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彼女はくノ一! 第二話 (10)

第二話 ライバルはゴスロリ・スナイパー!?(10)

 案の定、二人の非常識な存在は、その交通機動隊員の誘導などには耳を貸さず、飛び跳ねながら、あっという間に彼の視界から消えた。

 サイレンを止め、白バイを路肩に寄せ、サングラスを押し上げて、軽く目の間を揉む。ひどく、疲れているような気がした。
「……なあ、君?」
 たまたまそばに歩道にたっていた少年に、その交通機動隊員は、声をかけてしまった。
「つかぬ事を尋ねるが、たった今……その、あっちから、こっちのほうに……ぴょんぴょん飛び跳ねながら、向こう側に消えていった……人……人間が、いなかったか?」
「人間が、ですか?」
 幸い、たまたま声をかけられた、ニット帽をかぶった少年は、にこやかに対応してくれた。
「こう、ぴょーんぴょーんと飛んで跳ねて……」
 と、ご丁寧に、白バイ警官が指でしめした軌跡をたどってくれる、
「……向こうに、消えた、ですか?
 さて、おれ、ずっとここにいたけど、そんなのちっともみえませんでしたねぇ……」
 少年はあくまでにこやかで、とても嘘をいっているようには思えない。
「……そうだよな。うん。そうだそうだ! 全て夢、白昼夢なんだ!」
 夢でござる夢でござる、人生五十年、過ぎれば夢まぼろしのごときー……とか、わけのわからないことをぶつぶつ呟きながら、白バイは加納荒野の前から走り去っていった。

「……やべぇやべぇ」
『どした、荒野?』
 ヘッドセットのイヤホンから、三島百合香の声が聞こえた。
「いつだったか、おれが自転車でスピード違反して捕まったことあったでしょ? その時の白バイさんがいたんですよ。
 なんかひどくお疲れのようだったんで、
『あなたはなにもモノみてません』って保証してさしあげたら、無理に自分を納得させて逃げていきました……」
『あー。わたしがさんざんごねて困らせてやったあの警官かぁ……。
 賢明ではあるが、哀れでもあるな……。
 公職にあるものが、お前らみたいな非常識なのに関わるとろくなことがないしな……』
 いいたい放題である。
『……しかし、よくお前だとばれなかったな……』
「帽子かぶって髪かくして、必死で好青年演じましたよ。追跡、続けます」
 ブレーキ音とか人の声が騒がしくなるほうを追いかければ良かったので、追跡自体は楽だった。

「あー。ショッピングセンターの立体駐車場で発見。なんか、空中戦になっている模様。才賀が楓の体に組み付いて、飯綱落としを仕掛けました。楓、空蝉で服だけ残して離脱。鎖帷子だけになった楓をみて、ギャラリーから歓声があがっています」
『両方とも女かよ!』
 とか、
『胸、でけぇ!』
 とかいう声が、荒野の実況中継の背後から聞こえる。半裸になった楓の姿をみた人々の、率直な感想だろう。
「二人、そのまま買い物客でごったがえすショッピングセンター内部に入りました。
 ……あーあー。もう知りませんよ、おれは。ここまできたら、もう隠しようがない……」
 ぶつくさいいながらも、荒野は、追跡を継続している。
 荒野の歩法かなり特殊な、手足のモーションを最小限に押さえたり、錯覚や心理的な効果を考慮して練り込まれた一族独特の歩法で、実際にはかなりの速度なのだが、近くに居る人には普通の、少し早足の通行人、くらいにしか認識されない。だから、二人に匹敵する速度で追跡をする荒野のほうは、さほど目立たない。

 買い物客でごったがえすショッピング・センターの中を、二人は、文字通り「駆け抜けた」。
 決闘の条件に「第三者に被害を与えない」という項目があったことをかろうじて覚えていたとみえて、これだけ人の多い場所ではあまり派手なドツキ合いをすることもなく、ただ迅速に移動していった。
 二人が通った後には、動転した人々の金切り声や悲鳴が残された。

「今、ショッピングセンターを抜けました。相変わらず、混乱はありますが、奇跡的に具体的被害はなし。
 えーと……このままいくと……橋、の方ですね。
 ……川、越えちゃうかな?」
 中継しながら、『まあ、人出のないほうに向かうのは、いい傾向だ』と、荒野は思った。今さら、ではあるが……。

 その頃、羽生譲は愛車のスーパーカブに跨って、バイト先である、国道沿いにあるファミレスに向かっている最中だった。その羽生譲の頭上を、柿色と黒の影が飛び去っていく。その正体に気づいた羽生譲は、
『……そっか。そういや、くノ一ちゃん、ザ・ニンジャだったんだっけか……』
 とか、間抜けなことを考えている。
 一緒に寝起きをしていると、松島楓は、ごく普通の可愛らしい少女、にしかみえなかった……。
「ども!」
 いつの間にか、羽生譲のスーパーカブに、狩野荒野が併走していた。
「おお。カッコいいほうのこーや君じゃないか。お勤めご苦労」
 ビデオカメラを構え、スーパーカブと併走しながらも、狩野荒野は平然とした顔をしている。
「いや、ぼちぼち、二人とも体力切れだと思うんですけどね……」
「ここいらで決着つきそう? んだったら、まだちょっと時間があるから、最後のシーンだけは見届けていくかな……。
 あ。進路変えた」

 松島楓と才賀孫子は橋を渡りきらずに右に折れ、土手の上をしばらく駆けていったかと思うと、そこで立ち止まって対峙した。
「お。やはりここで決着か?」
 羽生譲がスーパーカブを路肩に止める。
 奇しくも夕方。二人の背景には、沈みかけた夕日が周囲の空を真っ赤に染めていた。

 二人同時に、動く。
 そして、相手の顔にお互いの拳をめり込ませたまま、静止し、しばらくしてから、その場に崩れ落ちた。

 ……夕日をバックにダブル・ノックアウト……。
『どこまでもお約束に忠実なやつらだ』
 とか思いつつ、羽生譲は、
「……そっかぁ……ゴスロリ子ちゃんは、ケムマキ君だったのかぁ……」
 口に出しては、そういった。

 それから、バイト先に急いだ。これから夜までは、ウェイトレスさんの時間である。

[つづき]
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