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彼女はくノ一! 第三話 (19)

第三話 激闘! 年末年始!!(19)

 狩野家から駅までは、歩くとけっこうかかる。二十分前後か。その間、樋口明日樹は様々なことを香也に語りかける。一見して、一方的にしゃべっているように見えるが、これが、二人が一緒に歩く時の、いつものスタイルだった。おかけで香也は、明日樹の友人たちや家族のことに、妙に詳しくなってしまった。
 基本的に香也は、昔ほどではないにせよ、今でも、人と接することが苦手だ。まず、狩野順也と真理に拾われ、羽生譲と出会い、樋口明日樹にも出会い……と、様々な人々と接しながら、香也は、今の形になった。昔の香也もそうだが、今の香也も、香也自身は、あまり好きではない。
 醒めていて、冷え切って、自分から誰かに働きかけを行おうとはせず……そのくせ、誰かに相手にして貰えると、どこか安堵する……。
 そんな自分の性行が、卑屈に思えてならない。
 だから、羽生譲や樋口明日樹のように、なにくれと自分に働きかけをしてくる存在がいることは、心底ありがたいと思おう。彼女らがいなければ、自分は、もっと自分の内面に引きこもった、偏狭な人間になっていただろう。誰もなにもいわなければ、学校にさえいかず、日長一日絵を描いている今の香也も相当に偏屈だとは思うが、それに輪をかけて、もっと窮屈な人格になっていただろう。

 だから香也は、羽生譲や樋口明日樹が、好きだった。ただ、それが「異性へ向ける好意」であるのかどうか、それは、今の時点では、香也には、判断できない。香也は、同性異性を問わず、本気で誰かに惚れ込んだ、という経験がなかったし……これからも、あるかどうかは、かなり疑わしい……と、香也自身は、思っている。

 昨夜、風呂場で羽生譲と行った会話の残響が、香也の頭の中に谺している。
 そうして物思いにふけってぼーっとして、生返事しかしようとしない香也に、そんな様子もいつものこと、と、割り切っているのか、樋口明日樹は、とつとつと他愛のないことを語る。語り続ける。
 実をいうと樋口明日樹自身も、どちらかというと内省的な面があり、人と話すことは、あまり得意ではない。学校など、大勢で固まって話す時は、率先して発言するよりは聞き役に回る方だし、友人や知り合いの人数も、同年配、同性の少女たちの平均よりは、かなり下回るだろう。
 そんな樋口明日樹が、歩きながら訥々と身の回りの事を香也に話す。香也は、聞くとはなしに聞いていて、時折、「……んー……」とか生返事を返すことがある。
 通学の時になどに、よく見られる光景で、香也は、樋口明日樹との、こうしたなにげない時間が嫌いではなかった。

「……すごい人……」
 駅に近づくにつれて人が増え、段々と前へ進むのが困難になってきた。このローカル駅周辺が、これだけ人であふれかえっているのは、かなり珍しいんじゃないだろうか……。
 少なくとも香也は、駅周辺がこれほど混雑しているところに、行き当たったことがない……。
「……三連休、だからかな? ……それとも、あの二人のおかげ?」
 後者だとしたら、かなり画期的なことなんじゃないか、と、香也も思う。こんな、地元住民にしか、かえりみられない駅に、これだけの人を集めた、というは、なかなか出来ることではない……。
 で、困ったことに、「あの二人」以外の要因、人手の原因となる事柄が、香也にも思い浮かばないのであった……。

 なんとか人垣をかき分けるようにして駅前まで出ようとしているうちに、ショーの始まる時間になった。放送が入り、簡単な羽生譲の司会の後に、才賀孫子が唐突に賛美歌を歌い出す。歌や音楽にあまり関心のない香也にしても、声域がかなり広く、音量豊かな、堂々たる美声、であることは、容易に理解できた。商店街の安物の放送システムを介して伝わってくる「声」でこれほどの迫力があるのだから、生で、目の前で聞いたら、そういう凄い見物……いや、聞き物、に、なるのだろう。
 香也たちと同じように、なんとか駅前にでようと藻掻いていた人々も、一旦足を止め、惚けたように、孫子の歌声に聞き入っている。孫子の歌には、聞いた者の時間を停止させる力があるように思えた。
 孫子の歌が終わるや否や、はやり放送で、

「おーっと! 大変だ! トナカイだ! サンタさんが歌っている隙に、トナカイが、大事な子供たちのプレゼントを持ち逃げしたー!」

 という、羽生譲の声が聞こえた。
 しばらくの間を置いて、

「さぁー。大変なことになってしまいました! 逃げたトナカイを追ってサンタもどこかに消えてしまった! ここで皆さんにお願いがあります。トナカイとサンタは、この商店街のどこかで今も追いかけっこをしています!
 二人を目撃した方はメールで、****、あっと、****、どっと、こっむ、まで、情報をお寄せください! みんなでプレゼントを持ち逃げしたトナカイを追いつめましょう!」

