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髪長姫は最後に笑う。第三章(10)

第三章 「茅と荒野」(10)

「……なんか凄いな、本当に……」
「……この辺、お祭りでも、こんなに人来ないよ……」
 時刻は二時半を過ぎた所。駅前の特設ステージで行われる予定の、楓と孫子のショーは三時から五時に予定されている。子供を連れた家族連れへの配慮と、師走で日が落ちるのが早いということ、それに、ショーが終わってから、商店街で買い物をしていって欲しい、という計算もあって、こういう時間帯に設定されたのだろう。
 にも関わらず、駅周辺の道端は、人、人、人……。
 商店街の周辺は、日祝日の正午から五時までは歩行者天国ということで、車両の通行が禁止されてる。それをいいことに、車道まで埋め尽くす勢いで、人間があふれかえっていた。そして、それら人間の密集度は、駅に近づくにつれ、増していく。
 警官ならび民間の警備会社の誘導員はもとより、人手を見込んだテキ屋までが多数道路脇に店を出しており、近隣の飲食店は、この寒い中、店内だけではなく、店頭にも机と商品を引っ張り出し、道行く人々に売り声をかけている。

『……これ、本当……全部、あの二人目当てなのか……』
 だとしたら、「目立つな」という荒野の訓戒は、ひどく滑稽なものとなる……。だって、もう……すっかり手遅れじゃん!
『……あ。いや……多少、顔が売れても……あの異常な運動能力を、人に知られさえしなければ……』
 そのあたりに、荒野は一縷の望みを託した。とはいえ、その手の望みは「お約束」ということで、大抵は、裏切られることになっているのだが。

 人波をかき分けるようにしてなんとか駅前方面に近づいていくと、
「おー。カッコいいのー。こっちこちい」
 と、荒野たちの姿を認めた羽生譲に声をかけられた。
 手招きする羽生譲の誘導に従って、荒野たち四人は特設ステージの舞台裏にたどり着く。そこにはすでに、松島楓と才賀孫子が控えていた。
「……凄いっすねぇ……。この人出……」
 たどり着くなり、そういう。他に言葉が出てこない。
「あはは。実はわたしも、ここまでとは思わなかった」
 そういって頭をかく羽生譲は、ジーンズにダウンジャケット、という、普段の外出着だった。
「なんか、口コミでぱーっと噂、広まってたみたいだねえ。思ってたより。
 地元のローカルテレビ局からも、中継させてくれ、みたいな申し出あったみたいなんだけど、才賀さんところの叔父さんがキッパリ断っわったって。
 ……まあ、芸能界入り目指しているわけではないしな、この子らも。
 あれだ……商店街への人の誘致、という当所の目的は、もう、充分果たしているから……」
 もう、本番五分前になっていた。
「……あとはもう、多少踏み外してもいいから、リラックスしていきましょう!」
 そういうと、まず司会者であるマイクを手に特設ステージに踏み出した。

「……よい子の皆さん。保護者の皆さん。興味本位で見に来た方。たまたま買い物に来た方々。お元気ですかー!」
 マイクを手にした羽生譲は、周囲にひしめく群衆の雰囲気に飲まれることもなく、それなりに堂々としているように見えた。マイクを通した声も、よく通って辺りに響いている。
「さて、三連休の初日、本日よりこれから三日間に渡り、ここ、駅前特設ステージに於いて、駅前商店街謝恩クリスマス・ショーを開催させていただきます!
 さて、本日初日、二十三日は、クリスマス・イブの前日、イブ・イブですねー。
 そこで、本日最初の出し物は、皆様お待ちかねの歌うミニスカ・サンタさん、才賀嬢による賛美歌を皆様にお聞きいただきましょう! 泣いた子も黙って聞き惚れ、異教徒もその場で改宗したくなる神の恩寵、この歌声を、どうぞ静聴しやがれってくださいませませ!
 では、才賀さん、どうぞー!」
 誘導され、ステージの中央に移動した才賀孫子は、物怖じもせず、堂々、かつ、優雅なしぐさでまずは一礼し、それから、そこに置かれていたスタンド・マイクの角度を少し調整して、やおら、歌い始めた。
 孫子が以前の学校で、礼拝の時間に歌っていたものを、アレンジもなにもせずにただ歌うだけ……なのだが、そのまま、雑踏の中で歌い出しても、周囲の耳目を集め、足を止めさせた音量と美声が、今度は、音響システムを介して、商店街中に運ばれる。

