第二話 ライバルはゴスロリ・スナイパー!?(4)
『…………ううっ……こいつら……』
今や抱擁し合って熱いベーゼを交わしてはじめた狩野香也と松島楓を目の当たりにしながら、それでも才賀孫子は彼らから目を反らすことも、目を瞑ることもできないでいる。
なぜなら、加納荒野に針をうたれ、自分の意志で体を動かすことを封じられているからだ。今の才賀孫子が自由にできるのは、わずかに眼球を動かすことのみで、瞼の開閉すら、自分の意志ではできない。眼球の表面が渇きはじめ、とどめなく涙が分泌される。一時的な現象とはいえ、こうした視覚系の異常を強制されることは、スナイパーにとってはそれだけでも屈辱的だった。
加えて、……。
「……はっ……ふっ……うっ……やっと……やっと触ってくれましたぁ……」
狩野香也の顔からようやく少し離れた松島楓は、上気した顔で、狩野香也を見上げている。狩野香也の口と松島楓の口の間によだれが糸を引いて連絡している。
明らかに興奮して上気している松島楓の顔は、輝いていて……。
「……わ、わたし、養成所でもミソッカスだったし、一緒だったみんながどんどんお仕事を紹介されていく中、最後まで取り残されて……それで、それでですね!
やっとお仕事貰えたと思ったら、初っぱなから致命的な勘違いしちゃって、すっごく不安になって、でもここの皆さんはみんな楽しくていい人たちばかりで、ここから離れたくなくって……」
「いいから!」
狩野香也は松島楓の言葉を遮って、再度、楓を抱く腕に力を込める。
「もうそういう心配しなくて、いいから! 無理しなくていいから! 荒野さんだって認めてくれているし……」
「……香也様は?」
ぽつり、と、楓が呟く。
「……香也様ご自身は、どうなんですか? わたしのこと、どう思っているんですか?」
「いてよ! ここに居てよ! このままずっと側に居てくれよ!」
楓は、しばらく目をパチクリしていたが、すぐになにか気づいたような顔をして、
「……えへ。えへへへ……」
と、照れたような笑いを顔に浮かべはじめた。
『…………馬鹿らし……』
強制的に一部始終を見せつけられた才賀孫子は、呆れるよりほかしようがなかった。
またまた、狩野家の居間。
「そうそう。もうすぐクリスマスでしょ? パーティー・グッズの売り場でね、茅ちゃんが物欲しそーにみていたから、こういうの買ってみたの!」
ぽん、と手を叩いてそういった狩野真理は、買い物袋の中からあるアイテムを取り出す。
カチューシャ……なわけだが、かなり特殊な装飾がなされている。
「……ね、ね、ね……」
狩野真理が取り出したアイテムの正体を察知した三島百合香と羽生譲の間に戦慄が走る。
「……猫耳装備だとぉ!」
「隊長、凶悪です! これはかなりキます! キすぎます!」
「餅つけ! じゃなかった落ち着け! こうなればもはや吶喊あるのみである!
……さー、茅ちゃん、今度はこの可愛いのをつけて、食べてみよう」
この時、ピンポーン、と、インターホンが鳴り響いた。
「ごめんください。
こちらにお世話になっている、松島楓の縁者ですが」
どうもどうも。初めまして。お世話になっております。などの社交辞令大会を玄関先で真理と開催しはじめる。
一通りに挨拶が終わると、
「つまらないものですが」
といって、加納涼治は菓子折を差し出す。
この近辺では一番の味、という定評のある洋菓子屋「マンドゴドラ」の、ケーキの詰め合わせだった。
『……それ以上はいくなよ……いくんじゃないぞ……』
という才賀孫子の願いも虚しく……。
「……香也様の、大きくなってる……」
松島楓は、密着している加納香也の股間をなでさすりはじめた。
「……香也様のここ、きつそう……今、楽にしてあげますからねー……」
じじじ、と、ことさらゆっくりと、香也のジッパーをおろしはじめる。
「っちょ、っちょっと、楓ちゃん……こんな所で……」
香也も口では一応そういうが、楓の行動を本気で阻止しようとはしない。
「いいじゃないですかぁ。結局、あれから全然触ってくれませんしぃ、わたし、こんなことくらいしか香也様にできることありませんしぃ……」
楓は鼻にかかった声でそういって、開けたジッパーの中に指をいれ、下着越しに香也の膨らんだ部分を刺激しはじめる。
「……それとも、こういうことする女の子、香也様はお嫌いですかぁ……」
強制的に見せつけられている形の才賀孫子は、楓の媚態に眉をひそめたくなった。同性として、『そこまで媚びへつらわなくていいだろ』とさえ、思う。
楓がいよいよ下着をかきわけて香也の男根を外に出しはじめたため、才賀孫子は、できるだけその辺を見ないように眼球を動かした。今の才賀孫子には、目を反らすことさえ、許されていない。
他人のこういうシーンを目の当たりにし、しかもそこから逃げられない、という、この屈辱。なるべく見ないようにしていても、ぴちゃぴちゃという水音が聞こえはじめれば、二人がなにをしはじめたのかは判然としているわけで……。
屈辱ではあったが、それ以上に、いたたまれないような気持ちになった。
そのうち水音や押し殺したあえぎ声の中に、「衣擦れの音」までが混じりはじめる。をいをいをい、と、賀孫子は思う。やるのか。本当にここではじめるのか。
なるべくそちらのほうから目を反らそうと努力しても、目を閉じられない以上、そんな努力に限界があることなど自明のことなわけで。視界の隅にはそれなりの映像が入るわけで、二人がお互いの服を脱がしあいはじめた、ということは、やはり判然としている。
『…………お前ら、わたしのこと、すっかり忘れているだろ……』
もちろん、加納香也と松島楓は、才賀孫子の存在など脳裏からすっかり押しやって、二人だけの世界に没頭しはじめていた。
いや、おぼえたてだし。
[
つづき]
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