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髪長姫は最後に笑う。第四章(23)

第四章 「叔父と義姉」(23)

「……熱心に男いないかだの見合いするかだのそんな話ばかり出てな……」
 三島百合香は実家のことをそんな風にブツクサ言いながら持ち帰った荷物を自室に運んだ。こっちに戻ってから自室に寄らず、真っ直ぐ荒野たちのマンションに寄ったらしい。荒野たちの部屋のほうが三島の部屋よりも階下にあたり、たしかに合理的な動線ではある。
「……跡継ぎなんか弟で充分だっつーの……」
 そんな三島の話しの合間に、荒野はついこの前、二宮荒神が荒野たちを尋ねてきたときのことをかいつまんで話した。
「……二宮っていうとあれか……滅法強いって、ハンマユウジロウなヤツらだってか?」
「いや、そのハンマユウジロウが何者かは知りませんけどね……滅茶苦茶強い、ってのは、本当です……」
「で、その、年始回りに来たその二宮っての、具体的にどんなヤツだったね? ん?」
「……荒野とらぶらぶだったの……」
「……なにぃ? らぶらぶとなっ!」
「茅のいうこと真に受けないでください。
 ただヤツが、こっちに抱きついて離れようとしなかっただけです……」
「……いや、それはそれで……この間の帽子男といい、お前らの一族って……」
「……面目ない……」
 自分が悪いことをしているわけでもないのに、意気消沈した様子で、荒野はがっくりとうなだれた。
「……いや、いいけど……」
 三島は持ち帰ったスーツケースなどは自室の玄関先に突っ込んだだけで、すぐに鍵をかけ直し、荒野たちに向き直った。
「それじゃ、早速お隣の餅つきとやらにいってみっかね……久々に他のヤツラの顔も拝みたいし……。
 そうだ、荒野。その、二宮のこと、楓たちにも話したのか?」
「……どうしようか迷ったんですけど、何分気まぐれな人だし、当座敵にまわらないのら、触らぬ神に祟り無しって気もしますから、黙っておきました……」
「……そいつ、そんなに強いのか?」
「強いっす。仮に敵対したとしたら、おれらが束になってかかっても、万が一つにも勝ち目はありません。加えて、独自の行動原理で動く、理解しがたい人です。
 とりあえず、こっちの邪魔をするつもりはないってことがわかっただけでも、御の字ってもんです」
「……そんな情けない話し、胸張って断言されてもなあ……」
 そんなことを言い合っているうちに、マンションのエレベータを下り、共用部分の玄関を通って外にでる。
 そこから少し歩くと、すぐにお隣りの狩野家の生け垣に越しに、すでに集合している人々の上半身が確認できた。
 三島が予想していた以上に、人数が多いようだが……。
「狩野家に住んでるヤツラは別として、飯島と栗田もすっかりあそこの常連と化しているな……それに、樋口兄弟、は、まだいいにしても……なんだ。柏姉妹と堺まで来ているじゃあないか……」
「え? あ。本当だ……」
 荒野も、年末の同人誌原稿制作のさいに、柏姉妹とは面識があった。
 柏妹と一緒にいる同年配の少年の顔は、初めてみるはずだが……。
「ま、こういうのは人数いたほうが楽しいからな……誰かが呼んだんだろ……」
 そんなことを言い合い、庭にいる人々に目礼をしながら、狩野家の玄関に回る。いよいよ庭に入ろうとしたちょうどその時、荒野の腰にしがみついてくる者があった。
「会いたかったようっうううっ。こ、う、や、くぅぅん……」
 そんな叫び声を上げながら、荒野に抱きついてきた男はすりすと荒野の背中から肩にかけて、頬ずりしてまわる。
「……ぅわぁっ! な、な、な……」
 珍しく、荒野は動転している。
「なんであなたが、こんなところに!」
 元旦の日、尋ねてきたと時とは、顔つきも服装も体格も変えていたが……まぎれもなく荒野に抱きついてきたその男は、二宮荒神その人だった。
 いきなりこんなことをしでかす人間を、見間違うわけはない……。
『ここではぼく、新年から君たちの学校に赴任する、臨時教師の二宮浩司だから……』
 抱きつきながら、二宮荒神は、荒野の耳元に、そんな不条理極まりない情報を囁く。
『君の遠縁ということで、この家に下宿することになったから、そのつもりで……』
『……荒神さん!
 あんた、じじいを脅したな!』
 荒野も、いきなり抱き合いはじめた他の人々の手前、荒神の耳元に小声で囁く。
『茅ちゃんだけなら放っておくんだけど……。
 こっちにはもう一人、弄り甲斐のある雑種がいるじゃないかぁ……。
 ああいう面白そうな子のことを教えてくれないなんて……荒野君、いじわるだよ……』
 ……楓、か……。
 うかつなことに、荒野は、「強い者」と「強くなる可能性がある者」に対して強い興味を抱く、という、荒神の性向を失念していた。前者は「敵」として、後者については「鍛え甲斐のある者」として、荒神は強い執着と興味を示す……。
 さしずめ、養成所で育った程度で並の六種家クラスの実力を持つに至った松島楓の資質などは……二宮荒神の興味を引くのには、充分だったのだろう……。
『……楓を弄るのはいいですが、壊すところまではやらないでくださいよ……』
 荒野としては、そう釘を刺すのが精一杯だった。
 荒神には逆らえない、ということもあるし、それ以外に、荒神が本気で楓という良質の素材を鍛えたら、一体どこまでいくのか……それを見届けたい、という興味も、ある。
『流石は荒野君、話しが早い。大丈夫。彼女だって新学期からぼくの生徒の一人だ。授業に支障が出ない程度にとどめておくよ……』
 思わず荒野は、がばっ、と、荒神の体から我が身を引き離す。荒野の顔から、完全に血の気が失せていた……。
 荒野は、荒神を指さしながら、ぱくぱくと口を開閉させる。

「新年から君たちの学校に赴任する、臨時教師の二宮浩司だから」、「彼女だって新学期からぼくの生徒の一人だ」……。
 あまりにも「ありえない」ので、荒野の脳がスルーしていた残酷な事実を、ようやく荒野が認識する。

「……やだなあ、荒野君。久しぶりに会った親類が同じ学校に勤めることになったからといって、そんなに驚かなくても……」
 三七分け(似合わない)に黒縁の伊達眼鏡(またくもって、似合わない)で、「真面目な好青年」という名の猫を被っている(つもりらしい)二宮荒神を目の前にして……荒野は、文字通り、二の句が継げなかった。

 ……なんだって、「一族最強にして最凶」の戦士が、地方のちっぽけな公立校の産休教師なんてやらなくちゃならないんだよぉ……。

 その頃になって、荒野はようやく、庭先に集まった女性陣、特に、柏姉が「萌え萌えなのです!」などと二人を指さして騒いでいることに、気づいた。

[つづき]
目次

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Comments

突然のコメントすみません。
エロブログタイプのmaruといいます。
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まだまだ小さいサイトですが宜しくお願い致します。
ASP-Rankerを設置いたしました、
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是非登録頂けたらと思います。
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エロブログタイプ
http://bt1011.3.dtiblog.com/

  • 2006/02/10(Fri) 03:14 
  • URL 
  • エロブログタイプ #-
  • [edit]

エロブログタイプさん。

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