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彼女はくノ一! 第三話 (24)

第三話 激闘! 年末年始!!(24)

 翌朝。
「おー。みごとに討ち死にしているなー。青少年たち……」
 どてら姿の羽生譲は、くわえた朝の一服目に火をつけて、炬燵の周辺でごろごろ屍になっている連中をみわたした。
「まあ、若いうちは、それも経験さね……。
 吐きたいやつは、これになー」
 といって、風呂場から持ってきた洗面器を炬燵の上に置く。
「一応、お粥作っておいたからな。食欲出てきたのがいたら、食わせとけ……」
「先生もご苦労さん。まあ、この調子だと、昼頃まで起きられるのいないと思うけど……」
「あと、水分補給用にポカリくらい買っておくといいな。あれは吸収が早いから。熱いお茶なんかもいいんだが、この調子だと、まだ受け付けないだろ……。
 ええっと……転がっているのは、楓と、樋口兄弟、それに、飯島と栗田のバカップルか……才賀や荒野は慣れていそうだが、茅と見た目しょぼいほうの香也が平気だったのが、意外といえば意外かな……」
「茅ちゃんはともかく、うちのこーちゃん、順也さんが強いから……」
「ん? だって、血は繋がってないって話しだろ?」
「いや……うちの先生、結構豪快な人でさ。こーちゃん、引き取られてきた当時のちっこい時から、先生につき合わされているんだ、酒……。
 ここに姿がないってことは、もうプレハブでいつもの通りやっているかな?」

「……なんで、わたくしが……」
「いいからいいから。茅も才賀も、香也君の絵、まともにみたことないだろ? いい機会だよ」
 狩野荒野は、茅を伴い、才賀孫子の背中を押すようにして、プレハブに向かっている。
「……あの分だと、朝食まだ先みたいだし、いい暇つぶしだと思って、つき合ってよ……」
 文句をいいながらも、才賀孫子は本気で抗うつもりはないらしい。基本的に協調性がある性格だし、それに、香也がどんな絵を描くのか知らないのも、事実だった。プレハブいったことは何度もあるが、そこでじっくりと香也の絵を見たことはない。
「……ちょっといいかな?」
 荒野は、断りをいれながらプレハブの引き戸を開く。いつもは声などかけず、そのまま忍び入るのだが……今回は、いつもと違い朝だし、連れもいる。
「……んー……」
 狩野香也は、相変わらず生返事だった。
「……珍しいね。昼間からくるのって……あれ? 他にも人、いるんだ」
「あ。そのままやってていいから。ちょっと、ここいらにあるの、勝手に見させてよ……」
「……んー……」
 一度振り向きかけた香也は、その言葉に素直に従って、描きかけのキャンバスに向き直る。
 荒野はスチール棚に放置されていた絵を、一枚一枚取り出して、二人に示してみせる。茅は、習作やラフ・スケッチも含めて食い入るようにみていたが、才賀孫子は、完成品よりも現在進行形で描いているほうに興味があるのか、ちらりちらりと、背後の狩野香也を気にしている。
「……気になるんなら、もっとちゃんとみたら? 邪魔さえしなければ、特になにもいわれないと思うよ……」
 加納荒野がそういうと、才賀孫子はなにか言いかけて口をつぐみ、何故か怒ったような顔をして、ぷいっ、と横を向くと、そのまま背を向けて、狩野香也の背中に向き直った。そのまま、香也の手元とか、キャンバスのほうに、じっと目を凝らす。荒野も、同じように、描きかけの香也の絵に引き寄せられる。
「……人物……いや、顔……か……」
 そういえば……このプレハブに残っている香也の絵も、ヌード・デッサンなどの例外を除いて、人物画は極端に少ない気がしたが……。
 茅は、荒野が才賀孫子と並んで、香也の背中に気を取られている隙にも、一人で黙々とスチール棚に残された香也の絵を一枚一枚自分で取り出して、瞬きも惜しむように、じっと見つめている。

「……うー……頭痛い……」
 とかいって、もぞもぞ最初に起き出したのは樋口明日樹だった。
「おー。一番手はあすきーちゃんかー。なんか食べたり飲んだりできそう? お粥とポカリあるけど……」
「……むりー……。当分、なんも……」
「んー。先生も、水分は補給しておいたいた方がいいっていってたけどな……。まあ、無理すんな……」
「……狩野君は……」
「うちのこーちゃんは、いつもの通り。プレハブ」

 樋口明日樹がプレハブにいくと、珍しいことに、すでに先客が何人かいて、香也の背中にとりつくようにして、たむろしていた。香也のほうは既に自分の世界に入っていて、明日樹がプレハブに入ったのにも気づいているかどうか、という感じだ。
「……あれ?」
 明日樹は、すぐに香也の描きかけの絵の……変化に気づいた。
「ね」
 狩野荒野が、小さな声で明日樹に尋ねる。
「君、香也君の絵に詳しいでしょ? 彼、人物画、やったことあるの?」
「……ちゃんと色までのせたのだと……多分、これが初めて……わたしの知る限り……」
 この間の同人誌のカラーページがあるが……あれは、香也が自発的に描いたものではない。例外と見なすべきだろう。
「……でも、なんか、タッチのほうも変わってきてないか?」
「うん……わたしも、そう思う……」
 なんというか、全体に艶、というか……従来の香也の絵に比べると、描く対象に、生命力が……込められているような……気が、する。
「……ここ、二、三日で、一番気になったものを片っ端から描いていったら……こんな感じになった……」
 突然、狩野香也が話し出す。どうやら、集中しているように見えても、荒野と明日樹の会話は聞こえていたらしい。
「……まだ全然下書きの、習作だけど……いつもは鉛筆で何度も構図とったりしてから書き始めるんだけど……今回は、そういう構想なしで、片っ端から頭に残っているものを、直接ぶち込んでみた……こんくらいの荒っぽいこと、何度かしないと……多分、今までのぼくの絵は、壊れてくれない……一度根底から壊さないと、先にも進めない……」
 そういいながらも、狩野香也は何かに憑かれたかのように、手を動かし続ける。他の見物人たちは、そんな香也の作業を、じっと見つめている。

「……あすねー……こっちかぁ……って、なんだこりゃあ!」
「へぇ。狩野ってこういう絵、描くんだ。不気味だけど、迫力はあるな……」
「あ! これ、昨日の子供たちや、商店街のお客さんたちなんでは?」
 少し間を置いて、居間に転がっていた急性アルコール中毒たちも、続々と復活してプレハブに集まってくる。

「ぼくは、今まで正面から人と関わることを避けていたからさ……」
 香也の背中は、誰にともなく、いう。
「こんくらいのことをして……も、……たぶん、あんま、変わらないんだろうなぁ……。
 でも、なにもやらないよりは、まし」
 そういいながらも、香也は、いくつもの人の顔をキャンバスの上に書き続けている。同じ顔は一つもない。性別も年齢もまちまちの顔が、顔だけが、次々と香也の筆先から生み出され、完成し、その隣や上に、また新しい顔が描かれる。キャンパスの隅から隅まで、すでに人の顔で埋め尽くされているのに、香也は、まだ、顔を描くのをやめなかった。
 本人もいうとおり、今描いているのは……完成させるための絵を描いている……というよりは、香也なりに、自分の気持ちに整理をつけるための行為なのだろう。

 それでも、香也の背中に集まったギャラリーは、香也の手元を見つめ続けた。

[つづき]
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