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第四章 「叔父と義姉」(22)
二宮荒神がマンションから出ていくと、荒野はソファの上にぐったりと体を横たえた。時計を見ると、もうすぐ、午前四時になる……結構話しこんだな、と、荒野は思う。
対面していて、実に、「疲れる」二宮荒神は、差し向かいで長時間話し込むのには、向かいない相手だ……と、加納荒野はつくづく感じた……。
「荒野、疲れたの?……」
荒野がぐったりしている間に、振り袖から普段着に着替えた茅がリビングに戻ってくる。
「……この鮭、二人では食べきれないと思うの……」
テーブルの上には、荒神が残していった見事な荒巻鮭がどーんと一本丸ごと残されていた。
「……そうだな。明日、いや、もう今日か……切り分けて、お隣りでも持っていこう……先生がいれば、先生にも押しつけるんだがなぁ……」
そういいなが荒野は茅の顔をみて、ふと思いつく。
考えてみれば、もうすぐ元旦の夜明けなわけで……。
「……茅。
茅はまだ、海を見たことがないっていってたな……」
「いくよ……」
防寒着を着込んだ茅を背負った荒野は、一言そういうと、「本気で」疾走をはじめる。
日が昇る直前、とはいっても、なにぶん元旦の早朝であり、普段よりは人通りが多い筈だ。目撃者を作らないように慎重にルートを選択しながら、基本的に、この前茅が走った川に沿って、下り方向に走っていく。
荒野が走るのは、一通りのない路地裏であったり、電線の上であったり、民家の屋根や屋上だったりするのだが、どこを走る時も、基本的に速度はほぼ一定で……時速に換算すると、五十キロ前後、になるのだろうか。
左右の背景がびゅんびゅん音をたてて背後に流れていく。
早朝の冷気をもろに顔にぶつけながら、荒野の背中にいる茅は声一つたてず、おとなしく荒野の背に張り付いていた。
「……ついたよ」
荒野が茅を降ろしたのは、湾岸沿いにある倉庫の屋根、だった。
人目につかないよう、年末年始に営業していない倉庫を選んだのだろう。周囲には、それなりに灯りがともり、トラックも出入りしている倉庫もあったようだが、荒野たちがいる一帯は、灯がなく、しんと静まり返っている。
「ここからだと、初日の出がよく見えるはずだから……日が昇りきったら、今度は海岸ま出てみよう……」
そういうと荒野は、一度姿を消し、暖かい缶の紅茶を持ってすぐに帰ってくる。
荒野が飲み物を調達してきて五分もたたないうちに、水平線のほうが徐々に白みはじめ……。
茅と荒野は二人きりで、日が昇りきるまで、無言のまま、朝日を見つめ続けた。
「……茅、今年もよろしく」
「こちらこそ、よろしくなの」
完全に日が昇りきると、二人はそういいあい……そして、荒野は再び茅を背負い、倉庫街を離れ、今度は砂浜のある海岸へと向かった。
初めての海辺で、茅は水の冷たさにもかかわらず、靴と靴下を脱いで足を海の中に入れ、子供のようにはしゃぎまわっている。
荒野は、茅が飽きるまで、それを見守った……。
なんだかんだで二人がマンションに帰っると、昼近くになっていた。
そそくさと作り置きのおせちで食事をすませ、シャワーを浴びて、倒れ込むように、寝る。
そして二人が次に目を覚ますと、すでに二日の朝で、茅は、見事に筋肉痛になっていた。
荒野は、茅がむーむーと唸るのにも構わず力を込めてマッサージを施し、その後、熱い風呂にいれたり、食事を用意したりした。
「ま。これも一種の寝正月だな……」
とか、いいながら。
正月三日の朝、荒野は茅に起こされた。
寝ていた荒野の胴体の上に乗り、揺さぶって荒野を起こした茅は、すでにスポーツウェアに着替えていた。
荒野の上に跨った茅は、
「走るの」
と、短く催促した。
……まだ、筋肉痛が治りきっていない筈だが……。
そう思った荒野は、室内で念入りに茅のストレッチを行った。
茅の体のどこが堅いのか知っておきたかったので、「痛いときは素直にそういうように」と念を押して、茅の体中の関節をひとつひとつ確かめながら、折り畳む。荒野は、茅が声をあげる箇所を記憶にとどめ、筋肉の張った部分を、自分の指で確認する。
室内での時間をかけたストレッチが終わった段階で、茅の息はかなり荒いものになっていた。体も温まっていたので、そのまま外に出て走らせる。
初日とは違い、その日は河原に出て、一キロくらいの距離を走らせては休憩させる、という方法をとった。河原の遊歩道を、片道一キロ、二往復。計、四キロ相当の距離を茅が走りきったところで、もう一度念入りにストレッチをさせ、マンションに帰る。
筋肉痛が残る状態で、なお志気が衰えない……というのは、やはりガッツがあるよなあ……と、荒野は茅を評価する。
あくまで「一般人」のレベルでいうのなら、茅はそれなりのスポーツ少女にも、なれるだろう。
マンションに帰って茅の体をマッサージしたりシャワーを浴びさせたり食事をしたり茅のいれた紅茶を飲んでくつろいだりしていると、茅の携帯にメールが来た。
「……お隣りで、お餅つきをするといっているの……」
「……餅つき……」
一瞬、荒野は鸚鵡返しにその単語を反復する。
……あれって、一般家庭でやるようなもんだろうか……。
大晦日の日、なんだか意味ありげに「大人数ならできる」とか言い合っていた狩野真理と羽生譲の顔を思い返す……。
……まあ、そういうことなのだろう……。
再び振り袖を着る、といいだした茅の支度を待っている間にインターフォンがなる。
出てみると、自分の体よりも大きなスーツケースを床に置き、コート姿の三島百合香が立っていた。
「よう、荒野。たった今、帰ったぞ。
こっちはなんか動きがあったか? ん?」
玄関口に立った三島百合香は、そういった。
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つづき]
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