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彼女はくノ一! 第三話 (23)

第三話 激闘! 年末年始!!(23)

 松島楓と才賀孫子は夕方から商店街のクリスマス・ショーに出演する予定だったし、加納茅も、昨日と同じように、乱入するつもりのようだ。茅がいくところには、大抵、荒野もついていく……。
 ということで、昼食に、職員たちと同じ仕出し弁当をとった後、松島楓と才賀孫子、それに加納兄弟の四人が帰っていった。
 加納荒野は帰り際に、香也に向かって「いい経験をさせてもらった」と言い残した。

 香也と樋口明日樹は、残って子供たちの似顔絵を描き続けた。
 多少、経験はあるといっても、対面して、見ず知らずの人間の顔を描いた経験がない樋口明日樹は、はじめのうちは萎縮して、手も滞りがちになり、線も硬くなってしまったが、隣で、マイペースで描き続ける香也との差を子供たちにはやし立てられるようになってからは、奮発して、本領を発揮しはじめた。明日樹は、隣に香也がいることも忘れて、その時描きかけの絵に没頭する。一人、また一人、と、目の前に次々に座る子供たちの顔を見据え、その特徴を素早くスケッチ・ブックに描き写す……。
「……もう、終わり……」
 香也に肩を叩かれて、明日樹は我に返った。
「……もう、一通りいきわたったみたいだし、いい時間だし……帰ろう。送ってく……」
 見渡すと、周囲に群がっていた子供たちは、すでに散っている。短い時間のように思っていたが、すでに日が暮れかかっていた。

「……こんなこと、毎年やってたんだ……」
 帰りのバスの中で樋口明日樹は、香也に、いった。
「……んー……。ぼくのほうは、真理さんのプレゼントのおまけみたいなもんだけど……。ぼく、こんなことくらいしか、できないし……」
 決して、あの施設にいた全員が、香也たちを歓迎していたわけではない。
 それでも、少数ながらも、香也の描いた似顔絵を、数年分保存している子供がいた。明日樹に、競うようにそれを見せにきた子供たちが。
「……わたし、狩野君のこと、なにも知らない……」
 明日樹のその呟きは声が小さすぎて、隣に座っている香也の耳にも届かなかったのか、香也は、何も答えない。

 樋口明日樹を自宅まで送り届けてから帰宅すると、クラッカーで出迎えられた。
「今年のイブは、みんなでこっちで祝おうってことになってな。真理さんとか羽生のねーちゃんに頼まれた」
 出迎えたのは、三角帽子をかぶった三島百合香だった。
「他の連中はマンドゴドラのケーキ持って帰ってるって話しだから、お前は炬燵にでもはいって、もう少しぼけーっとしてろ。そういうのは得意だろ? ん?」
 他の連中、羽生譲、松島楓、才賀孫子、それに加納兄弟が、いくらもしないうちに、どやどやと帰ってきた。
 なんと賑やかな事だろう……。
 香也は、そう思う。
 去年までは、真理と羽生譲、それに自分の三人しかいなかった。それが、いつの間にか住人が二人増え、その他にも、いろいろな人が集まるようになっている……。
「メリー・クリスマぁぁス!」
 飯島舞花と栗田精一も、途中から乱入してきた。
「……なんで、ここに?」
「なんで、って、ここでパーティーやるってメールしてきたの、ソンシちゃんでしょ? 仲間外れにしないでおくれよぅ! ちゃんと差し入れも持ってきたし、樋口にも連絡しておいたから……」
 そういって、飯島舞花はスーパーのポリ袋を掲げる。中には、未成年は飲んではいけないことになっている缶入り飲料が、満載だった。
「おー、でかした! でかいねーちゃん」
 どてら姿の羽生譲は飯島舞花をねぎらう。
「今夜は真理さん、いないからなー。無礼講だ無礼講。留守を預かったわたしが許可する!」
「……おい……いちおー、こっちも、現職の先生なんだが……」
「おー! ミニラ先生もこっちにきてたか。先生は相変わらずちっこくて可愛いな!」
「こら、飯島! 抱くな! 持ち上げるな! 頬ずりするな! 無礼者はエサ抜きの刑だぞ! 絶対、お前、もう飲んでるだろ!」
「硬いこというなよぉ、せんせー! ほーら、高い高い!」
「……ばんわーっす……荒野さん、こっちにいるってねーちゃんから聞いたんですけど……」
「荒野は向こうの炬燵で溶けているの。荒野、炬燵が好きなの」
「わっ! 猫耳だ! 本当に猫耳メイドさんがいたよ! あすねー!」
「……だから、いるっていったでしょ。
 この子、あんたのいう荒野さんの妹さんよ……」
「……ほえぇー……さ、流石は、荒野さん……」
「……なにが、流石なんだか……」
「おー。樋口兄弟もお着きかぁ……。大樹君も柄は悪いが、持ち上げ甲斐のあるちっこい体しているなぁ……高い高い、してやろうか?」
「……飯島舞花ぁ? なんでこんな所に……ってか、あんた、目が据わってるぞ!」
「……んふっ。そういうこという悪い子は、高い高いよりもスープレックス・ホールドのがいいかなぁ……」
「おい、栗田! そんなところで黙って見てないで、飼い主責任でこの巨獣止めろ!」
「……無理。まーねーが簡単に止まるよう人なら、おれも苦労してないって……」
「悟ったような顔して責任を放棄するなぁ!」
「いらっしゃいませ、お客様方。騒いでないで早く中にはいるの。ご奉仕とおもてなしはメイドさんのお仕事なの」
「あすねー! メイドさんだけでなくって、ミニスカのサンタまでいるよ! この家!」
「んー。なんだーこの鼻ピアス君はー? 誰の連れだぁ?」
「あ、羽生さん。この子、大樹っていって、わたしの弟で……」
「あー? 大樹……あれ、大樹、って、明日樹さんと? あ。そういや樋口だなあ、二人、いや、三人とも……ってことは、明日樹さんと未樹さんって……あー。そっかあ……世の中、狭いなあ……」
「あ。荒野さん、おひさしぶりっす。みきねー、荒野さんい会いたがってましたよ。今日は仕事のほう忙しくて来られなかったすけど……」
「あー。今頃は、お店もかき入れ時だろーなー……確かに。この間はお世話になったし、よろしくいっといて」
「妹さんともども、いつか店に来て、って伝言っす」
「あれ? こっちのサンタさんは、才賀さんじゃないんだ……」
「……なんで、このわたくしが、お仕事以外で、あんな屈辱的な恰好をしなければなりませんの?」
「……松島さんは、なんか喜んでいるみたいだけど……」
「あははははは。サンタさんが良い子のみんなにプレゼントなんですよー!」
「……あれ、喜んでいる、ってよりも、酔っぱらっているんじゃあ……」
「……うーん……。くノ一ちゃん、酒に弱いみたいだねぇ……。シャンパン一口であれだけできあがることができるなんて……安上がりなやつだ……」
「つべこべいう前に、一通り面子揃ったさっさとグラス持て、乾杯だ乾杯! で、その後は、無礼講だ!」

 ……メリー・クリスマス!

 の、翌日は、ほとんどの者にとって、地獄だった。
 なにせ、自分の適量を知らない者がほとんどだったので、翌朝、狩野家の居間には、急性アルコール中毒患者の群がごろごろとマグロになって炬燵の周囲に体躯を投げ出す羽目になった。

[つづき]
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