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第二話 ライバルはゴスロリ・スナイパー!?(8)
「……なんでおれが……」
加納涼治からハンズフリーがうたい文句の携帯電話オプションのヘッドセットを、三島百合香からデジタルハンディカムを手渡された加納香也は、ぶつくさと文句をいいはじめた。三島百合香は、「しっかり撮れよ」とかいいながら、そんな荒野にデジタルハンディカムの詳細な機能を伝授しようと横合いからなにかと話しかけている。
「この二人が本気で動き始めたら、追跡可能なのは、お前かわしくらいしかいないだろう。この中では」
涼治は、にべもなくそう答える。
「お、おれは? おれじゃあ駄目か?」
才賀孫子の叔父だという才賀剛蔵が、自分を指さして訊ねる。
「その腹をみてみろ。すっかり貫禄をつけやがって。経営者でございと後方にふんぞり返っているからそういう様になる。
この手の遊びに参加するのは、二十年ばかし遅すぎたな」
涼治の才賀剛蔵のあしらい方は、荒野に対するもの以上に厳しかった。
「大体、表にでることにこだわりすぎるからそういうことになる」
「だから、才賀はお前たち忍じゃねーってぇの! 元より表の存在だってよぉ!」
やがて、準備を終えた松島楓との才賀孫子とが、出てきた。狩野家の狭い庭に出てた柿色の忍装束とゴシックロリータ・ファッションがメラメラと闘志を燃やして対峙している光景は、どう考えても、やはりヘンである。
「なあ。特にじじい。本当にいいんだな。この二人が暴れ出すと、かなり面倒っつうか、目立つことになるぞ……」
「ここまで敵意が高まったら、止めても止まるものか。
ガス抜きさせておやりなさい」
加納荒野が、最後の最後、という感じで念を入れて、加納涼治があっさり認める。
「……おれは知らねーからな……どうなっても」
荒野は、ブツクサ言いながらもにらみ合う楓と孫子に、基本的なルールを説明しはじめる。
「出来るだけ物を壊すな。無関係な第三者を巻き込むな。刃物と銃は禁止。相手の命までは取るな。相手が動けなくなるか、ギブアップするか、おれが勝負あったと判断したら、その時点で止め。時間は無制限。ま、体力的に、そんなに長くは保たない、と思うけどな……。
……そういうルール、ということで……」
荒野は、デジタルハンディカムを構えて、叫んだ。
「はじめ!」
最初に動いたのは、才賀孫子だった。
さて、どんな華麗な技の応酬が繰り広げられるのか、と、固唾を呑んで見守っていた一同の期待を裏切り、最初の一撃は、平々凡々たる「平手打ち」だった。
「あんたね!」
その時、才賀孫子は叫んでいた。
「純真な乙女にあんな破廉恥なもの見せるなよ!」
何故か、松島楓は避けなかった。
バチン!
というかなり痛そうな音をたて、はたかれた松島楓の上体が一瞬、ゆらぎ、すぐに姿勢を持ち直す。
「人の真剣な行為を、破廉恥とはなんですか!」
松島楓も、叫びながらの反撃だった。
「あなたみたいな恵まれた人には、下積みの苦労はわからないでしょう!」
バチン!
という激しい打撃音とともに、才賀孫子は顔ごと吹っ飛びそうになるところを、慌てて足腰に力を入れて持ち直す。
後はもう、しばらく平手打ちの応報である。どちらも簡単に相手の攻撃を見切ることができるはずなのに、何故か、避けようとはしない。
「下積みとか、わけわかんないこといわないでよ!」
バチン!
「あなたは、わたしと違ってなんでも持ってるじゃないですか!」
バチン!
「それ嫌味? あんないやらしいコトする相手なんかいないわよわたし!」
バチン!
「そういうこといっているんじゃありません!」
バチン! バチン! バチン! ……。
延々tと叫び合い、平手打ちを続ける二人とそれを見守る人々の横を、愛車のスーパーカブを引いた、どてらをダウンジャケットとマフラーに替えた羽生譲が通りかかる。
「なんだ。最後までみていかないのか?」
三島百合香が声をかけると、
「見ていたいけど、わたし、これからバイト」
スーパーカブに跨り、ヘルメットを装着しながら、羽生譲が答えた。
「カッコいいほうのこーや君がビデオ撮ってくれてるし、それで我慢しますです」
エンジンをかけ、公道に出て、走り去った。
しばらく平手打ちを続けていた才賀孫子と松島楓は、このままでは勝負はつかないとみたのか、数歩分後ずさって距離を取る。
松島楓は、懐からくないを取り出した。
「……! 刃物は禁止って!」
「投擲用だから、刃は引いてあります!」
いうが早いか、びゅん、と腕をひとふりし、同時に十本近くのくないが才賀孫子を襲う。
「……そうよね……」
孫子は、大降りのコンバットナイフをとりだし、それで飛来するくないを打ちはらった。
「刃物として使わなければ、いいのよね……」
コンバットナイフの背にねっとりと舌を這わせ、刃を返して持ち直し、構え直す。
そして、予備動作なしで、松島楓に躍りかかった。
[
つづき]
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