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彼女はくノ一! 第三話 (7)

第三話 激闘! 年末年始!!(7)

 数日前、叔父の才賀鋼蔵に社員たちの平均年収を教えて貰ったとき、才賀孫子は愕然とした。「不当に低い」、と、そう感じたのだ。それまで孫子が買い物するときは、値段もみずにカードで決済することが多く、買う物も、服や靴などの装飾品と若干の本くらいで、基本的に孫子は、「物の値段」に無頓着でいられた。
 だから、狩野家に住むようになって、同時に、商店街に毎日ようのように出入りするようになって、初めて孫子は、「世間一般」の人々が、極めて低廉な経済生活を送っているこのか、ということを実感した。たとえば、不動産屋の店頭に張られた広告によると、孫子が衝動買いするような服一着の値段で、この辺の一軒家の一月分の賃料を充分にまかなえる。そして、この商店街で取引kされる多くの物品は、不動産よりよっぽど安い。
 商店街に出入りして、食料や衣料品などの平均的な物価を実地に知ってみると、たしかに、叔父に教えられた社員たちの収入でも、充分に豊かな生活ができるような気がしてきた。
 こうした知見は、屋敷とお嬢様学校とを運転手付きのリムジン(防弾仕様。海外で羽振りをきかせている「才賀」は、テロの標的になる確率も高い)で送迎される毎日を送っているだけでは得られるわけももなく、孫子は、叔父にいわれた「世間知らず」の意味を徐々に実感できるようになってきた。
 最初こそほうこそ反発したが、たしかに、今の時点で、この土地での生活を経験することは、自分のためになるだろう、と、そう納得できた。
 また、接する人々も孫子を、「才賀の娘」としてではなく、「年齢相応の一少女」として扱う。例えば、バイトの合間に、不意に、温かい缶コーヒーを差し入れられたりするのは、以前のようなかしずかれているだけの立場では経験できないことであり、孫子にとって、最近の生活は新鮮な驚きに満ちていて、態度にこそあまり現さなかったが、実は楽しんでいた。

「そんなにお金が欲しいのなら、送られた物、処分すればいいじゃないかよぅ」
 ある日、なにかのはずみでそういう話しになり、ふと、羽生譲にいわれたことがあった。
 トラックで送られてきた孫子の荷物は、吟味した上、大半を送り返したわけだが、たしかに、衣料品や装飾品が多く、生活必需品、というわけではない。また、指摘されて初めて気づいたが(基本的に孫子には、「自分の持ち物を売買する」という発想自体がなかった)、オートクチュールやブランド品がほとんどのそれらを処分すれば、かなりまとまった金額の現金を手にすることができそうだった。
 そんな簡単なことさえ指摘されるまで気づけなかった孫子は、一人恥じ入り、「いざというときの手段」として脳裏に書き込んだ。当面は衣食住が保証されているので、孫子は、あまり大きな金額を必要としなかった。
 今まで、孫子が華美な生活をしていたことは、孫子個人の嗜好というよりは、やはり才賀という自出故、であって、実際にやってみると、質素な生活もそれなりに楽しいものだ、ということを、孫子は確認する。特に、大勢で身を寄せ合うようにして摂る食事は、たとえ食材が安価なものであっても、充分においしく、逆に、今まで、孫子の家族縁が極めて薄かったことを思い知らせる形にも、なった。

 そんなわけで、何日か過ごしてみると、孫子は、自分が案外狩野家での生活に満足していることを発見した。
 孫子が「もう一人のサンタ」と出会ったのは、そんな頃だった。

 松島楓と二人ではじめたチラシ配りのバイトは、基本的に順調だった。関係者の思惑を越えて順調にいきすぎた、ともいえる。二人を目当てに人手がではじめ、それは日々増え続けている。それを目にした店主たちが、競うようにして、新たにチラシを発注する。そんなわけで、二人が扱うチラシの種類と数量は日々増え続け、二人は見事に増え続けるチラシを配りきった。もともと、二人とも常人離れした体力の持ち主であり、この程度の労働はあまり負担だとは思ってもいないようだった。
 そんなわけで、「出来高」という約束ではじめたバイトは、日々、二人の賃金を、結果的に増大させはじめている。
 関係した誰もが利益を得る、奇跡的に幸福な推移、とさえ、いえた。
 人出が増え続けたこと、二人のファン層が差別化してきたこと、扱うチラシの種類も増えたこと、などにより、途中から、「昼過ぎから夜までが楓、夜から夜半にかけてが孫子」というシフトが固定し、そうなると今度は、孫子に、町の夜の顔をつぶさに観察する機会に与える結果となった。
 酔っぱらいに絡まれたりして、不快な事もあったが、商店街の裏手にある安酒場街の人々の生態をそれとなく観察したり、と、これはこれで、孫子には得るところが大きかった。休憩中、こっそりと商店街の裏手にまわり、自販機の温かい飲み物を楽しみつつ、大人たちの夜の顔を観察することは、孫子にとって密かな楽しみとなった。
 そこで、風俗店などのいかがわしいチラシを配布している、しょぼくれたサンタと知り合いになった。知り合い、といっても、最初のほうは「同じサンタのコスチュームを着ている」ということで、せいぜい目礼を交わし合う程度の関係だったわけだが。
 そのサンタは、中年の、にこやかだが覇気のない顔をした男で、頻繁に会うようになり、顔を記憶した後も孫子は、そのサンタの存在をあまり気にとめていなかった。そのサンタとの関係が少しでも深まったのは、たまたま孫子が、そのサンタが数人の柄の悪い男たちに囲まれいるところに出くわしてからだった。
「多勢に無勢は、無粋」
 反射的に孫子は、いかにも「その筋風」の男たちを蹴散らしていた。造作もないことだった。この近辺で武力で孫子対に抗できるのは、あの加納の跡取り……それに、百歩譲って強いてつけ加えるのなら、比較的まともに立ち会えるのは、あのお馬鹿なくノ一くらいなもんだろう。
 組織力を背景に一般人を恫喝することが仕事の「その筋風」など、束になっても孫子は問題にしない。組織的な暴力なら、四百年来続いてきた、才賀の家風でもある。もっとも、こっちは「恫喝無しの実力行使」として使用されることが多かったが……。
「……あ。あ。あ……」
 突如現れ、あっという間もなく男たちを逃走させた孫子を、男は見上げた。顔だけは知っている、ミニスカのサンタ。
「……お嬢ちゃん、強いんだねぇ……」

 男は、羽生譲市と名乗った。

[つづき]
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  • 2008/08/24(Sun) 12:21 
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