第二話 ライバルはゴスロリ・スナイパー!?(9)
「甘い!」
跳躍して楓に躍りかかってきた孫子に向かって、楓は一気に距離を詰めた。
地から足を離しては、姿勢が変えられない。
そこを狙って、楓は掌底をたたき込む。
「読んでるって!」
コンバットナイフをあっさり手放し、自分の水月に向かって繰り出される打撃を、孫子は掴む。楓の利き腕に、長い手足を絡め、ホールドしようとする。
「こんなの!」
肘を極めようと自分の腕にとりついた孫子の体ごと、楓は片腕を大きく振りかぶり、勢いをつけて何度も地面に打ちつける。
楓が五度か六度ほど、地面に孫子の背中を叩きつけたところで、孫子は、ようやく手足を解いた。
再び後ずさって、五歩ほどの距離を開ける二人。
しばらく睨み合って……。
跳んだ。
庭の生け垣を飛び越え、公道を凄まじい勢いで走り去っていく。
荒野も、その後を追っていく。
「さて、後は若い者に任せて、我々は中で決着がつくのを待ってましょう」
「そうだ、奥さん。急なことでなにも用意できなかったんで、これで寿司でもとってください」
「え? あ、あの、こんなに多くは……」
「いやいや。寿司以外にもお頼みしたいことがありまして……」
「ほー。おっさん、才賀ってあの才賀か? そんな大物がこんな所で油売ってていいのか?」
取り残された大人たちはがやがやと家の中に入っていく。
家の中には、食べ過ぎで気分の悪くなった茅が、胃薬を飲んで寝かされていた。
「あー。よりによって、なんで、人通りの多い方へといくかなー……」
荒野は、ビデオカメラを構え、走り出した二人を追っている。荒野自身は人目を避け、なるべく目立たない場所を走るようにしているが、荒野が追跡している二人は、今はお互いのことしか眼中にないらしく、ギャラリーが騒ぎ出したことにも気づいていないようだった。
荒野が住むマンション前で学生のカップル(よりによって、新学期から荒野たちが通うことになっている学校の制服を着ていた)に指さされたのを皮切りに、たまたま路上にいた人々が、二人の存在に気づき、指さしたり携帯とりだして写真を撮ったり、誰かに連絡をしはじめたりしていた。
……なにしろ、「ゴスロリとニンジャが喧嘩しながらもの凄い勢いでドツキ合いながら走り去っていく」という光景な訳で、目立たないほうが、おかしい。
二人は今、庭先でお互いの格闘戦の技能を推し量ったように、「駆け比べ」のモードに移行していた。故に、速度に制限は付けられていない。
歩道、車道、反対車線を問わず、びゅんびゅん飛び跳ねて、どんどん人通りの多い方へと向かっている。平行して走りながら、時折、相手に組み付いたり、くないを投げ合ったりしている。
歩行者や車両を直接傷つける行為はさすがに避けているようだが、交通ルールやマナーには目をくれていないので、あちこちでクラクションや急ブレーキをかける音が響き、それに罵声が続く。
歩道から跳躍して電信柱を蹴り、車道の、車と車の隙間を縫うように飛び跳ねて、反対側の歩道にでる、などという過激な「鬼ごっこ」を続けていれば怒鳴られる程度ですんでいるのが、奇跡のようなもんだ、と、荒野は思った。
『……よく、事故が起きてねぇなあ……』
と。
「駆け比べ」でも決着がつかないとなると、今度は、「駆け比べをしながらの実戦モード」へと移行した。楓は、躊躇することなく、手持ちの、刃を引いたくないを容赦なく孫子に投げつける。刃を引いてある、とはいえ、しかるべき質量を持つ投擲用武器は鈍器であり、立派な凶器である。防刃素材の衣服越しにでも打撃を与えることを目的として設計されたもので、まともに当たれば骨や内臓に甚大な被害を与える。
だが、次々と、間髪入れず投げつけられたくないのほとんどを、孫子は自分の手で受け止めた。それどころか、すかさず、楓に向かって投げ返した。このあたりのセンスは、「流石は才賀」と讃えるべきだろう。
荒野がヘッドセット越しにそう報告すると、
『そうだろそうだろ』
という、孫子の叔父、才賀鋼蔵の満足げな声が聞こえた。
『……いい気なもんだ……』
と、荒野は思う。
よりによってこの日は週末であり、二人は、まるでワイヤーワークでも使用しているのではないかという非常識な身のこなしで飛び跳ねながら、この界隈では駅前と並んで人の集まる、大型ショッピングセンターへと、向かっていた。
「……本当に止めなくていいんだな、じじい……」
今ならまだごまかせる、という焦りを滲ませて荒野が聞くと、
『構わん。彼女らにはデコイになってもらう』
平然とした涼治の声が聞こえた。
『……そういう腹か……』
と、荒野は納得した。苦々しい、納得の仕方だったが。
『楓、走りながらくないを投げる。六本。才賀、それを即座に掴んで投げ返す。二人、南北の方に移動中。……』
携帯電話越しになされる荒野の実況中継は、だいだいそんな感じだった。
『人、どんどん増えてます。指、さされてます。写真、撮られてます……』
よほど気になるのか、荒野は合間に何度もそんな報告もしてきた。
『……あ。やべっ!』
「どうした?」
涼治が尋ねると、
『いや、こっちの話し……でも、ないか。今、白バイに見つかった』
公道上で制限速度を遵守していなかった二人組を見つけた県警所属の交通機動隊員は、当然自分の目と精神の正常さを疑った。
そして、目を落とし、スピードメータを確認する。メーターは、時速六十キロ前後を指していた。
黒いフレアスカートの少女と忍者の恰好をしたのが、バイクに乗る自分よりも早い速度で、前方を走っている。
それも、ただ走っているのではなく、時折相手に組み付いたり、何か投げる動作をしたり、なにかを避けるように跳躍したりしながら、走っている。
……目の前に展開されている光景をみて、その交通機動隊員はげたげた笑いたい衝動をを堪えるのに苦労した。
その交通機動隊員は、少し前にも、時速八十キロオーバーでチャリンコを転がしていた少年を「補導」したことがあった。相手が未成年で、かつ、自転車には免許というものがなく、事故をおこしたわけでもないので、保護者を呼び出して説教するのっが精一杯だった。一応、自転車も「車両」に分類されるので、その程度は、できた。
……制限速度を守ろうとしない「歩行者」に対して、自分はなにをできるのだろう……。
が、それ以来の、いや、それ以上の、「悪夢」といっていい。
二人が通った後に、急ブレーキをかける音が追いかけるように聞こえてくる。そのことから考えてみても、その二人が見えるのは、自分だけではない……。
ということを認識したその交通機動隊員は、サイレンを鳴らして、その二人を追跡しはじめた。
『そこの二人。とまりなさーい。他の車両の邪魔でーす』
しかし、凡庸な白バイ乗りに過ぎない自分が、そんな非常識な相手を捕まえられるとも、本気では思いってはいなかった。
『……できれば、このまま自分の目の届く範囲から、さっさと消えて欲しい……』
切実に、そう思っていた。
『……この件、どう報告書に書けばいんだ……』
[
つづき]
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