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髪長姫は最後に笑う。第三章(13)

第三章 「茅と荒野」(13)

 帰りに、茅の携帯電話を買うことにした。才賀孫子にいわれるまでもなく、そろそろ持たせようかな、と思っていたところだし、この手の機器の日本で普及度は荒野が漠然と考えていた以上で、普通の学生である飯島舞花にしてからが、普通に友人同士との連絡に使用しているくらいだから……茅が所持していても不自然ではないのだろう……と、荒野は判断する。
 飯島舞花と栗田精一のカップルと、それに荒野自身と、コート姿の茅も含めて、人の多い商店街を、四人でぞろぞろ歩いていく。モバイル・ショップの前であーでもないこーでもないと機種の相談しているうちに、私服に着替えた才賀孫子も合流してきた。結局、孫子が実家で聞いたという、そっちの業界の裏情報の忠告を受け、某社の最新モデルを買うことになった。
 が、
「あー。でも、十八才未満の方ですと、保護者の方の承諾がないとお渡しするわけには……」
 と、ショップの店員にいわれ、しかたなく現物を預けたまま、書類一式だけを持ち帰ることになる。
「残念ねぇ……ねえ、加納。しかたがないから、明日は、あなたのを茅にお貸しなさい」
 一番残念がったのは、才賀孫子である。
 そんな孫子に、茅はいった。
「茅、楓を見つけることはできるけど、楓に追いつくことはできないの……。
 それに、才賀は、楓に勝ちたいんでしょ? 茅に手を借りて、楓を追いつめて、それで満足できるの?」
 なんの感情もこめず、淡々と、事実のみを告げる口調だった。
「……そうね……いわれてみれば、その通りね……」
 孫子は茅に指摘され、一瞬虚をつかれた表情をしたが、すぐに晴れ晴れとした表情に戻った。
「そうね。明日は、明日が駄目なら明後日は、自力であのお馬鹿を追いつめてみせますわ!」
 と、宣言する。

『……勝算があっていっているのかよ……』
 と、荒野は思った。
 才賀孫子は努力家だけど、その場の雰囲気に流されやすく、同時に、間が抜けてもいる……と、荒野は、孫子に対する印象を改めた。

 結局、ショーが続いた三日間、孫子は、楓を捕らえることはできなかった。
 初日に茅が猫耳メイド姿で飛び入りしたことも話題になり、人出だけは日を追うごとに増えたが、それ以外の展開は、初日とほぼ一緒だったといっていい。つまり、茅は、二日目三日目も、猫耳メイド姿で最後の「歌って踊る」部分に乱入して、周囲を多いに湧かせた。
 最終日のラストには、
「わたしたち、普通の女の子に戻ります!」
 という、当事をしる人なら誰もがしっている台詞まで決めて見せた。
 ちなみに、この台詞が誰かの入れ知恵によるものなのか、それとも、茅自身がどこかからか探り当てたものなのかは、不明のままに終わった。

 その「増えた人出」の中には「サンタとトナカイ複数説」を実証しようとした某大学の某サークルの閑人たちがいて、こいつらは、三十人に近い人数と複数のビデオカメラを用意し、商店街の各所に張り込み、二人の動向を細かくチェックした。

 彼らの調査の結果わかったことといえば、
一。サンタもトナカイも、同一の時間に、別の場所に現れたことはない。
二。サンタの移動過程は多く目撃されているが、ゲーム中のトナカイの移動過程の目撃例は、ほぼ皆無。トナカイは、ピンポイントで、現れては消えた。
 しかし、ここが不思議なのだが……トナカイが姿を消している……と、されている時間中も、映像には、とことこ歩いているトナカイの姿が、しっかりと収録されている。
三。トナカイの出没地点と出没時刻を点検すると、一つの目撃箇所から別の目撃箇所への移動は、直線的に移動する限り、特に不自然な速度ではなかった。
 収録されたビデオ映像の中のトナカイも、多少早足ではあったが、不自然な高速度で移動しているわけではなかった。
 という結果が、導き出された。

 トナカイの挙動自体には、不自然な点はない。現に、ビデオカメラには普通の歩速で歩いているトナカイの姿が多数、収録されている。
 ただ、その時、「トナカイの周囲にいた人々の反応」は、あまりにも不自然だった。
 カメラには写っているトナカイの存在を、まったく関知していないように見えるのだ……。
 いや、その調査をした某サークルの面々も含めて、その時、その場にいた人々には、トナカイの存在をまったく認識できない時間が、断続的に訪れた……ということは、確かなようだった。
 現に、彼らが用意したビデオカメラには、トナカイの「あっかんべ」のどアップが、多数収録させられているではないか……。
 彼らが用意したビデオの一部は、一見して撮影中とはわからないよう、盗撮などによく使われるファイバー・スコープなどで偽装れていたのにも、かかわらず、トナカイの「あっかんべ」は、まるで彼らの努力をおちょくるように、全てのカメラに、万遍なく収められていた。
 撮影中は、そのトナカイがカメラに近づいてきたことに、誰も気づかなかったというのに……。

