2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

彼女はくノ一! 第三話 (44)

第三話 激闘! 年末年始!!(44)

 境雅史が封筒から取り出した紙の束には、四十人以上のゲームに登場する「クラスメイト」たちの詳細なプロフィールと、誰が誰に好意を持っている、とかの関係図、ゲーム内での役割、セリフなど……が、プリントアウトされていた。
「……んー……すごい量……これ作るの、大変だったんじゃあ?」
「はは。こういうの、節操なく作るのが好きな人、何人もいてね……」
 半ば呆れ返った香也がそういうと、境も香也言葉のニュアンスを敏感に嗅ぎ取って、苦笑いした。
 たしかに、膨大な量の「資料」だった。
 おかげで、パラパラと紙の束をめくっているうちに、香也はすっかり興味をおぼえてしまう。
 ……元々香也は、これからしばらくは「人間」を描いていこう、と決めていた所だ。最初から生身の人間を相手にするのはきついが、こうしたフィクションの中の人間なら、練習としてちょうどいいかも知れない……。
 ただ、香也をためらわせたのは、やはり作業量の問題だった。
 名前のある登場人物だけでも四十人以上、そのそれぞれに「立ち絵」と呼ばれる全身像が数パターン、それに、小さなウィンドウに表示される、「顔」の絵が何パターンかずつ……となると、作業量的に、一人でこなすのは難しくなる。
 そのことを境に指摘すると、
「一人では大変、ということは良くわかっているので、狩野君とは別の絵描きも、改めて捜す。
 それから、フリーとして配布する予定だから、明確な締め切りもない」
 とのことだった。
 たしかに、こういうゲームの場合、数人で分担した方が、画風にばらつきが出て面白いかも知れない……。
 東京から帰ってきたら、羽生譲にも相談してみよう、と、香也は思った。
 香也は境が持ち込んできたこの企画にかなり興味を覚えたが、それでもまだ不安がったので、「数日、資料を見ながら考えさせてくれ」と返答して置いた。
 境のほうは、そうした香也の様子になにか感じることがあったのか、それとも、単に門前払いされなかっただけでもマシと考えているのか、あっさり頷いて、
「ねぇ。ぼくもあんなちゃんと一緒に絵を見せて貰っていいかな?」
 と、言い出した。

 それで三人でプレハブに戻ったのだが、香也が絵を描いている背後で、才賀孫子の解説付きで香也の過去の絵が一枚一枚披露され、それを見た境と柏の二人がいちいち声を上げたり、感想を語り合ったりしている……という環境は、まったくもって、香也を落ち着かない気分にさせた。
 もともと、香也は一度集中し出すと周囲の雑音はあまり気にならない性質だったはずが……。
『……いつの間にか、そんな自分の体質も変質してしまったのだろうか?』
 とか、
『……だとしたら、それは、自分のとって歓迎すべき変化なのだろうか?』
 などと、埒もないことばかり考えてしまって、どうにも絵のほうに集中できない……。
 なにより香也が不思議に思ったのは、孫子が香也の絵について、一枚一枚覚えているらしいことだった。たしかに、ほとんどの完成品の隅には、香也のサインと書き上げた日付を入れる習慣があったが……孫子がその日付をそらんじている、というのは、一体、どういうことだろう?
「……こうしてみると、なんか、人の絵が極端に少ない気がする……」
「人物画は、最近になって書き始めたそうです」
 そういって孫子は、クリスマス・イブに書き殴った顔だらけのキャンバスを取り出した。
 境と柏は、様々な顔が一面に埋め尽くす絵を見て、歓声を上げた。
「ほら。まだ、練習段階。狩野君が境君のゲームのお手伝いをするのかどうかはわかりませんけど、仮にやるとしたら、いい練習になるんじゃないかしら……」
「……あ。ヌードまである!」
 柏あんなが、練習で描いた羽生譲の裸体画デッサンのスケッチ・ブックを、目敏く見つけた。
「これ、おねーちゃんの先輩さん……狩野君、あの先輩さんと、そういう関係なの?」
「違う!」
 香也は慌てて背後に振り返り、否定する。
「それ、デッサン! 練習! 絵の世界では、ヌード描くのは、人体の基本なの!」
「……いや、そんなにムキになって否定しなくても……」
 境と柏の二人は、普段はぼーっとして感情をあまり見せない香也がいきなり激しい反応を見せたので、若干引き気味になった。
「……狩野君、わたしく、モデルになってもいいっていいましたけど……こういうモデルは、引き受けませんから……」
 才賀孫子は自分の胸を押さえ、ジト目で香也の顔を見つめている。
「……いや、そもそも頼まないし……」
 香也は、自分の反応に驚く三人の様子を確認して、がっくりとうなだれた。
「……え? 才賀さん、狩野君のモデルやるの?」
 ちょうどその時、樋口明日樹がプレハブに入ってきた。
「母屋のほうにだれもいないからこっち来たんだけど……今日は賑やかだねえ。柏さんたちまでこの家の来るとは思わなかった……」

「……あー。なるほど……素人が作るゲームの絵ねぇ……」
「ええ。テキストとかスクリプト書きはいるんですけど、なかなか絵描きさんが見つからなくて……。
 あんなちゃんから狩野君の事を聞いて、新学期になってから学校で頼もうかとも思ってたんですけど昨日、狩野君とばったりあって……で、早速、頼んでみたんです……」
「で、狩野君、やるの?」
「……んー……まだ決めてないけど、多分……」
「時間はかなりとられるけど、人物画の練習にはなる、か……」 
 五人で一旦居間に戻ると、樋口明日樹が境から詳しい話しを聞き出しはじめた。どうにも気分が落ち着かないので、香也は一緒に移動してきたのだが……。
 こうして、自分のことを他人が目の前で話している、というのも香也はあまり経験したことがなく……香也は、炬燵にあたりながら、かなり奇妙な気分におちいっている。
『……本当……いつの間に、自分の周りは……こんなに、賑やかになってしまたんだろう?』
 そんな感慨にひたりながら、境が持ち込んだ紙の束をパラパラとめくる。
 作成中のゲームの登場人物に関するデータが書き込まれているわけだが……架空の、実在しない人間の、詳しい情報が詳細に書かれているのを眺めていると、香也は、眩暈にも似た気分に襲われる。
『……これがここにある、ということは、ここに書かれていることをひとつひとつ考えて、形にしていった人たちが、実際にいるということなんだよなあ……』
 そして、自分がこのデータに絵をつけ、顔を与えれば、ここに書かれた登場人物たちは、さらに存在感を増していくわけであり……。
 この仕事を引き受ければ、香也は初めて羽生譲以外の人間と、顔も知らない道の人々と、共同作業をする、ということになる……。

「……面白そうだ」
 という思いと、
「……自分にも、できるのだろうか?」
 という思いが、香也の中でせめぎ合っている。

 そうした物思いにふけりながら、香也は、半ば無意識のうちに、たまたま持っていたシャーペンで、その資料の余白の部分に、さらりと人の絵を描いている。

[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking  HONなび


↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのじゅういち]
アダルトサーチエンジンA エログランキング一番街 サーチデアダルト アダルト屋.COM えっちblogランキング Sexy Queen ランキング ぬるぬるナビ アダルトサーチ E-SEARCH ADULT 女神information 早抜きサーチ
avies



Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