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髪長姫は最後に笑う。第三章(18)

第三章 「茅と荒野」(18)

「荒野が茅を大事にする、というのは、少し違うの……」
 茅がそういうと、野呂良太は怪訝な顔をした。
「だって、荒野は、茅を対等の相棒だといってくれたの。
 だから、荒野が茅を大事にするのなら、茅も同じくらいに、荒野を大事にするの。どちらかがどちらかに、一方的に奉仕したり依存したりする関係ではないの。
 それが、仁明と荒野の、決定的な違いなの……」
 最初、怪訝な顔をしていた野呂良太が、茅の言葉を理解し、徐々にk顔を緩ませる。そして、耐えきれなくなった、といった具合に、頭をのけぞらせ、大声で笑いはじめた。その場にいた全員が、大声で哄笑しはじめた野呂良太を、何事かと注視する。
「いや、そうか! 姫と荒野は対等なのか!
 そうだな! そりゃあ、仁明にも、他の誰にも、できねー芸当だなぁ……」
 そういいながらも、野呂良太は、げたげた笑うことを止めない。
「……なにがそんなにおかしいのか、よくわからないけどさ……」
 自分が笑われている、と思ったのか、荒野は憮然とした顔をして、いった。
「あんたらにとって茅が何者かは知らないけど、おれにとって茅は……小さくて、見ていて危なっかしい、目の離せない女の子……ただ、それだけだよ」
「いやいや! 別にお前さんを馬鹿にしているんじゃないよ、荒野! むしろ、逆だ。全くもって、お前さんは、実に、正しい。
 ……で、涼治のじいさんは、茅のことについてどういってた?」
「茅を笑えるようにするのが、おれの仕事だって。それから、最後の連絡した時は、茅との生活をもっと楽しめ、ともいってたな……」
「なるほど、なるほど……」
 野呂良太は、なんとかこみ上げてくる笑いをかみ殺しながら、一人でうんうんと頷いた。
「加納のじいさんの考えていることが、段々みえてきた。そうか。理にかなっているっていやぁ、たしかに理にかなっている……後は、他の六主家の連中が、素直に納得してくれるかどうかだ……」
「おい! お前!」
 荒野とは別に意味で、三島百合香もムッとしていた。
「なに一人で納得している! もったいつけてないで、詳しく解説してみろって、今すぐ!」
「……おれにいわせりゃ、あんたみたいな人が、未だに、真相、見えていないってぇのが不思議なんだがね、先生……。まあ、いいか。
 今、しゃべれってんなら、しゃべっちまいましょう。
 ただし、これから話すのは、あくまでおれの推測だ。おれは、何年も前に足抜けしてっから、一族の中枢の情報にはアクセスできない。だから、不完全な情報を元にした、なんの裏付けもない、ただの推測だ……」
 そう前置きしてから、野呂良太は、加納茅の正体について、自分の推理を述べはじめた。

「……と、いうところだが……どうだい、先生。
 こう考えると、辻褄が合うだろう?」
「……たしかに、それに近いことは、チラリと考えついたような気がするけど……」
「先生は一般人だからな。なんだかんだいって、一般的な倫理コードに縛られている。こういう発想をする事自体、無意識理に封じているんだと思う……」
「……でも、おれや先生が、今までノラさんのような結論を今まで出すことが出来なかった、っていうのは……」
「荒野、お前は加納の直系、一族内部の……それも、中枢に近い人間だ。先生が倫理に発想を縛られていたように、お前も、その自出故に、一族の特殊性を、普段はあまり特殊だとは感じていないんだよ……。
 まあ、二人して、余計な先入観にとらわれていたってわけだ。
 その点、おれは足抜けしていて、一族のことを外から見ることが出来るし、それに、倫理的な束縛からも、比較的自由だ……。
 あと、おれが、この推論に自信をもっている根拠は……あんたの存在だ、三島先生。
 なんだって、涼治は、あんたなんて部外者をわざわざ引っ張り込んだんだね?」
「……わたしの、本来の専門が……」
「そう。たしか、民間の、ヒトゲノムの解析とか、先天的な遺伝子病の治療法を研究する機関にお勤めだったよなあ、先生……涼治のじいさんに引き抜かれるまでは……。
 じいさん、先生や荒野に、自力で早めに、おれと同じ結論を出して欲しかったんじゃないのかい?
 さて、ご本人はどう思うかね、お嬢ちゃん。
 今のおれの推論、なにかおかしな所はあるかね?」

「おかしな所はないの」
 茅はいった。
「推論はあくまで推論で、証拠はなにもないのだけど……論理的に、おかしな所は、ないの。
 多分……わたしは、姫は……そういう存在だと思うの」

「その推論が、正解だったとしても……」
 荒野はいった。
「なにも、変わらないよ。
 茅は、茅だ。少なくとも、おれにとっては……」

「だからよう……」
 野呂良太もいった。
「涼治のじいさんも『もっと楽しめ』っていったんだろ、お前に。
 荒野、お前も、たった今、いったばかりじゃねぇか。
『茅は、小さくて、見ていて危なっかしい、目の離せない女の子』だって。
 だからそれで、そのままで、いいんだよ。
 目の前に女の子がいりゃあなぁ、正体なんざ関係ねえし、意味もねえんだよ。一人前の男だったらなぁ!」

「早まるなよ、ノラさんとやら」
 三島百合香はいった。
「たしかにお前さんのその推論は、辻褄が合う。だがな、それで、即、正解って決まったわけでもない……」
「涼治のじいさんなら、正解、知ってるはずなんだが……素直に答え合わせしてくれるようなら、最初から荒野に説明しているよなあ……」
「うん。うちのじじいは、正面から聞いても、なんだかんだと、はぐらかすだけだと思う……」
「……やっぱ、もう一人の第三者にご登場願うか……。
 やつがおれと同じ結論にたどり着けば、この推論が正解である可能性は、かなり高くなる……」
「東京にいるとかいう、さっきの名刺の裏に書いたヤツか?」
「それそれ。奴さん、いけ好かない野郎だが、断片的な情報から大筋を掴みだす勘だけはいいからなあ……」

 その夜、荒野は、初めて茅を抱いた。

   [第三章・了]

[つづき]
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