 という「つづき」が入る。なるほど、そういう趣向なのか、と、香也は納得した。なんだかんだいいながら、「トナカイの現在地」として、商店街の店舗の名前を御連呼し続ける羽生譲。どうやら、トナカイは、ちょうどいい時間になるまで、サンタには捕まらないことになっているらしい……。
 とかなんとか思いつつ、人混みをかき分けるようにして、ゆっくりとした足取りで前に進むと、三十メートルくらい先のほうで、「うわぁ、トナカイだ!」とか「トナカイがでた!」とかいう声が聞こえてきた。
 どうやらトナカイは、唐突に「でる」ものらしい……。
「香也様!」
 とか思っていると、やはり唐突に、すごく近くで松島楓の声がした。
 え?
 と振り返ると、すぐ横に、トナカイの着ぐるみをきた松島楓の姿が、立っていた。
「……来てくださったんですね……ゆっくり楽しんでいってください。今は逃走中なので、これで失礼します」
 ぺこりと一礼し、ふ、と、文字通り、その姿が消えた。
「トナカイはどこ!」
 いくらもしないうちに、ミニスカのサンタが強引に人をかけ分けて、近くまで駆けてきた。
「あら、あなたたち。来てたの? トナカイ見なかった?」
 見たけど、すぐに消えた、と告げると、爪を噛んで「……あのお馬鹿が……」とこあ、ぶつくさ呟きはじめた。トナカイに容易に近づけないことが、よっぽど悔しいらしい。すぐに、次のトナカイの目撃地が放送され、サンタの孫子は、「急いでいるから!」と叫んで、また、強引に人混みをかき分けて、その中に入っていった。背中に「がんばれよ!」とか、無責任な野次馬の声援がかかるが、サンタのほうには、それに応える余裕がないようだった。

 どうにかこうにか駅前にたどり着くと、もうエンディングの時間になっていた。本当に凄い人手で、この商店街がここまでにぎわったのは、数年……いや、何十年も前、なのかもしれない……。「人集め」のイベントととしては、充分に性行だろう……。
 そんなことを香也が思っていると、盛大な拍手をうけて、サンタとトナカイがステージの上に立ち、アップテンポな、いかにも軽薄なメロディが流れはじめる。香也はその曲をしらなかったが、「音響とかから考えたら、かなり昔の曲なんじゃあ……」とか思っているうちに、二人はその軽薄なメロディに合わせ、揃って、なんとも奇妙な踊り……多分、その曲の振り付け、を、はじめ、更にしばらくすると、とてもシュールな、意味があるようなないような、変な歌詞を、歌い出した。

 ……シュールといえば、駅前の特設ステージの上で、ミニスカ・サンタとトナカイの着ぐるみの二人が、歌って踊っている状況自体、かなり、シュールなのだが……。

 周囲をみわたしてみると、観客たちは、単純に「イロモノの演し物」として、受容しているようだった。なるほど、「宴会芸」としてみれば、確かに、意外性といい、動きの派手さといい、申し分ないのだろうが……。なにより、歌詞がイロモノでも、孫子の歌は相変わらず聞く者を圧倒する力がこもっていたし、二人の踊りも、ろくに練習していない割には、決まっていた。
 そして、二人が二曲目に入った時、ハプニングが、起こった。

「……おーっと、突如、猫耳メイドさんの乱入だ!

 現在、駅前特設ステージでは、サンタとトナカイと猫耳メイドさんの三人囃子変則編成ピンクレディー・メドレーが行われております。三人とも一糸も乱れぬ見事な踊りっぷり。これは、ナマでみなくては、一生の損です。是非一度、ご覧ください。明日も明後日もやっております……」

 茅、だった。
 なぜか、エプロンドレス・スタイルのメイド服と猫耳をつけた茅が、ステージの上に乱入し、二人と同じように、歌って踊り始めた。すぐに、羽生譲が、茅に自分の持っていたマイクを手渡す。

 駅前で、ピンクレディを歌って踊っている、ミニスカ・サンタと、トナカイと、猫耳メイド……。
「……シュールレアリスム、だ……」
 呆然と、香也は呟いた。
「……シュールレアリスム、だ、ねぇ……」
 香也の傍らにいた樋口明日樹も、呟く。ただしこちらは、半ば本気で感動している香也とは違い、半分以上、呆れかえっていたが……。

 香也は、なんだかよく分からない衝撃を、そのステージから受け止めていた。
 香也にとってそのステージは、手術台の上でミシンとコウモリが傘が出会うくらいには、衝撃的な光景だった。
『……ぼくは、これ以上の衝撃を、観る者に与える作品を、今後、作ることができるんだろうか……』
 香也は、本気でそんなことを考えはじめていた。

[つづき]
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