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彼女はくノ一! 第三話 (30)

第三話 激闘! 年末年始!!(30)

「……すいません。ちょっと、そっちに寄りかかって、いいですか?」
「う、うん」
 場所は、吹きさらしもいい所の、橋の頂上……。
 下は鉄製の構造材で、そこに直に腰掛けるのは、季節的にも冷たすぎるのだが……かといって立っていると、風に煽られてそのまま飛ばされそうで不安なので、しょうがなく、二人で肩を並べて、座っている。
 眼下には、たしかに先ほどの楓の言葉通り、香也が長年住み続けた町の灯が一望に見渡せる。
 冷たすぎる足下、吹きすさむ風、手すりもなにもない、今にも落ちそうな錯覚さえ憶える環境……などの諸(悪)条件さえ無視すれば、確かに、「いい眺め」では、あるかもしれない。
 香也の隣りには、サンタのコスチュームに身を包んだ松島楓が座っており、頭を香也の肩に預けている。香也よりも背が低い楓は、こうして並んで座っても、やはり頭の位置が低くなる。
 楓は、香也より少し背が低い。香也は百七十を少し越えるくらいだから、そこから換算すると、百六十を少し切るくらいか。
 楓は、来年から同じ学校の同学年に編入する、と聞いている。香也の同じクラスの女生徒たちと比較すると、楓の背は、どちらかといえば高い方になるのかな……と、思う。
 同時に、一つ上だという飯島舞花のように、あの年齢の女子で百八十オーバーというのは、やはりちょっと例外的だよな、とも思う……。
「……わたし、本当に感謝しているんです……」
 ぽつり、と、楓がいった。
「……ここに来てから……いろんな人たちにお会いして、いろいろなことを経験して……商店街の人たちとか、昨日の孤児院とか……自分が、あんな風に……誰かに喜んで貰うことができるとは……全然、思ってなかった……。
 知ってます? わたし、この間まで、いかに効率的に人を殺すか、とか、そんなことばかり、一年中、学んでいたんですよ……。わたし、そういうの、本当はとてもイヤで、でも、逃げても、行く宛なんかどこもないし……。
 それに、そんなイヤなことでも、一緒に学んできた仲間たちがどんどんお仕事にかり出されるようになると、自分だけが取り残される気持ちがして、あんなにイヤがっていたお仕事なのに、早く自分の番が来ないかと待ち望むような気持ちにも、なったり……。
 さらにそれでいて、ここに来て、いろいろな人に喜んで貰うと、それですっごく嬉しくなったり……。
 本当、矛盾しまくってますね、わたし……」

 ……あまり関係ないのかも知れませんが、そんなことを考えながら、あの灯りの一つ一つの下にいろいろな人がいて、それぞれに生活している、とか、考えると……わたし、切ないような気持ちになって……だから、この場所の眺めが、好きなんです……。

 楓はそういって、
「……香也様の絵をみていると、時々、同じような気持ちになるんです……」
 と、つけ加えた。
 ……だから、香也様の絵も、好きです。

 翌日は、二学期の終業式だった。
 香也は、プレハブ内に張ったハンモックの上で、誰かが起こしに来る前に、目覚ましの音で目を醒ました。相変わらず真理は不在である状況で、気を利かせて誰かが起こしに来る、というのがあまり期待できなかった、という理由もあるし、明日から冬休みに入るわけで、一日くらいは自分で起きてもいいかな、という気もあった。
 母屋に入り洗面所で顔を洗っていると、同じく洗顔に来た才賀孫子とばったりと出くわした。彼女との関係は、お世辞にも良好とは言い難いのだが……昨日あたりから、少し、香也への当たりが柔らかくなったような、気がする……。
「終わったのなら、さっさと退いて場所を空けてくれませんこと」
 ……気のせいかも、知れないが……。
 台所では、当番なのか、楓が朝食の用意をしていた。料理はあまり得意ではない、とかいっていたが、ごく普通の朝食にみえる。香也の気配を察した楓が振り返って、
「もうすぐ出来ますから、居間で待っていてください。
 ……あ。よかったらついでに、羽生さん起こしてきてくれませんか?」
 今日は朝からファミレスのバイトを入れているので、楓に、時間になったら起こすよう、頼んでいたらしい。
「……んー……」
 羽生譲の寝起きの悪さは知っていたが、香也は臆することなく引き受けて、羽生譲の部屋に向かった。
「……譲さーん。起きてるー……」
 返事がないので、遠慮なく中に入る。
 羽生譲の部屋は八畳間のはずだったが、ベッドやライティング・デスクの他に、少し前の型のデスクトップのマッキントッシュ、テレビとビデオなど壁際に配置され、その間の壁面を埋めるように本棚が並んでいる。本棚に並んでいるのは、マンガが四割、その他の書籍が六割、といったところか。画集や写真集のほかに、パソコンソフトのマニュアルや各種のハウ・ツゥ本などの実用書なども目立つ。そんな感じで物が多いせいか、面積の割には、窮屈な印象を与えた。
「……譲さーん……朝だよー……」
 そういいながら、香也は、布団の上から羽生譲の体を揺さぶる。
「……うーん……」
 とかいいながら、薄目を開けて起きかかった羽生譲は、
「……なんだ、こーちゃんか……お休み……」
 と、壁の方向にごろんと寝返りをうってしまう。
「今日はバイト、あるんでしょ。もう、起きないと……」
「……へんじがない……ただのしかばねのようだ……」
「……布団、ひっぺがすよ……」
 長年の付き合いだから、香也は、羽生譲の寝起きの悪さを知っている。だから、いざとなれば容赦もない。
「……うーん……しゃあないなぁ……じゃあ、ちゅーして、ちゅー。こーちゃんがキスしてくれたら……うわぁっ!」
 香也は問答無用で、譲の掛け布団をひっぺがした。
「……敷き布団も、ひっぺがす?」
「……いや……起きますです……ハイ……」

 無事朝食を済ませ、着替え終えたところで、いつものように、樋口明日樹が迎えに来た。いつもと違ったのは……。
「うっす!」
 明日樹の弟の大樹も、一緒だったことだ。
 三人で学校に向かうと、マンションの前ですぐに呼び止められた。
「待った待った! どうせなら、一緒に行こうって!」
 飯島舞花と栗田精一の二人が、三人に合流した。
『……いつの間にか、賑やかなことになっているなぁ……』
 割合、賑やかにしゃべりながら、学校に向かう途上で、香也は、そんなことを思っている。
 半年前までは、自分一人で通っていた。
 最初に明日樹が迎えにくるようになり、こうしている今は、五人。
 来年からは、あと四人、加わる予定だ……。

 なんだか知らない間に、自分の周りで色々な変化が進行しつつある、と、香也は思った。

[つづき]
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