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髪長姫は最後に笑う。幕間劇(一)

髪長姫は最後に笑う。幕間劇(一)

「……あんたが、三島、百合香さん?」
 その男は、待ち合わせ場所に三島百合香が顔をだすのと同時に、そういって近づいてきた。
「……本当に、野呂さんがいった通りだな。前もって話しをきいてなけりゃ、とても大人には見えん……」
 その男は、三島百合香の顔をしげしげと見つめて、肩をすくめて首を振りながら、そういった。
『……初対面の人間に、初っぱなからいう台詞かね……』
 三島のほうは、野呂のいったとおり、「なるほど、とっつきの悪い、変人だな」と、思った。
「……それを確かめるために、こんな場所を指定してたのか?」
「いんや。ここ、知り合いがやっている店でね……」
 渋谷の雑居ビルの中にある、小さなバーだった。
「なにかと融通きくし、他の客を入れる前に、無理いってわざわざ店を開けて貰ったんです。
 まあ、こちらのオーナーにも久しく顔会わせてなかったもんで、ついでに、ってのもありますが……」
「……ついでに、ねぇ……」
「そう、不満そうな顔しないでくださいよ、三島さん。
 ここは奢りますから。
 カウンターで悪いですが、どうぞ、こちらに。なんでも注文してください」
 といっても、その男には野呂経由で、すでに十分な報酬が支払われているはずなのだ。その金額に比べれば、酒の一杯や二杯は、どうということもないはずだった。
「そういじめないでくださいよ、三島さん。
 こっちも、野呂さんの紹介だからこそ、こうしてつき合っているわけだし……そちらさんには関係のない話しですが、こっちも大概にごたごたしていましてね……。ちょっと前のクリスマス、今年は三連休だったでしょ?
 あの時、若いもんの火遊びにちょっくらひっかかっちまってましてね……洒落にならないダメージ受けたばかりで、まだ本調子じゃないもんで……」
「……まったく、近頃の若い者は……」、とか、「……この一件も、野呂さんの口利きじゃなければ、引き受けなかったなかったのに……」、とか、これ見よがしにぶつくさ言いはじめた男の顔は、確かに、憔悴しているようにみえた。
 年齢と職業の、見当がつけにくい男だった。
 三十代、だろうか? くたびれた革のジャケットにボロボロのジーンズとスニーカー、それに無精ひげ。自由業風、ないしは、失業者風の中年……といった風体だが、視線だけが、やけに鋭い。

「……で、さっそくメールに添付された資料、ざっと拝見させて頂きました……。
 わたしのような平々凡々たる人間には信じられないような部分も、若干……いや、ほとんどが、そうか……ですが、ここでは、それらの詮索は、いたしますまい。
 全てを事実、と、仮定した上で、話しを続けます。
 真偽のほどを判断することは、わたしの報酬分に入っていないと思いますし、なにせ、野呂さんご本人の人間離れした部分も、よーく存じ上げているもんでねぇ……」
 とろん、とした、いかにも眠たげな目つきのわりに、それなりに判断力はあるのかもしれない、と、三島は目の前の男を評価しはじめる。
 話し方に、無駄がない。
「……で、渡された資料の内容が全て事実、と仮定した上で、姫の正体を推測せよ、というのが今回のご依頼なわけです。
 整理すると、

 その一、前提。一族、または、六主家の人々、及び周辺に関する情報を、全て事実とする。
 その二、問題。その前提で、姫……茅ちゃん……の正体を推測せよ。

 ……というわけですな……。
 シンプルにこう考えてみると、割と簡単に答えが思い浮かびましたよ……」
 ここで、男は、一息、深々と呼吸をした。

「茅ちゃんは、多分、六主家の特性全てを受け継ぐように合成された、ハイブリットです。

 彼女が生まれたと推測される九十年代、すでに遺伝子改良技術はポピュラーなものだった……。まあ、実際に使われているのは、植物の種籾とかが主ですが……。
 ヒトに使われた例が少ないのは、ほ乳類以上に複雑な生物に、その手の技術を施した際の成功例があまりにも少ないのと……後は、倫理的、ないしは、道義的な問題だけです。
 何年か前、クローン羊がでただけで、あれだけ話題になる世の中ですから……。
 ……おっと、この辺は、三島さんのご専門でしたな……。

 だから、そうしたタブーにあまり関心がなく、かつ、必要性を強く感じていて、実験を続行するだけの財力と、それに、並々ならぬ意欲、ないしは動機をもった集団があった、と、すれば……。
 例えば、交配、という原始的な方法で自分たちの性能を思うように伸ばしてきた、一族、みたいな集団が、ですな……そんな集団が、遺伝子改良、などという魅力的な技術を……手を伸ばせば届く範囲にまで成熟してきた技術を、放置しておくとは……やはり、思えないんです……。
 幾多の失敗をものとせず、不屈の熱意を持って、なりふり構わず試行錯誤を繰り返し続けたとしたら……。
 数年とか、割と短い期間でも、それなりの成果を出せたと思います。

 茅ちゃんは、そのプロトタイプ……の、成功例、なのではないですか?
 人工的に遺伝子を弄くられた人間の生存確率とか、あるいは、特定の因子や能力のみを延ばすようなタイプの遺伝子操作の成功確率とか、その辺を判断する知識は、わたしにはありません。
 が……。
 ……今の技術レベルから類推するに、かなり貴重な成功例、なのでしょうねぇ……。

 それに……茅ちゃんを育てた、といかいう加納仁明氏も……その当時、加納という家の跡継ぎ、と目されていた人物なわけでしょう?
 それだけの大物が、何年もかかかりっきりで、たった一人の子供の教育係になる、っていうんなら……やはり、一族全体にとっても、かなり重要な意味を持つ、プロジェクトだったんだと思います……。
 茅ちゃんの育成……あるいは、『姫』がどこまで使えるのか、見極めることは……。

 その割には、その仁明氏は、その茅ちゃんを、ごくごく普通の子供として教育したようで……その辺りが、腑に落ちないといえば、腑に落ちないんですが……あるいは、仁明氏は、一族の総意に逆らって、茅ちゃんをあえて普通の子として、育てたかった……のかも、知れませんな……」

 その推論は、数日前、野呂良太が開陳したものと、大筋ではまったく同じものだった……。

「……茅ちゃんが発見された当時、性交渉の痕跡があった、というのも……器具を挿入して、卵子を採取したためでしょう。
 茅ちゃんは当時、そこまで成熟していたはずだし……あるいは、一族にとっては、茅ちゃん本体よりも、茅ちゃんの遺伝子情報のほうが、重い意味を持っていた、ということも……充分に、考えられるはずです……」

 言葉を切ると、男は、カウンターの中で開店前の仕込みをしている女性に、空になったグラスを掲げた。
「青子さん、お代わり」

[つづき]
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