2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

髪長姫は最後に笑う。第二章(2)

第二章 「荒野と香也」(2)

 茅が自分専用のパソコンを入手するのと前後して、茅のテレビの鑑賞法に変化があった。
 前は、リモコンでランダムにザッピングして、一つの番組を長く見続ける、ということがほとんどなかったが、最近では、自分の好む番組を放映する曜日や時間帯を把握してきたようで、決まった曜日の決まった時間、テレビの前に座り込んで、じっくりと鑑賞することが多くなった。
 茅が好むのは、夕方に放映するニュースと、それに日曜日の朝に放映する、キッズ向けのプログラムだった。中でも、日曜日の七時半からの枠はお気に入りのようで、かなり熱心に、食い入るように見入っていた。

「そうそう。ちょうど、こういう感じのロボットのCGが出てくるようなプログラムを、かなり熱心に観てるんですよ」
 例によって朝の面会時間に、三島百合香の部屋で、荒野は、なぜかパソコンのディスプレイの上に乗っていた三体のプラスチック・モデルを指さして説明した。
 左右のロボットは毒々しい赤でカラーリングされていて、片方は鎧を着込んでいるようなデザイン、もう片方はずんぐりむっくりな体型で、手から、指ではなく三本の鈎爪が生えている。中央のロボットだけが人間型でも真っ赤でもなく、ラグビーボールからにょっきりと両足が生えているような異形のデザインだった。
「これはロボットではなく、モビルスーツという」
 三島百合香はいった。
「それから、茅が熱心に観ていたのは戦隊物だな。もう何十年も続いている、日本の伝統芸能みたいな番組だ。
 今年のは『奉仕戦隊メイドール3』といってな、マッドサイエンティストの爺さんから膨大な遺産を継いだイケ面二人兄弟と、彼らにご奉仕する三体のアンドロイドなメイドさん、それに、指令な立場の渋い執事さんが変身して侵略者と戦う、というストーリーだ。
 二月に新番組への入れ替えがあるから、これからぼちぼち最後の山場にさしかかる時期だな」
 と、荒野には意味不明な解説を丁寧に付け加えてくれた。
 ……「メイドさん」とは、メイド・サーバントの日本風の呼称なのだろうか? だとしたら、なぜ家政使用人に、敬称の「さん」をつけるのだろうか?

『……そういえば……』
 と、荒野は思い出した。
『茅のいた廃屋の遺留品にあった玩具、その手のものが多かったような……』
 帰ってから、保存して置いたファイルをパソコンで確認してみると、たしかに、その手の「なんたら合体ロボセット」みたいな玩具が、遺留品の中に多く残されていることが確認できた。
『……意外な趣味しているな、茅……それに、親父』
 こんな場面で、荒野は顔も知らない父親の存在を意識する。えしてこういう趣味は、親から子へと受け継がれるものである。

 それからついでにネットで「戦隊物」についても検索してみたところ、放映局や制作会社のオフィシャルサイトの他に、ぞろぞろと何千何万というファンサイトが引っかかって、歴代番組関する情報を熱く語っていた。
 荒野は、「戦隊物」がゴルゴ並の長寿を誇るプログラムであること、吹き替え版や再編集版が広く海外でも放映されていることなどを知った。
 毎年設定やシュチュエーションを微妙にアレンジして放映され続けていることからみても、「日本の伝統芸能」という三島百合香の表現は、今回に限り、あまり誇張ではないらしい……と、荒野は、思った。

『これで茅へのクリスマスプレゼントは決まったな』
 と、荒野は内心で呟いた。

 茅との会話が途絶えても、毎朝の三島百合香への訪問は続けられた。むしろ、三島百合香と茅について心配なことを相談をすることで、進展がほぼなくなったことにより発生した荒野の焦りを慰撫するような効果があり、荒野は、かなり救われた気分になった。三島百合香は決して寛容でも心優しくもなかったが、「茅」という関心事を共有する人間が身近にいることは、荒野にとって、心理的な負担をかなり軽減する効果があった。

 ある朝、三島百合香に「茅についての第一印象」を尋ねられた時、荒野は、窓の外の光景の中に、とんでもないものを発見してしまった。
 縦横に飛び回る、一族の者だった。それは、動きや体の捌き方、をみれば、荒野には、一目瞭然であった。体型から判断して、若い、というより、茅とほぼ同年代の少女だ、ということも、判別できた。荒野の目は、視力がいいだけではなく、動体視力にも優れ、パターン認識にも秀でている。
 多分、荒野と三島百合香の報告を受け止めた一族の中枢が、進捗具合に不足あり、と、判断して、増援の人員を送ってよこしたのだろう。それは、いい。
 でも、問題なのは、……。

 …………その増援が、早朝とはいえ、完全に日が昇っている時刻であるのにもかかわらず、なんであんな目立つ恰好をしているのか、という、ただその一点につきた。
 一族の技を、字義通り「忍」、つまり、「存在自体も秘匿する技」として認識している荒野にとって、白昼堂々、忍装束を纏って飛び回っている目立ちたがりのアホタレは、かなり、むかっ腹の立つ存在でしかなかった。
 荒野は、自分でも気づかないうちに体を動かしていた。
 一歩、三島百合香の座る机に踏みだし、「これ、もらうよ」と一声断ってから、卓上に転がっていたボールペンを取り上げる。そして、ベランダに出て、その一族の恥さらしの足下にくるように調整して、ボールペンを投擲する。
 高速で飛び回っている相手の行き先を予測し、その相手が近い将来足場にするであろう場所に、タイミングよくボールペンを放り込み、転倒を誘う、というのは、実はかなり難易度の高い技なのだが、荒野は、それを難なく実行し、
「あ。これ? 気にしなくていい。こっちには関係ないことだから。いや、目の隅を目障りなもんが横切ったんでね。ちょっとした悪戯。なんか騒ぎになっているみたいだけど、お隣りが絡んでくるとどうせエスカレートするだろうから、後でみにいってみるといいよ。興味があるなら。」
 うんぬんと断りをいれてから、先ほどの三島百合香の質問に答えはじめた。

[つづき]
目次

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking HONなび


↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのろく]
Pink!Pink!Pink! エログー(Hなブログランキング) blogRanking 人気blog エログ杯 エログ・ブログranking blogoole アダルトブログranking アダルトランナー YOMI FIND アダルト

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