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髪長姫は最後に笑う。第三章(15)

第三章 「茅と荒野」(15)

「本当はお姫様のご尊顔も一目を拝見してみたかったんだがな。
 そこの荒野が怖い顔して睨んでいるし、今日の所は早々に退散するわ……」
 そういうと野呂良太は、一足で背後に跳び、ベランダの手すりを飛び越え……。
「……じゃあなあ、荒野!
 一族とつるんでない調べ屋が必要になったら、いつでも声を掛けてくれや!」
 ……そのまま、空中へと、ダイブする。

 荒野がベランダの手すりに身を乗り出すと、寝そべった姿勢のまま、野呂良太は帽子を軽く持ち上げ、目礼してから、手首をひらめかせた。
 野呂の手首から、なにか透明な細長い物が、非常階段の方向に射出される。多分、ピアノ線とかワイヤー……それに類したものを、手首にでも仕込んでいたのだろう。
 案の定、野呂は、次の瞬間には、その強靱な糸をたどって、非常階段にとりついている。慣れた身のこなしで、ベランダを飛び出してから階段にとりつくまで、わずか、一、二秒ほど、だろうか。
 あのような仕掛けを多数用意し、なおかつ、野呂の脚力が加われば……なるほど、「逃げ足が自慢」とも、いいたくなるだろう。

 だが、荒野は、笑いたくなった。
 今の野呂は、フリーランスであるため、荒野のように一族の情報源に気軽にアクセスできる立場ではない。だから、多少の情報不足は、しかたがないといえば、しかたがないのかもしれないが……。
 それでも、自分の術に溺れ、事前調査と逃走経路を確保する努力を怠ったのは、いいわけのしようもない失態だ……と、荒野は、そう思った。

 荒野が部屋を出るのと同時に、松島楓も俊敏な挙動で、ベランダのほうに向かう。
 茅も、動く。
 2LDKのうち、衣装部屋になっているほうの部屋に向かい、無骨な塊を抱えて、すぐに帰ってくる。
「これ、才賀の!」
 一声、そういって「それ」を才賀孫子に手渡すと、きびすをかえし、
「羽生! 来て!」
 すぐに、荒野が開け放した玄関から、外に出ていった。

 松島楓は、三島の部屋からは階下にあたる荒野たちの部屋のベランダから、文字通り、飛び出していた。
 途中でベランダの手すりに捕まりながら、跳躍を続けあっという間に三島の部屋のすぐ下にまでたどり着く。

 ちょうど、その時……そこから、野呂良太が、空中に身を踊らせた。
『……迂闊な……』
 身一つで、ベランダの手すりを駆け上がってくる、松島楓のような人間が階下に控えていたとは、野呂良太も予測していなかったのだろう。
 しかし……自由落下に身をゆだねる、ということは、容易に軌跡を読める、ということを意味する。敵地でそのような行動を選択するのは、あまりにも慢心がすぎるのではないだろうか?
 野呂良太の不用心さには同情せず、楓は、躊躇なく得物を投擲する。

 非常階段にとりついていた野呂は、予想していなかった下方からの攻撃を、風音で察知した。野呂の者は、「健脚と鋭敏な五感」が自慢なのである。
 野呂良太は、音を頼りに、すんでのところで身をよじって投擲された「六角」をかわす。しかし、とっさのことで全てをかわしきれず、六角の一つが、ワイヤーとアンカー、それにガスによるアンカーの射出装置を組み込んだ特製のグローブをかすめ、野呂の右手からもぎ取る。
 声を上げるいとまもなく、はるか下方に落下していくグローブを見て、野呂は、舌打ちをする。
 組織のバックアップが期待できないフリーランサーの野呂にとって、こうした「特殊装備」を失うことは、かなりの痛手になる。
 それよりも……。
「……六角、だとぉ……」
 無警告で六角を投げつけてくる、襲撃者の剣呑さに、驚愕する。

 六角とは、一族の組織で開発された、投擲用武器の名だ。その名の通り、ずんぐりとした六角柱の形状をしており、天辺と底辺には起伏を与えられている。しかし、手裏剣のように刃はついていない。鉛などの重金属を主体とした合金製で、強靱な繊維を織り込んだ防刃仕様のジャケット越しにでも、相手にダメージを与えることを目的として開発された。訓練された術者が扱えば、防弾ヘルメットくらいは簡単に貫通する。生身の人間に使えば、回転しつつのめり込み、周囲の肉をミンチにしながら下にある骨を砕く。