 その結果を得た、その某大学の某サークルの者たちは、頭を抱えたという。

「……まあ、たしかに、釘をさしたとおり、一般人にはできない無茶なアクションはなし、だったけどな……」
 荒野も、頭を抱えていた。
 楓は、たしかに荒野のいいつけは……少なくとも、表面上は……守っては、いるのだ。
 でも、必要以上に人目を引いていることにも、変わりはない……。
 加えて、今回は、茅まで暴走しはじめた……。
 結果として、あの三日間以来、松島楓、才賀孫子、加納茅の顔は、地元では、かなり有名になってしまった……。
『……こんなんでいいのかよ……』
 と、不本意窮まる自体の推移に思い悩む荒野のもとに、どこから噂をききつけたのか、涼治から「茅のピンクレディの映像を、即刻送るように」という連絡が入る。
 こちらはこちらで、すっかり「親馬鹿」ならぬ「じじ馬鹿」だった。

『……たしかに、茅、可愛かったけど……』
「……それからな、前々からいおうと思っていたのだが……」
 涼治は電話で、そんな荒野にいった。
「……お前は、考えすぎだ。もっと今の、茅との生活を楽しめ」

 なんだかんだいって、この土地での友人は増えている。
 この土地に来てから携帯電話のアドレスに追加されたデータはそれなりのものだし、茅も、買ったばかりの携帯電話で、さっそく飯島舞花や才賀孫子などとやりとりをし始めたようだ……。
 と、思って、
『……そういや、楓、携帯もっているのかな?』
 と、初めて、気づいた。少なくとも荒野は、楓の連絡先は、知らされていない。
『……持っていない可能性が大きい……いざというときのために、持たせておいたほうがいいな……』
 その日、ちょうど茅は、朝からメイド服でキッチンの籠もり、おせち料理の練習をしているところだった。
「ちょっと、お隣りにいってくる」
 と茅に言い残して、ジャケットを羽織る。
 楓が不在の場合もあり得たが、それならそれで、ひさびさに庭のプレハブを覗いてみようかな、とも、思っていた。

 まだ日が高い時間なので母屋を訪ねると、羽生譲が出てきて、
「楓ちゃん? いるいる。今、荷物をまとめているところでな」
 と、奥に通された。
「あ。加納様」
 荒野の姿をみとめた楓は、平伏した後、
「……ちょうどよかった。実は、お許し頂きたいことがございまして……」
 普段の楓は結構普通の物言いをするのだが、加納や一族の関係者の前では、身構えるのか、妙に時代がかった物言いをすることがある。
「いいから、普通に話して」
 荒野のほうは、そういうもったいぶった言い回しが、あまり好きではない。
「実は……できれば、この年末、三日間ほどこの家を離れたく……」
「あー。カッコいいほうの荒野君。
 わたしからも、頼むよ」
 羽生譲からも、頼まれた。例の、「なんたらマーケット」とやらに、本を売りに行くのだという。
「いやー。売り子に予定していた子が急遽キャンセルで、人、足りなくなってさー……」
「……この家の方には日頃お世話になっているので、こういう機会に多少なりともご恩返しを……」
 荒野のほうに、異存はなかった。
 今更、楓一人がいてもいなくとも、特に情勢は変わらないと思うし……。
 もっと有り体にいえば、楓一人分、不安材料が減るし……。
「じゃあじゃあ、ついでに。この間、茅ちゃんが着ていたメイド服も、貸して」
 羽生譲は、荒野に、さらにせめ寄った。
「……そっちのほうは……茅に聞いてみないと……でもあれ、茅、かなり気に入っているようだから……借りれるかなあ……」
 とりあえず、聞いてみるだけ聞いてみよう……と、荒野は、その場で茅に電話をかける。
 一緒にいることが多いので、荒野が茅の電話にかけたのは、これがはじめてだった。
「……と、いうことなんだが……」
『……別にかまわないの……』
 茅は、荒野の予測に反して、即座に了承した。

 その結果を羽生譲と松島楓に伝えてから、
「楓、お前、携帯持っているか? 持ってないなら、こちらで用意するけど……」
 と、本題を切り出した。

 楓は、携帯電話どころか、私物をほとんどもっていなかった。
 強いて「楓の財産」ということができるのは、養成所で支給された装備や衣服、それに、この家に着てから貰った衣服……それに、先だって、商店街でのバイトの結果支給された賃金……のみ、で……。
「わかった。携帯は戻ってくるまでに、お前名義のを用意しておく」
 と約束し、
『……楓の扱いも、そろそろ真剣に考えないとな……』
 と、思いはじめた。

[つづき]
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