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彼女はくノ一! 第二話 (7)

第二話 ライバルはゴスロリ・スナイパー!?(7)

 加納荒野に針を抜いてもらい、身体の自由を取り戻した才賀孫子がまずしたことは、身に纏っていたレースの手袋を脱いで、それを松島楓にたたきつけることだった。
 この日の孫子は、ノースリーブのドレスに、指先から膝までをカバーする黒いレースの手袋をはめていた。
「決闘ですわ! この女、わ、わたしくにあんないやらしい……をみせつけて……その上、あろうことか、わわわたしくの、そそそうていを……」
 興奮のため、呂律が回っていない。
「とにかく! 決闘ですわ!」
「あー。大体の状況は想像できたから、止めはしないけどさ……」
 加納荒野は、白けた表情をして、それに応じた。
「その前に、君、なんだって彼のようなパンピー、狙撃しようとしたわけ?」
 と、加納荒野は加納香也を指さす。
「それは!」
 才賀孫子は叫んだ。
「彼がカノウコウヤだからです! あのカノウコウヤやが何年かぶりで日本に戻ってきたのですよ!
 年少ながら、あまたの武勲をたて、次世代の一族の命運を担うと嘱望される者、カノウコウヤが!
 叔父様がなにかと引き合いに出して名をあげるカノウコウヤをこのわたしが仕留めれば……」
「……あー……。そこまで」
 こめかみのあたりをぽりぽり掻きながら、荒野は興奮して口泡をとばして喚き続ける才賀孫子を制止した。孫子の勘違いに気づいたこともあるし、自分自身が今まで顔も知らなかった人物によって称揚されることが、照れくさくあった。
「はいはい。大体、事情はわかった。

 ……よかったな、楓。この娘も、君のうっかりさん仲間だ……」
 ぽんぽん、と、楓の肩を叩く。
 荒野の登場でようやく正気を取り戻した楓が、面目なさそうな表情をして、顔を伏せる。
「いろいろと誤解があるようだから、ここで自己紹介しておこう。
 おれ、加納荒野。
 たぶん、君がいっているほうの、加納荒野。
 で、彼も……」
 と、もう一人の「かのうこうや」を、指さす。
「ぼくも、狩野香也」
 緊張感のない顔で、狩野香也が片手を上げた。

「おれ、かのうこうや」
「ぼく、かのうこうや」
 二人の「かのうこうや」を見比べて、才賀孫子の顎が、かくん、と、大きく開いたままになった。

「おれ、かのうこうや」
「ぼく、かのうこうや」
 二人の「かのうこうや」は、「前にもこんなことあったな」という既視感に包まれつつ、才賀孫子が二人の「かのうこうや」の顔を交互に見比べるのをやめるまで、辛抱強く名乗り続けた。

 ようやく「姓名の音だけは同じ、しかし、他人」という事実を受け入れた才賀孫子の自尊心は、よりによって、「たった今、決闘を申し込んだ女と同じ過ちを、自分が犯した」、という事実により、いたく傷つけられた。

「……まー、それはそれとして……」
 そんな孫子の内心のダメージは知るはずもなく、相変わらず軽い口調で、加納荒野は追い打ちをかけるように、孫子に告げる。
「今、君の大好きな叔父様が、この家にきているけど、どうする?
 決闘の前にあってく?
 それとも、本来の目的はおれらしいから、まずはおれとやりあってみる?
 おれのほうは全然構わないよ。っていうか、ここの生活、ストレスは溜まるけど、発散する場所がないんだよね、平和すぎて……。
 だから、君がちょいと遊びたいっていうんなら、大歓迎なんだけどね、むしろ」

 そういって、孫子の目を見据えて、笑う。

『……この子……危険……ばけもの……』
 その、一見いつもと変わらないような荒野の笑顔をみて、孫子は無意識に後ずさり、ぶんぶんと首を振ていた。
『……わたしくなどが、なかう相手では……とうてい……』
 孫子の本能が、荒野は自分とでは「格」が違う相手だと、告げていた。

「そ。ものわかりのいい子で良かったよ。
 で、その決闘とやらはいいけどさ、うちのじじいとそちらの叔父様の許可は、とっておいた方がいいかな?
 ああ、そうだ。肝心の楓はどうする? 受けるか? この決闘?」
「受けます!」
 松島楓は、即答した。
 楓にとって才賀孫子は、あくまで「香也様に危害を加えようとした存在」だった。

「って、いうことで、なんかしらんが、才賀のお嬢さんとうちの楓が、ちょっとやり合いたいってさ」
 加納家の居間にもどって炬燵に潜り込んだ加納荒野は、一族と才賀衆の長老二人に軽々しい口調で告げた。
「うん。いいんじゃないか。若いうちはそのくらいの元気があったほうが」
 やはり軽々しい口調で、蜜柑の皮を剥きながら即答したのは、この家では荒野の祖父と名乗っている、加納涼治だった。
「孫子がやりたがたっているんなら止めはしないけどよう……」
 孫子の叔父、才賀剛蔵も、決闘そのものには異存はないようだった。
「しかしまあ、加納の……。
 ここにいる子たちは……実に、その……面白いなぁ……」
 荒野と、荒野の後ろに雁首を並べていた香也、楓、孫子、と視線をやり、最後に、炬燵にあたっている猫耳装備の茅に目線を留め、目を細める。
「そうだろそうだろ」
 加納涼治は、我が意を得たり、という具合に頷いた。
「半分は偶然だがな。こういう子たちが一カ所に集うことは、滅多にないぞ」
「そう……だよなあ……うーん」
 才賀剛蔵は太い腕を組んで、何事か、考え込む。
「ああ。そこのお嬢さん。楓ちゃん、といったかな。
 見たところ、かなりやるようだが、できれば、うちの孫子を叩きのめしてくれんか? なに、あれもそこそこ鍛えておるので、お嬢さんが本気を出しても、滅多なことでは壊れやせんて……」
「はい。もとより、そのつもりです」
 松島楓は、躊躇なく答えた。
 楓の目が、闘志をたたえて輝いていた。

[つづき]
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