる、ということもなく、小一時間ほどして、解散、ということになった。
 その間に大樹は、周囲の制止にも耳を貸さずガブガブ酒を飲み続けてすっかり悪酔いし、荒野が肩を貸して、未樹と一緒に家まで送る羽目になった。

[つづき]
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