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彼女はくノ一! 第一話 (19)

第一話 ある日、くノ一が落ちてきて……。(19)

「……ああ……もう……もう……」
 結合部の潤滑上体が良好になると、香也のほうが保たなくなってきた。
 楓のそこはすっかり湿り、温かくて、強い力で、挿し込まれた香也のモノを締めつけている。もともと、堰を切って漏れようとする精をなんとか自制していたような所があって、楓が協力的になったことでその堰が決壊しようとしていた。
 むしろ、初めてにしては暴発もせずよく保った方、なのだろう。
「ごめん! でちゃう!」
 小さく叫ぶようにして、香也は楓に差し込んでいた分身を抜く。
 ぴゅる、という感じで、上を向いた香也の先端から、白い精が漏れた。
 一度漏れるとそれは、際限なく面白いように放出して、向かい合った香也と楓の体を濡らした。
 むっとした、動物性の臭いが、二人の鼻をついた。
『……これが……男の人の……温かい……』
 お腹と鼻に香也が放出したものを感じながら、楓は、奇妙に冷静になっていた。楓がようやく苦痛以外の感覚を得始めていた矢先に、香也が先に終わってしまった形だが、楓に不満があるはずもなく、むしろ、早めに行為が終わったことに軽い安堵を覚えていた。

 楓は、自分が打算から香也との関係を迫ったことを、自覚していた。
 香也は、楓の打算を見透かした上で、その誘惑を振り払うことができなかった。

 楓と香也は、お互いに引け目を感じながら、不器用ながらも最初の行為を終え、対面する相手に対して、好意しきもを持ちはじめていることを自覚し、それを伝えようとほぼ同時に口を開きかけた。
「……あの……」
「……あの……」
 声が重なり、二人とも困ったような顔をして、途中で言葉を閉じる。

「ごめん!」
 少し間をおいて、香也は叫ぶなり、頭を下げた。
「こんな始まり方で! でも、ぼく、君がどうしてこういうことしたのかわかるような気がするし……」
『……君は、昔のぼくみたいだったし……』
「正直、その、我慢できなかったし……」
『……ぼくはガキだ……』
「こういうことやっちゃってからこういうのもなんだけど、その、ぼくたち、多分、仲良くなれると思う!」

 いきなり頭を下げられた楓のほうが、面食らってしまった。
『……この人は……』
 香也の精液で汚れているのにもかかわらず、楓は、正面から向き合って、香也の体を抱きしめる。

「頭を下げないでください。迫ったこっちが恥ずかしくなります」
 非難する口調ではなく、笑いを含んでいる。楓の、自嘲かも知れないが。
「会ったばかりで、あなたのこと、よく知らないけど……」
 楓は、頬を香也の胸にすりつけるようにして、香也の体を抱きしめる。
「よく知らないまま、焦ってこんなことしちゃいましたけど……」
『……あなたは、思っていたよりもずっといい人で……』
 楓は、香也に抱きついたまま、顔をあげ、まともに香也と視線をあわせ、そして……。
「……なんだか、あなたのこと、好きになれそうです」

 笑った。

[つづき]
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