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髪長姫は最後に笑う。第三章(12)

第三章 「茅と荒野」(12)

「ちょっと加納!」
 荒野たちがたむろしている場所に、サンタ姿の才賀孫子が駆けつけてきた。
 たった十分間しかない休憩時間に、目立つ恰好のままくるということは……よほど、楓にいいようにあしらわれたのが、悔しいらしい。
「今の、一族の技でしょ! 見切り方、今すぐ教えなさい!」
「無理」
 荒野の返答は、にべもなかった。
「あれ、一応部外秘だし、仮に教えるとしても、修得するに何年もかかる。
 今すぐ教えて、ぱっ、とすぐものにできるような、インスタントなもんじゃない」
 ……だからこそ、術者を育てるメソッドを代々伝えている一族の存在価値とか、アドバンテージが発生するわけで……。
 荒野の返答を聞いた孫子は、いかにも悔しそうに下唇を噛んでいる。
 拮抗している、と思っていた楓との間に、埋めきれない差が存在するのを思い知らされたのが、よほど不本意なのだろう……。

『……努力家、だとは、思うんだけどねえ……』
 孫子だって、直線的なフィジカル・トレーニングだけで、ここまでの能力を身につけているわけで……たとえ、才賀の財力的なやバックアップ血統という要素があったとしても、本人の、それこそ血の滲むような努力が伴わなければ、ここまでの「仕上がり」には至らないはずなのだ……。
 が、
『……一族だって、だてに何百年も技を磨きつけているわけではないしなぁ……』
 とも、思う。
 そう思う荒野自身も、楓がここまでやるとは、思わなかったが……。

 楓が使った「気配絶ち」は、そもそも二、三人とか、少人数を相手にしてどうにかごまかせる、程度の技でしかない。
 理論的には、楓がやったように、人混みの中で使うことも可能なはずだが……それを実現するには、絶えず、多人数の視線の動きを予測し、その盲点を渡り歩く、という……途方もない観察力と集中力、精神力が必要となる。
 現実に楓がやったような、「人混みの中で、自在に自分の存在を他人の意識から隠蔽したり、逆に、意識させたりする」というレベルで「気配絶ち」の術を制御できそうな人間は、一族広しといえど、「じじい」こと、加納涼治くらいしかいないのではないか……と、荒野は思う。
『……単なる、体力馬鹿……でも、ないのか……』
 荒野も、楓に対する認識を改めていた。

「……例えば、な……」
 あまりにも孫子が悄然としているようなので、荒野はもう少し詳細な説明を付け加える気になった。
 孫子が、顔をあげて荒野のほうに顔を向ける。
「……こうやって……」
 孫子が見守る中、荒野の姿がぷっつりと消失した。
「……はい、ここ」
 すぐに、いつの間にか孫子の背後をとっていた荒野に、背中を叩かれる。
「今、おれが、いつ、どうやって消えたか、わかんなかったでしょ?
 こういうの、消えたときの気配がぼんやりと察知できるようになるだけでも、四、五年は楽にかかるんだよね。
 今すぐコツ教えて、なんとかなるよなものじゃないんだ」
 荒野と孫子のやりとりを見守っていた飯島舞花と栗田精一は、いきなり消えたり出現したりした荒野をみて、声を失うほど驚いている……が、ほかの、周囲の人たちは、その異変に気がつきもしなかった。
「……それ、みえちゃあ、駄目なの?」
 唐突に、茅がいった。
「楓のも、荒野のも、見えたけど……その、変な歩き方……こうやって……」
 今度は、茅が、消えた。
「……こう。
 ……むー。この歩き方、疲れるの」
 五メートルほど離れたところに、コート姿の茅が再び姿を現す。

「…………茅、それ、いつ、誰に習った」
 今度は……荒野も、あっけにとられていた。
「習ってないの。今、楓と荒野がやったのを、真似したの……」
「加納!」
 才賀孫子が、鋭い語気で荒野を問いつめた。
「この子、何者!」
「……おれも、常々、それを知りたいと思っているよ……」
「まあ、いいわ……つまり、この子には、楓の気配が読める、ということよねえ……ねえ、この子、携帯電話かPHSもってない?」
 荒野には、孫子がなにを考えいるか、手に取るようにわかる気がした……。
「いいや、まだ。そろそろもたせようかな、と、思っていたところだ……」
「……できれば、今日明日にでも持たせて欲しいわね……じゃあ、わたくしは、最後のステージがあるので……」
 才賀孫子は一礼をして、荒野たちに背を向け、人混みの中に姿を消した。
「……なあ、お兄さん……」
 荒野の肩を、飯島舞花が、ぽん、と、叩く。
「あんたらがごちゃごちゃいっている間に、茅ちゃん、消えているんだけど……」

 ……とてつもなく、イヤな、予感がした……。
 最近の荒野の「イヤな予感」は、的中することが多い。

「さーて、ショーの最後を飾るのは、懐かしの昭和歌謡曲からピンクレディーをメドレーでご覧ください。仲良く歌って踊るサンタとトナカイの二人。歌も踊りもばっちりです。

 ……おーっと、突如、猫耳メイドさんの乱入だ!

 現在、駅前特設ステージでは、サンタとトナカイと猫耳メイドさんの三人囃子変則編成ピンクレディー・メドレーが行われております。三人とも一糸も乱れぬ見事な踊りっぷり。これは、ナマでみなくては、一生の損です。是非一度、ご覧ください。明日も明後日もやっております……」

 荒野のイヤな予感は、やはり的中した。

「……いやあ、本番中にいきなり茅ちゃんが乱入してくるんだもんなぁ……こういうハプニングは大歓迎だけど、いきなりだったんで、流石のわたしも驚いちまったぜ……」
 ステージが終わってから、茅を迎えに行くと、会心の笑みを浮かべた羽生譲が荒野を出迎えた。
「……でも、茅ちゃん。振り付けとか、いつ覚えたんだ?」
 羽生譲がこういう、ということは、茅とあらかじめ示し合わせたわけではない、ということなのだろう。もし、あらかじめ茅と打ち合わせてやったのだとしたら、羽生譲の性格なら、「作戦通りにいった」ことを自慢する筈だ、と、荒野は思った。
「昨日、昼、二人が練習するところをみたの……」

 練習、といっても、小一時間松島楓が歌って踊るのを、孫子が炬燵にあたって見物していただけだ。
「くノ一ちゃん、前に一回みただけで覚えたぞ」
 と羽生譲がうっかり口を滑らせたところ、
「……わたくしも、それでいきます……」
 といって、才賀孫子は、自分自身で練習することを拒み、「見るだけ」に徹した。
 それで、今日、孫子もぶっつけ本番で見事にこなしている、ということは、称賛されるべきだとは思うが……まさか、茅まで、同じ芸当を行ったとは……行うことができるとは……荒野は、ついぞ、思わなかった。
「……加納……この子、本当に、何者?」
「……だから、それ……おれも知りたいって……」

 改めて、荒野は、自分が茅のことをなに一つ知らないのだ、ということを思い知らされた。

[つづき]
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