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彼女はくノ一! 第二話 (2)

第二話 ライバルはゴスロリ・スナイパー!?(2)

「……あ、……ああ……」
 仁王立ちになっている松島楓に半ば気圧されながら、加納荒野は、屋上からこの家を望んだときの情景と、今や才賀の者を判明した少女をとらえた時点で、この家にいた人々の配置を思い返す。
 狩野真理、松島楓……不在。
 羽生譲、三島百合香……この居間。ただし、マンション側には窓がないため、狙撃は不可能。
 狩野香也……庭にある、アトリエ代わりのプレハブに。
 どう考えてみても、事実上、あの時点で狙撃の対象となりうるのは、「狩野香也」しか該当しない。
「やっぱ、他には考えられないな……絵を描くほうの、香也君だ」
 音だけとはいえ、自分と同名の他人が身近にいる、ということは、これではなにかと面倒くさい。

 そのことを確認すると、楓は膝をついて、荒野に向かって平伏した。
「なにとぞ……」
 平伏しながら、楓はいった。やるかたのない憤懣が、声から滲みでている。
「……この女の身柄を、こちらに引き渡して頂きたく。
 香也様を害しようとする者は、この楓が許しません!」

『……うわぁあ……怒っているよ、くノ一ちゃん、ガチでめっちゃ怒ってるよ!……』
『……愛だな、これは……しかし、くノ一ちゃん、本気で怒るとすっげぇー迫力あんのな……今度から、あまりからかわないようにしよう……』
 羽生譲と三島百合香の外野コンビは、急激に緊迫したその場の空気に耐えきれなくなったのか、こそこそと内緒話しをしはじめる。

「……うーん……」
 一人、相変わらずくつろいだ様子の香也は、少し考え込んだ。
「才賀のおっさんも、こっちでお仕置きしてやれ、とかいってたからなあ……。
 狙撃、というのはやはりちょっとしゃれにならんから、楓に任せてもいいかなぁ……。
 あ。でも、痛いの禁止な。暴力、駄目。いじめかっこわるい。
 あとは……そうそう。もう一人の香也君の監督を仰いで、彼がいい、という範囲内で、行いなさい」
 荒野は、もう一人の香也の、ぽややーんとした緊張感のかけらもない顔を思い浮かべる。彼なら、そんな酷いことはさせないだろうし、楓も、彼のいうことは聞くだろう。
 ……と、その時は、そう判断した。そう判断したことを、荒野は後になって後悔することになる。

「はっ! では、失礼します!」
 いうが早いか、楓は、畳の上に転がったままの才賀孫子の体を軽々と抱えて、玄関のほうに遁走した。狩野香也がいるプレハブへ、と、向かったのだろう。

「あれ、楓ちゃん?」
 入れ違いに、狩野真理と加納茅が入ってきた。
「ね、今、すっごい勢いで出ていったの、楓ちゃんじゃなかった? なんか、大きな黒い物体を抱えていたようだけど……」
 羽生譲と三島百合香は、真理の質問に答える気力がなかった。それ以前に、「ゴシックロリータ・ファッションのスナイパー」の正体についてよくわかっていないので、説明のしようがなかった。
 全ての事情に通じている荒野は、素知らぬ顔で自分でいれたお茶を飲んでいる。
「それよりも奥さん。
 なんか、うちのじじいの知り合いが、こちらに来るって」
「加納君のお爺さま……の、お知り合い?」
 当然のことながら、真理は、首を傾げた。
「家なんかになにのご用なのかしら?」
「……うーん。
 実は、そのじじいの知り合い……才賀のじっちゃんの姪御さん、ってのが、その……今、楓が抱えていった、黒い塊なんだ」
 真理の目が、点になった。

 荒野が真理に経緯を説明しようと口を開きかけた、ちょうどその時、……。
 荒野の携帯が、鳴った。
「げっ。じじい!」
 携帯の液晶を確認した荒野が叫ぶ。
「なんだってこのタイミングで……」
 ぶつくさいいながらも、出る。
「はい。こちら加納荒野。狩野さん宅でくつろがせていただいている最中であります!」
『こちら加納涼治。くつろぎ中悪いな。今才賀から連絡があった。あそこの娘がなんか粗相をしたそうじゃないか。奴も今からそちらに謝りにいくと息巻いていたぞ』
「……そうっすけど……」
 荒野の目つきがうろんなものになる。なにを言い出しているのか、このじじいは。
 第一、「謝りにいく」と「息巻く」が同じ文章内に混在しているのは、おかしくね?
『わしもな、今ちょうど税務関係の処理をしにこっちの市に出ていた所でな。
 もともとそちらの加納家には一度ご挨拶に伺おうと思っていた所だし、久々に才賀の顔や茅の顔もみてみたいし……』
 ……をいをいをい……。
 荒野は、その場で頭を抱え込みたくなった。
 ……なんで、あんたらみたいなVIPが、こんな平々凡々たる民家で顔をつつきあわせなけりゃならんのか……。
『そういうわけだから、今からわしもそちらに向かう。
 そう、真理さんにお伝えしておいてくれ。
 それから、荒野。逃げるなよ。あと、寿司くらいとっておけ』
 涼治はいいたいことだけをいうと、一方的に通話を切った。
 荒野は、二、三秒手元の携帯電話を見つめてから、
「……真理さん、うちのじじいも、これからこっち来るって……挨拶がしたいし、才賀のじっちゃんにも会いたいって……」
 その時の荒野の声は、見事に棒読みだった。
「加納涼治」は、荒野が苦手意識を持つ、例外的な存在だった。
「え? 荒野君のおじいさんが? いけない! なにか準備しないと!」
 荒野は、はははは、と、乾いた笑い声を上げた。
「えー。うちのじじいからの伝言です。『寿司でもとっとけ』って。
 どうせじじいの払いですから、ぱーっと特上、気前良く頼んじゃいましょう」
「……そ、そう? ……今、ケーキ買ってきたし、みんな揃っているからお茶にしようかと思ってたんだけど……え。なに? 茅ちゃん?」
「……ケーキ、食べるの」
 それまで我関せず、という感じでぼうっと突っ立ていた加納茅が、狩野真理の服を引っ張って、珍しく自己主張をしていた。
「ケーキと他の食べ物は、別なの……」

[つづく]
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