 これだけの人数が集まれば、ステージ周辺に居るもの以外は、孫子たちの姿を見ることは出来ない。しかし、商店街の、普段、迷子の呼び出しなどに使われている、あまり高性能ではない放送システムの声が届く範囲内にその時居たものは、誰でも、孫子の歌を聴くことが出来た。そして、孫子の歌声を耳にしたものは、たいてい、動きを止めて、その歌を聴くことになった。

『おしっ! 掴みはおっけー!』
 それまでざわついていた人混みが、孫子の歌が流れるのとほぼ同時に、ぴたりと静まりかえったのを確認して、ステージ上の羽生譲は内心で拳を握りしめた。

 孫子が歌い終わり、やはり優雅に一礼しても、しばらく放心しているかのように、周囲はしーんと静まりかえっていた。
 数十秒を越え、一分を少し越えたあたりで、ようやくパラパラと拍手をする音が聞こえはじめ、一旦聞こえはじめると、今度は、直ぐに割れんばかりの喝采に変化する。
 怒濤のような喝采を負けじと、マイクを手にした羽生譲も声を張り上げた。

「おーっと! 大変だ! トナカイだ! サンタさんが歌っている隙に、トナカイが、大事な子供たちのプレゼントを持ち逃げしたー!」

 白い袋を担いだ着ぐるみ姿の楓が、ステージ中央に立つ孫子と羽生譲の周囲をぐるぐるーっと二、三度わざとらしく周回してから、やおら、ステージから飛び降りて、見物客の中に飛び込んだ。
「お待ちなさい!」
 叫んで、孫子も、客席の中に飛び込む……。

 こうして、ショーは舞台の上からあっけなくはみ出し……あとはもう、二人のアドリブ……というよりは、出たとこ任せのLIVE鬼ごっこ、になっていった。ただし、逃げる楓も、追う孫子も、並の人間ではない。
 例えば、

 いつの間にか喫茶店の中で優雅にお茶しているトナカイ。サンタが見つけて店内に踏み込んでくる。遁走するトナカイ、追うサンタ……。

 といった具合に、文字通り神出鬼没で……楓のトナカイは、商店街のどこにでもいきなり現れ、そして、誰かがその存在に気づくと、途端にサンタが現れて追いかけっこを再開する。
 二人目当てに集まってきた人々は、だいたい、最低一回は商店街のどこかで追いかけっこをする二人を目撃したたが、彼女たちはあっという間に姿を消してしまう。
 そのうち、「二人の代役が何人もあちこちに隠れいるのではないのか?」という噂がどこからか流れはじめ、二人の「目撃情報」が、携帯電話やメールで飛び交うようになったが、司会者である譲も含め、二人がどういう経路を辿って、今現在どこにいるのか、把握しているものは、当事者である、追いかけっこ続ける二人以外にいない、という有様だった。

 それは、「ショー」というには、とても奇妙な代物だった。
 なにせ、特設ステージの上は、オープニングとエンディングのわずかな時間以外、誰もいなくなるのだ。そのくせ、ショーを見に来た人々は、人手が多すぎてステージ近くにいくことができなかった者たちも含めて、どこかしらで、「彼ら」のパフォーマンスを目撃した。
 そう、ちょうど、「トムとジェリー」のドタバタな追いかけっこを間近でみていていたら、ちょうどこんな感じだったろう……。
 追いかけっこを続ける二人に、あっという間に置いてけぼりにされてしまうのだ。
 そして、「ナマで二人をみた」という記憶と、どこからか流れてくる、断片的な、正確かどうか分からない「目撃情報」のみが、「観客たち」にもたらされる……。

 そんな、まったくもって前代未聞の、とても奇妙な「ショー」だった。

[つづく]
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