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髪長姫は最後に笑う。第三章(17)

第三章 「茅と荒野」(17)

 人数が多いため、2LDKの荒野たちのマンションでは狭い、ということで、茅のおせち料理を重箱に詰め、全員で、毎度おなじみの狩野家の居間、に移ることにした。

「……しかしお前さん、その恰好……淡いピンクで配色が統一されていないのが、せめてもの救いだな……」
「……おれの前髪、もこもこカールしてませんし、自分で『不死身の……』とか名乗るほど酔狂でもありませんぜ、先生……」
 三島百合香と野呂良太は、なんだか微妙にマニアックな会話を交わしはじめている。
「……先生のほうこそ……資料とかでイメージしてたのは、もっと知的でクールな大人の女性だったのに……実物のほうは……」
 そういう野呂良太は、帽子を脱ぐ。
 二十代後半、といったところか。三十にはなっていないだろう。顔立ちも、取り立てて美男というほどでもないが、それなりには整っている。目鼻の大きさや形が整いすぎていて、かえって印象が薄くなる……そんなような顔立ちだった。
「勝手にいってろって。こっちはずっとこの体でやってるんだ。その手のことはいわれ慣れてるって……で、なんだ。さっきの続きだが、お前さん、茅の正体がどうのこうの、いってたろ? あれ、今から吐く気にはなれないかね? ん?」
「おいおい! ここでかぁ?」
 野呂良太は、炬燵に両手を突っ込んだまま首を回して、そこにずらりと並んだ面々を示す。
 荒野と茅、三島百合香、松島楓……あたりは、まだいいにしても、狩野香也、羽生譲、才賀孫子は、あきらかに部外者である。
 それ以上に……。

「一番、羽生譲! 脱ぎます!」
「おやめなさい! あなたには恥じらいというものがないのですか!」
「そうそう堅いこというなよ、ソンコちゃん……」
「わたくしの名前はソンシです!」
「じゃあ、女子全員集合! みんなでピンクレディやろ。宴会芸はあれでキマリ!」
 外野が、早くも盛り上がり初めていた。とてもじゃないが、突っ込んだ話しをしたくなる環境ではない。

「……話せっていうのなら、話してもいいけどよ……。
 この場で、すぐにかぁ……。
 それにいっとくけど、おれのはあくまで、推測だぜ。状況証拠的に、こうなんじゃないか、って……そちらさんがどうやら、おれがたどり着けた結論にだどりつけなかった、ってのは、確かに驚いたけどよ……」
「……いわれてみれば、別に急いで聞き出す必要もないか……まあ、まずは酒だな……」
 三島百合香も、あっさり引き下がる。いつでも聞き出せる、と思ったのか、それとも、自力でも、いつかは同じ結論に達すると思ったのか……。
「んじゃあ、とりあえず、お前も楽しめ!」
 そういって、手にしていた杯をくいっと煽って、立ち上がり、
「お前らの踊りはまだまだ浅すぎる! お手本を見せてやる!」
 とかいって、アカペラで「UFO」のイントロを歌い出し、それに合わせて踊りだす三島百合香だった。
「……なあ、荒野……」
「わぁ! どさぐさに紛れて未成年に酒勧めてままわらないでください! 羽生さん!
 ……って、なんですか? ノラさん?」
「……お前さんところは、いつもこんな感じなのか?」
「この家、おれんところ、ってわけじゃないんだけど……この家は、まあ、だいたいこんなもんですね。
 あ。これ、食います? 茅が作った昆布しめ。よく味がしみてて、酒に合いますよ」
「あははははは。暑いのです。二番、松島楓、脱ぎます!」
「わぁ! 楓ちゃん! こんなところで脱ぎだしたら駄目! いつの間にこんなに飲んだんだ!」
「……いただこう……。ちょいマジな話しは、また後でな……。
 ん。意外といけるな、これ……」
「それはよかったの」
「お嬢ちゃんがつくったのか、これ。料理、うまいなぁ……」
「茅の料理はわたし仕込みだ。それからな……」
「ん?」
「この子がな、お前のいう、姫ってやつだから」
 三島百合香が茅の頭をぽんぽんと平手で軽く叩くと、野呂良太は、その場でしばらく硬直した。
 そして、ゆっくりと周囲を見渡す。
 メイド服を脱ごうとしている松島楓。それを止めようとしている狩野香也。歌って踊っっている羽生譲。怒りながらも隣でそれにつきあっている才賀孫子……。
 炬燵には、野呂良太と加納荒野が並んで座しており、その側に、加納茅と三島百合香が、立っている……。
「……この子が……姫、だって……」
「……あ。ああ……。
 一族では、そういう呼ばれ方も、しているらしいね……」
「……髪長姫……」
「そう、それ。最近はそんな呼び名、すっかり忘れていたけど……」
「……なるほど……」
 野呂良太の顔が、ゆっくりと、歪む。
「……仁明は隠し、荒野は露にする……。そうか……いや、それが、正解なのかも知れないな……。
 お嬢ちゃん……茅ちゃん、とか、いったか……。
 ちょっと聞きたいんだが、あー、君は、今、幸せか?」
「幸せ、の定義をして貰わないと、答えられないの。
 仁明といた時は、閉じていたけど充足していた。
 荒野といる今は、開いているけど不安定……。
 どちらがいい状態かは、判断が難しいの」
「……頭がいいな、お嬢ちゃん。そうそう。そういうことが、聞きたかったんだ。
 じゃあ、言い方を変えよう。
 お嬢ちゃん自身にとって、今の環境は、満足できるものなのかい?」
「おおむね。
 細かい所で不満点もあるけど、それは環境のせいいうよりも茅自身の肉体的な限界に起因する点が多いの。例えば、茅はもっと多くのものに触れ、多くの事を知りたいと思っているけど、一日に何時間かは睡眠を取らなければ、受け入れた情報を処理する効率が激減する。
 荒野は茅が知りたいものに触れることを手助けしてくれるし、周囲のみんなも適度にフレキシブルな刺激を与えてくる。
 茅自身の肉体的生理的な限界値以外、特に不満に思う点はないの」
「確かに、仁明の所では……学習という点でも、かなり限界があったか……」
「ここは、仁明の所よりも不安定かも知れないけど、図書館もネットもあるの」
「……そう考えると……お嬢ちゃんがここに来たのも、いいタイミングだったのかも知れないな……うん。そうだ。お嬢ちゃんは、あんなちっぽけな廃村で終わるような器じゃないもんな……。
 おい、荒野! このお嬢ちゃん、大事にしろよ!」

[つづく]
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