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髪長姫は最後に笑う。 第一章(18)

第一章 「行為と好意」(18)

「あはは。荒野君の、すっごく元気ー」
 避妊具の包みを片手に帰ってきた未樹は、そのまま荒野の目に跪き、股間に顔を近づける。照れ隠し半分、おどけた調子で、そういう。
 片手でそっとつかみ、先端に口づけをすると、荒野は「うっ」とうめいた。
 敏感だ、と、未樹は思った。

 未樹はよく遊んでいるようにみられるが、その実、本人もいうように男性には奥手のほうで、援助の経験もないし、「経験した人数」と「つき合った男性の数」がぴったっり一致する。自分から迫ったのは荒野が初めてだし、迫られても、気に入らない、つまり、長くつき合えそうにない男とは、絶対に、関係しない。
 だから、男を喜ばせるテクも、実はあまりよく知らない。

『……でも……』
 未樹は思う。
『今日は、初めての子を教えるおねーさんだからなー』
 多少、無理をして背伸びしても、荒野のいい思い出になりたい、とは、思っている。

 できればこのまま荒野とつき合いたいのだが、茅と荒野の間に割り込んでうまくやっていく自信は、なかった。
 自信、といっても容姿などの表層的なことではなく、あの二人の間だけに漂う、濃厚な空気の中に、自分が入り込む隙はないように思えたのだ。
 未樹は、ことあるごとに「自分はバカだから」という意味のことを、いう。口癖のようなもものだ。弟の大樹も、ここ数年はその口癖を受け継いでいる。未樹の、学校時代の成績がわるかったのは事実だ。が、それ以上に、未樹は、物事を論理的に解析する習慣がなかった。ほとんど、必要なかったからだ。
 未樹は人の表情を読むのがうまく、対人関係での悩みを抱えることがほとんどなかった。誰に、どのように接すればうまくいくのか、ほとんど直感的に「わかる」。だから、理屈をこねて物事を考える習慣も、自然、身に付かなかった。
 学校の勉強だけではなく、ニュースや新聞で取り上げるような政治や経済などの話題にも、未樹は全然興味がわかなかったし、顔見知りの友人や知人たちの間だけで完結している「未樹の世界」では、正確に相手の望むことを察することができる感受性と観察力、それに洞察力があれば、たとえ「バカ」であっても、全然不自由することはなかった。
 だから、未樹は、物事を理屈で考えることをやめ、自分の勘と感受性のみを指針に生き続け、「わたし、バカだから」と口癖のようにいう。その口癖のままに、自己認識をしている。
 しかし、それは別に卑下しているわけではなく、「わたし、バカ」なままでも、未樹は、容易に、ほぼ「正解」に近い選択をし続けていることも、自覚している。
 そんなようなわけで、未樹は、今までの経験から、「わたし、バカ」のままでいいと、思っている。

 その、だいたいにおいて、的確な選択を告げる未樹の本能が、荒野に男性を感じている未樹の好意を押しのけて、「荒野たちにはあまり深入りするな」と、告げていた。警鐘、といってもいい。
 だから、たぶん、荒野とは、これっきりの関係だろう、と、未樹は思っている。

 同時に、「荒野には、いい女として記憶されたい」という欲も、ある。女としての見栄、なのかも、知れない。
 そんな理由で、未樹は、普段つき合っている同年代の同性の友人たちよりは、格段に少ない性体験の記憶を総動員して、荒野を喜ばせようとしている。

 もっとも未樹自身は、以上のようなロジックを明確に意識化することはなく、ぼんやりと、いつも通りに「すべきだと思うこと」を行っているだけなのだが。

 そうした、「表面的なシンプルさ」を持ち、半ば本能的に自分の行動を選択する未樹のような人間は、今まで荒野の周りにはいないタイプだった。
 だから荒野は、異性として、という以前に、人間として未樹に興味を持っている。
 で、ありながらも、肌を密着させ、愛撫し、こうして自分の性器がなま暖かい口の粘膜に包まれれば、荒野の男性の部分は否応もなく反応すし、未樹を「女性」としか認識しようとしない。
 荒野の男性器に対する、未樹の口による愛撫は、正直、特に気持ちが良いというわけではなかった。
 が、未樹が荒野に一方的に奉仕する格好をとることで、荒野の中に休眠していた征服欲が、満足する。荒野を喜ばせようと懸命になっている未樹の姿をみて、荒野は、初めて自分にも「他人を服従させようという倒錯的な欲望」があることを、認めた。
『なるほど……』
 荒野は思った。
『単純に、皮膚同士を刺激しあうだけの動物的な行為、なのではなく、もっと複合的な、心理ゲーム的な要素も含んでいるわけか……』
 それなら、世の大人たちが、性行為にあれほどの時間と労力を裂くのも、わかるような気がする……。

 一見、いつも無邪気な笑顔を浮かべている荒野という少年には、そうした分析的な思考を弄ぶ面も、多分にあった。未樹の「表面的なシンプルさ」とは対局にある資質で、茅の存在さえなかったら、いや、茅よりも前に荒野と未樹が知り合っていたら、案外いいカップルになっていたかも知れない。

[つづき]
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