2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

髪長姫は最後に笑う。第二章(3)

第二章 「荒野と香也」(3)

 もう一つ、週末毎の三島百合香の料理教室が始まってから茅に起こった変化をあげるとすれば、徘徊行為の開始がある。

 同じマンション内にある三島百合香の住居まで一人で往復することによって勇気づけられたのか、茅は、この寒空の下、寝間着代わりの浴衣姿のまま、一人で出歩くようになった。つまり、それまでは茅は、マンションの室内から出る用事もこれといってなく、一歩も出ずに生活していた。茅が不満そうな様子を見せなかったので放置しておいたのだが、ここに来て急に、それも勝手に行方を告げずに出ていって、しばらく帰ってこない、ということが続いた。
 外出先から帰ってきた荒野が茅の不在に気づいて慌てて行方を捜し、マンションの屋上とか、近所の小さな児童公園とか、距離的にはたいして離れていないが、予想だにしない場所でぼんやりとひなたぼっこをしている茅を発見する、ということが立て続けに起こった。
 第一、普段は閉鎖されていて、通いの管理人と荒野しか合い鍵をもっていないはずの屋上や、暗証番号を入力しないと出られないマンションの外部へ、なにも知らないはずの茅が平然とでていることが不気味だった。マンションの共有部分出入り口の暗証番号はともかく、屋上の扉の合い鍵は、入手することは困難なはずであり、荒野の保管分を茅が持ち出した形跡もみられなかった。
 が、現に、茅は自由に屋上に出入りしているわけで……。

 やはり、茅という少女は、いろいろと得体の知れないところがある、と、荒野は認識を新たにした。

 茅の徘徊癖について、茅にGSP付きの携帯でも持たせようかと本気で検討しはじめた荒野に対して、三島百合香は「お前なあ、過保護過ぎるんだよ。茅、小学生以下の子供か?」と、この人物にしては珍しく正論を吐いた。

 そのように行方をくらました茅を探しに行ったある日、荒野は、隣家の狩野家へも探索に出かけ、その庭先にあるプレハブの存在に気づき、声をかけて返事がないことを確認してから、念のために中を改めさせてもらおうと入り口の引き戸を開けると(鍵はかかっていなかった)、そこでキャンパスに立てかけてあった、描きかけの絵を発見した。
 その絵は、何気なく見ただけだと、一面にブルー一色で塗りつぶしたようにしかみえないようなシンプルな絵だったが、よくよく目を凝らしてみると、その青も、白などを混ぜ、微妙に階調を調整して、一筆一筆丁寧に筆を積み重ねた末、組み上げられた「作品」であることが、わかった。
 構図もなにもない単純な構造がかえって、その絵を描いた者の偏執を物語っているようで、ふと目を留めた荒野は、そのままその絵から目を放すことができず、数十分、見入ってしまった。

 結局、その日の茅は、狩野家の庭に迷い込んだところを、狩野真理に呼び入れられ、お茶を振る舞われていたのを、荒野は後で知ることになる。
 この時は、松島楓が狩野家の住人になる数日前だったので、荒野とは面識があった真理も茅とは初対面であり、庭に迷い込んできた見知らぬ子供を家に入れてもてなすような鷹揚さが、狩野家の主婦、狩野真理にはあった。
 その日、荒野は、プレハブの絵にしばし見入った後、一応面識のあるこの家の住人に、茅らしき少女を見かけなかったか尋ねるついでに、この絵についてもそれとなく聞いてみよう思い立ち、玄関に回ることにした。玄関先で荒野を出迎えた真理に、「髪の長い浴衣の少女を知らないか」と尋ねてみたところ、「それなら今、炬燵にあたってお茶を飲んでいる」といわれ、居間に通された。
 狩野家の居間に入ると、茅が澄ました顔をしてお茶請けの煎餅をかじっており、荒野は、ほっとすると同時に著しい脱力感を覚えた。
「こいつ、おれの妹なんですよ」
 と荒野が後付け的な紹介をすると、真理は、
「荒野君とは似てないけど、可愛い子ねぇ」
 といった後、茅に向かって、
「いつでも遊び来ていいわよー」
 と微笑んだ。
 
 荒野は、ふと思いついて、真理に「実は、こいつ、もう何年も病院暮らしをしていまして……」などと、もっともらしい「茅の架空の境遇」をでっち上げ、「茅の服を用意したいのだが、この年頃の女の子の服はよく分からないので、適当に見繕ってくれないか?」と、打診してみた。
 狩野真理は、少し深く考えれば不自然な部分が多い荒野の作り話について、とりたてて疑問を口にすることもなく快諾してくれ、「じゃあ、今、茅ちゃん、当座の着替えにも不自由していますでしょう」と、息子の狩野香也が何年か前に着ていたお下がりの服を適当に探し出してきて、その日のうちに荒野に手渡してくれた。
 それらの服は当然男物だったわけだが、デザイン的にはともかく、サイズ的には茅にちょうどいいくらいで、少なくtも、それを着て往来を歩いても不自然ではなかった。
 荒野は、恐縮しながらも素直に感謝して受け取り、プレハブに置いてある絵についても尋ねて見たところ、それらは荒野の予想に反して、狩野真理の夫、順也の作品ではなく、息子の香也の手になるものだ、と、答えた。
 それまで荒野は、香也とは面識こそあったが、正直さほど、その存在を重要視していなかった。が、「香也がああいう絵を描く少年である」という情報がインプットされると、途端に、香也自身にも俄然興味を覚えはじめた。
 荒野にとって樋口未樹がそうであったように、狩野香也のような人間も、今まで身近に居なかったタイプの人間であり、さらにいえば、香也自身よりも、香也の描く絵に対して、荒野は、好奇心を刺激されていた。
 香也本人はまだ学校にいる時間だったので、「プレハブの絵を見せてもらっていいか」と真理に許可を求めたところ、「あの子は、描いている最中は夢中になるけど、描き上げたものには執着しないから」勝手に見ても大丈夫だ、と、保証してくれた。

 しばらく談笑して、茅を伴って帰宅した後、荒野は、日時を改め、今度は香也がいる時間を狙って訪問し、「絵を、できれば、描いているところも見せて欲しい」と、話してみた。
 辛うじて面識はあるとはいえ、さほど親しいというわけでもない荒野の要求を香也は快諾……というよりは、興味なさそうに受諾し、「でもぼく、絵を描いている最中は、ほかになにもできないから」と、断りを入れた。
 それ以来、荒野は、香也がプレハブで作業する時間に、自分の時間の都合がつきそうな時は、できるだけプレハブを訪問するようになった。とはいっても、香也は、絵を描きはじめると極端に精神を集中させるタイプであるらしく、荒野を客としてもてなすということもなく、ただ黙々と筆を走らせ続けるだけだった。
 荒野は、飽きもせず、自分の作品に集中する香也の背中と、香也の手によって瞬く間に形を整えていく画布の表面を見続けた。

 荒野と香也の奇妙な交友の始まりは、そんな感じだった。

[つづき]
目次

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking HONなび

韓国トップアイドル・ペクジヨ○のセックス盗撮映像

↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのに]
熱湯 ALL ADULT GUIDE Hサーチ アダルトガイド Link od Link 大人のナイトメディア「アダルトタイムズ」 アダルトサーチYasamsam アダルトトレイン ちょらりんく18禁 週刊!ブログランキングくつろぐ

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