 つまり、「警告抜きに六角を使う」ということは、
「これから、お前のドタマかち割って脳味噌飛び散らすぞ」
 という強固な意志を伝えているのと、同義である。

 その、凶暴な襲撃者の正体を確認しようと視線を落とし、野呂は、言葉を失った。
 一族の関係者としか思えない俊敏な身のこなしで野呂のほうに向かって殺到してくる攻撃者の姿は……。
「……メイド服、だとぉ……」
 確かに、メイド服を着たままの松島楓が、怒気もあらわに、すぐそこまで迫っていた。
「……って、そんなことに関心している場合じゃないって、おれ!
 やべぇって!」
 あっけにとられている場合ではない。メイド服の襲撃者は、殺気を隠そうともしていなかったし、狙いの正確さと身のこなしで判断する限り、腕は確かなようだ……。おそらく、六主家クラス、の能力の持ち主だろう。
「あんなの」が……荒野のほかに、あんな伏兵がいるとうことは、全くの予想外だった。もはや体裁に拘っている余裕はない。
 もともと、荒野たちと敵対するつもりはなかったし、荒野にもいったが、野呂は、加納以上に荒事が嫌いなのだ。
 三十六計、逃げるにしかず。

 野呂良太は、後ろも見ずに全力での遁走を開始した。野呂の者は、六主家でも最も「速い」、とされる。その野呂の中でも、良太は群を抜いて脚力がある、といわれている。
 その野呂良太が、なりふり構わずに「逃げ」を打てば、追いつけるものはいない……はず、だった。

 野呂良太は、非常階段を全力で駆け下り、途中から、電信柱に飛び移り、電線の上を走りはじめた。通行人や車両がいきかう地上よりも、真っ直ぐに逃げるだけなら、こちらのほうが早い。
 正体不明のメイド服は、執拗に野呂の後を追いすがってくる。
 悪くない速度だ、と、野呂は評価する。
 野呂以外の六主家の者だったら、あっけなく捕らえられていただろう。
 だが、それでもこの時点での野呂は、襲撃者を引き離す自信があった。なにしろ、自分は、当代の野呂で一、二を競う「野呂良太」なのだ。
 さらに、加速……しようと思った矢先、野呂良太は、不意に悪寒を関知する。……微かな硝煙と鉛玉の臭いに続き、微妙な空気の振動、遠くから発射音……などの情報が野呂良太の脳裏に「警告!」を発し、反射的に野呂良太は、電線の上でたたらを踏み、すぐそばの民家の屋根に飛び移る。

 この辺の家は二階から三階建てが多く、近辺で一番背の高い建物が、今し方、逃げ出してきたマンションで……そのマンションから、あきらかに野呂を狙った銃弾が、何発も発射されているのを、耳と目と鼻と皮膚で、感じる。
 肉薄してくる銃弾を視認(シュルエットからみて、ライフル弾だった)し、舌打ちをしながら、気配を絶つ。
 ライフルの射手が一族以外の者なら、これで、標準がつけられなくなるはずだった。
 そんな事をしながらも、野呂は、従来と変わらない速度で屋根を伝わって走り続け、逃げ続ける。後ろからはメイド服も迫ってきており、野呂が速度を緩めれば、即座に補足されてしまうだろう。そのメイド服、楓の投げる六角も、音を頼りにかわし続ける。ライフルのほうは、気配を絶った時点で標準がかなり曖昧になった。ほとんど、当てずっぽうになった、と、みていい。が、メイド服の追跡者の六角の方は、相変わらず正確に野呂の行き先を予測し、投擲されている。正確すぎたため、軌道を予測しやすく、かえって避けるのが楽なほどだ。
『……実戦未経験の優等生、ってところかな?』
 あまりにもマニュアル通りの対応をみて、六角を投げてくる襲撃者の人物像を、そう野呂はそう予測する。
『……さて……どう、あしらいましょうかねぇ……』
 野呂はにまだ、余裕があった。まだ、完全に退路を断たれたわけではない。
 であれば、逃げる算段はいくらでもつく……筈だった。
 そう思って、再度、速度を上げようと思ったその時……。

 野呂のすぐ前の空間を、ライフル弾がかすめていった。
 もう一歩、いや、半歩でも前にでていたら、確実に野呂の胴体に当たっていただろう。
 なぜか、ライフルの射撃手は、気配を絶つ以前より、正確に狙いをつけるようになっていた。

『おしかったの。かすめたの』
 才賀孫子は、いくらスコープ覗いても、獲物の視認ができなかった。
 クリスマス・ショーの時、松島楓が使ったのと同じような技を、使っているらしい。
 しかし、その不利を、茅が携帯電話越しにサポートした。
『高度そのまま。東にコンマ五度修正。三秒後、二、一、ゼロ』
 携帯電話経由の茅の誘導にしたがって、才賀孫子は引き金を引く。

 ……まったく、なんて子なの……このわたくしに、勢子代わりの援護射撃をやらせるなんて……。

 急に標準が正確になったライフルから身を隠すように、野呂は、屋根の上から路地に降りる。遮蔽物をまたいで弾丸を送り込む銃は、まだ開発されていない。
『随分、派手な真似をしてれるじゃないか。この、日本で……。この、町中で……』

「もう、逃げられないのです!」
 足を止めた野呂良太の頭上から、声が聞こえた。
 目線を上げると、両腕を組んで電柱の上に仁王立ちになっている、メイドさんがいた。

[つづく]
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