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彼女はくノ一! 第三話 (18)

第三話 激闘! 年末年始!!(18)

 その年のクリスマスは祝日と週末が重なって、世間的にはそれなりに盛り上がったようだが、狩野香也的にはいつもと変わらぬ日々であった。加えて、昨夜から「しばらくプレハブで寝泊まりすること」と狩野真理に言い渡されており、寝袋や毛布を持ち込んでもいたので、食事と風呂、トイレなどの些末な用事以外は、しばらくプレハブに引きこもることにした。
 思えば、この試験休みは、なんのかんのと羽生譲の頼まれ事を片付けるのに思いの外時間を取られ、自分自身の創作活動には、あまり時間をかけていない。クリスマスを越せば終業式の日に一日だけ登校し、そのあと二週間くらいの冬休みに入る。その冬休み期間中に、完全に絵に没頭するための暖気期間として、この三日間は、うってつけなような気がしてきた。
 開き直り、ともいう。

 プレハブに宿泊するようになった初日の夜、最初、寝袋を直に床に置き、その中に入ってから毛布を掛けてみたのだが、思いのほか、床が冷たく底冷えがするので、起きだして、ごそごそと部屋の隅に放置している雑貨の山をかき分け、夏の間に使用しているハンモックと探し出し、その上で、寝袋と毛布にくるまると、なんとか最低限の保温性は確保することができた。
 プレハブ内の唯一の暖房器具、灯油ストーブは、いくら寒くても、就寝時につけっぱなしにする気にはなれない。
『……年末の今でこれだから、寒さが一番厳しくなる二月前後は、一体どうなるのだろう?』
 と、香也は不安に思った。
 それまでに同居人……特に、才賀孫子……の信頼をいくらかでも回復し、早く母屋で寝られるようになるといいが……とか、思いながら、手を伸ばして照明を消そうとすると……。
「……なにをやっているんだ、君は……」
 ハンモックの上で寝袋と毛布にくるまっている狩野香也を、加納荒野が、不思議そうにみていた。

 それなりに言葉を濁して切り抜けようとしても、狩野香也よりも加納荒野のほうが、どういう観点からみても鋭く、かつ、尋問に場慣れしていたので、すぐに「女性とのむにゃむにゃで一時的にここに寝泊まりするハメに」ということが露見してしまい、すると今度は「まさか才賀に手をだしたのか? それともまた、楓のやつが迷惑かけたんじゃあ!」などと問いつめられ、結局終いには、事の顛末を、だいたいのところ、ぶちまけるハメになった。
「……いや、まあ、それは……間が悪いというか……。
 あ、でも、楓との件は、どちらかというと楓のが悪いと思うけど……」
 狩野香也の話しを一通り聞いた加納荒野は、同情とも憐憫ともつきかねる微妙な表情をつくって、狩野香也の顔をまじまじとみつめたすえ、……。
「……そういう話しきくと……おれ、複数の女性を同時に相手にしなくていいだけ、まだしも恵まれているのかも知れない……」
 とか、ぶつぶつ呟きだした。
「……まあ、お互い、女性のことでは、苦労するよな……」
 と、変に共感を込めて、ポンポンと肩を叩かれた。

 狩野香也のほうは、加納荒野の側の事情をほとんど知らないわけだが……それにしても……そういう慰められ方をしても、一向に嬉しくないのは、いったいどういう事だろう?
 加納荒野は「そういうことなら、今夜はゆっくり休むといいよ」と言い残して、その夜は帰って行った。加納荒野がこのプレハブを訪れるのには、いつも確固たる理由があるわけではなかったので、その少年がすぐに帰って行っても、狩野香也はとくに不審に思うこともなく、すぐに眠りに落ちた。

 翌朝は、才賀孫子に起こされた。孫子は「朝食の時間よ」といった後、
「真理さんが、みんなに話しがあるって」
 と、用件だけを告げて、さっさと出て行った。
 松島楓でも羽生譲でもなく、才賀孫子が香也を呼びに来たのは、多分、その真理さんのいいつけのはずで、真理さんにしてみれば、これからも同居生活を続ける以上、香也と孫子にも、それなりに良好な関係を築いて欲しいはずなので、そのための契機をつくために孫子をよこしたのだろう。
 孫子は、あれで礼儀正しい子だし、特に真理のいうことには、けっこう真摯に耳を傾ける。
 のろのろと起きだして洗面所で顔を洗い、食卓……というか、朝食の用意された炬燵につく。香也が最後だった。
「二十五日から三十一日まで……」
 住人全員が揃うと、真理は、朝食前に用件を切り出した。
「……この家を留守にします。急な話ですが、知り合いの画廊に空きが入ったため、順也さんの個展を入れることになりました」
 実際にその個展が行われるのは、二十六日から三十日まで、という話しだが、荷物の搬出入の手配などの準備や撤収などの含めて、早ければ、二十四日の夜にはこの家を出る、という。
「……その間、なにかあったら、年長者の羽生さんの指示にしたがってください」 なにぶん、この家の大黒柱のお仕事に関することなので、異論を挟むことは許されない。
「……だけど、真理さん……わたし、前にもいったけど……今年は、二十八日から三十日まで、東京だから」
 羽生譲は、コミケにいく予定になっていて、そのことはかなり以前から伝えていた。
「大丈夫でしょう」
 狩野真理は、完爾と微笑んだ。
「こーちゃんも、もう、大きいし……この家には、まだ、二人分の女手がありますし……」
 その時の真理の笑顔は、反論を許さない強靱さを、裏に秘めているように思えた。

 ……香也にとって、その日の朝食は、とても味気ないものに思えた。というか、ほとんど味を感じなかった。
 不安、を通り越して、不吉な思いを、ひしひしと、感じる。
 そんな厭な予感を振り払うように、香也は、その日、絵に没頭した。
 午後になって、樋口明日樹がプレハブに訪ねてきた。
「ね。息抜きに、商店街の方、いってみない?」
 樋口明日樹にそういわれるまで、香也は、この家の三人が準備をし、香也も少しは手伝った「クリスマス・ショー」のことを、すっかり忘れていた。忘れたままならよかったが、思い出してしまったら、行かないわけにも行かない。
 樋口明日樹と連れだって、駅前商店街を目指すことになった。

[つづき]
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