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彼女はくノ一! 第二話 (3)

第二話 ライバルはゴスロリ・スナイパー!?(3)

 狩野香也はキャンバスに向かい、高速度で筆を動かしている。香也の脳裏には、配色や筆遣いなどの細かい部分まで、今描いている絵の完成図がくっきりとイメージできていて、それを現実に出現させるための最速、最短の手順を踏んでいる。香也自身の感覚としては、「創作」というよりは、「リピート」に近い。香也の頭は、漠然とした予想図ではなく、完成した絵と、それを完成するためにの具体的な手順が微細に「見えて」いて、その手順を身体的に再現しているだけだからだ。
 だから、今の香也の筆捌きには迷いはない。端から見れば大胆にもぞんざいにも見えるダイナミックな動作で絵の具をキャンバスになすりつけている。
 こういう時の香也の集中力は半端なものではなく、完全に自分の世界に没頭している。宗教的な「無我の境地」の感覚に近いものが、あるのかもしれない。こうした、自分自身の存在さえ意識の外に置くまでの極端な集中が、香也は嫌いではない。いや、こういう時間があるから、今まで絵を描いていられたのだとさえ、思う。こういう、「自分を忘れられる時間」があれば、こそ……。

 狩野香也は、自分なんかいなくなってしまえばいい、と思うほどには、自分が嫌いだった……。

「香也様!」
 そうした、香也にとっては貴重な無我の時間を破る、乱入者があった。
 みれば、入り口から、なにか「人らしきもの」を抱えた松島楓が、入っていくる。楓は香也にいった。
「ここに香也様を狙撃しようとした不逞の輩がいます! この女、いかように始末をつけてやりましょうか!」
 この少女らしくもなく、可愛い顔に、怒気と殺気をありありとうかべ、凶悪な表情を形作っていた。

 当然のことながら、突然楓にそういわれても、子細がよく理解できない香也は、しばらく手を止めて、ぽかんと口を開いていた。

「まあまあ。楓ちゃん、ちょっと落ち着いて。深呼吸。
 あ。今お茶でも淹れるから……」
 お茶といっても、安物のティーバックをマグカップに放り込み、ガスストーブの上に置きっぱなしにしている薬罐のお湯を注ぐだけの代物なのだが。
「あ。それ、わたしがやりますぅ」
 香也が椅子から立とうとすると、楓は香也を手で制して、「持参」してきた才賀孫子の体を空いた椅子の上に座らせる。さすがに学校まではついていかないが、楓は、香也が家にいる時間のほとんど、香也にくっついてまっわっていたので、香也が居ることの多いこのプレパブの中の物の配置も、ほぼ把握しつつある。
 慌ててマグカップを二つ取りだし、お茶の準備をはじめた楓に、香也が声をかける。
「カップ、もう一つ。この子の分も。で、この子が、どうしたって?」
 なにやら「狙撃」とかいうような不穏な単語を聞いたような気がするが、きっと香也の気のせいだろう……。なにせ香也は、財政界の重鎮でもなんでもない、一介の青二才、平凡な学生である。
 そんな自分をわざわざ亡き者にしようとする者がいる、という非現実的な現象を、すんなり事実として受け入れられるわけがない。
「そうそう。大変なんです、香也様! この女が、お隣りのマンションから香也様を狙撃しようとしていたんです! 加納様が未然に防いでくださったからいいようなものの……」
「加納様、というと、もう一人の荒野さんね……うーん……。彼がそういったんなら、ガセではないんだろうなぁ……でもなあ……ぼく、わざわざそんな狙撃をされるような、大物じゃないぞ?
 ね。どうしてそんなことをしたのか、その辺の事情をこの子に直接聞いてみない?」
「甘いです! 甘過ぎます! この女、香也様を亡き者にしようとしていたんですよ! 今は自由にするべきではありません! そんなにこの女と話したいんですか? わたしのことは避けているのに! 香也様、冷たいです! 冷たすぎます!」
 興奮した楓に詰め寄られ、香也は内心でけっこう取り乱した。楓の剣幕も、前半と後半とでは微妙に趣旨が違っている。後半の部分は、下手に突くと香也自身の身に火の粉が降りかかってきそうな気がした。
「まままま。落ち着いて落ち着いて。楓ちゃん」
 内心の動揺を隠しながら、それでも香也は楓を制しようとする。もともと、絵を描くこと以外には、とても不器用な少年なのである。
「とにかく、もっと詳しい事情、聞かせてよ」
「知りません!」
 楓は、ぷいっと横を向いてしまう。
「あー。楓ちゃんが詳しいこと知らないんなら、この子に聞こうよ……」
「そんなにこの女と話しがしたいんですか? 香也様!」
 楓は、泣きそうな顔をして、傍らに座らせた才賀孫子を指さす。
 その楓の動作をたどって、初めて、香也は身動きできない才賀孫子をまじまじとみる。
『人形みたいな子だな』
 というのが、香也の第一印象だった。加納茅が日本人形なら、この子は西洋風のアンティーク・ドールだ。

 その頃、狩野家の内部では……。
「いやー、こいつ。甘いもんを食べるときは、顔が変わるんですよ……」
 荒野のその言葉が発端となり、ケーキを前にした加納茅を取り囲み、その他の面々が固唾を呑んで見守っていた。
 自分の表情が激変する、という自覚を持たない加納茅は、しばらく周囲を不思議そうに見渡していたが、目前に置かれたケーキの誘惑には対抗できなかったらしく、ケーキをフォークで切り分け、その欠片を口のなかに入れた。
 途端、茅の顔が、蕩けるように笑み崩れる。
「萌えだ! これこそ萌えだ!」
「写メ、いや、デジカメ、いや、ビデオを持ってこい!」
「茅ちゃん今日からうちの子になっちゃいなさい是非そうしなさい!」
 一斉に歓声をあげる女性陣を、茅は、再びきょとんとした顔をして見渡していた。

 再び、プレハブ内。
「どうせ香也様はわたしのことなんてなんとも思ってないし、どうでもいいんですよね!」
 いつの間にか、加納香也は松島楓に詰め寄られている。
『……なんでそうなるのか……』
 と、このような立場に置かれた男性が一様に感じる理不尽さを、この時の加納香也も感じていた。
「……いや、だから、あの、それはねえ……」
 香也は、しどろもどろになりながらも、それでも懸命に抗弁しようとする。
「別に楓ちゃんのことが嫌いだとかそういうことではなくてだね、ああいう始まり方ってすっごく不自然でしょ? だからね、ちょっと距離を置いて……」
「そうです。わたしが半ば無理矢理香也様を誘惑したんですでもだからといってそんなに露骨に嫌わなくても……」
「だから!」
 温厚……というより、普段、あまり感情を表に出さない香也も、楓のききわけのなさに、半ばキレかかっている。
「好きか嫌いかっていったら、好きだって! 嫌う要素ないし! どんな形であれ、楓ちゃんみたいに可愛い子に言い寄られたら、そりゃ悪い気しないよ! でもね……」
「じゃあ!」
 香也の言葉を強引に中断させ、楓は香也ににじり寄った。
「じゃあ、そのことをちゃんと、証明してください。信じさせてください!」
 楓は、香也との距離を詰めていく。

『……なんなの……こいつら……』
 荒野に針をうたれ、身動きできないまま放置され、強制的に痴話喧嘩を見せつけられた才賀孫子は、ただひさすら呆れかえっていた。

[つづき]
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