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彼女はくノ一! 第三話 (48)

第三話 激闘! 年末年始!!(48)

 カウントダウンが終わり、「明けましておめでとう」大会が一段落つくと同時に、羽生譲がどてらの中からお年玉の袋を取り出し、以前行った同人誌制作の分け前を参加者全員に配り、その時参加しなかった者たちから顰蹙を買ったりするうちに、いつしか話題が香也のことになり、
「……そういや、狩野も不登校だったんだよな。一学期まで……」
「……んー……一応……」
 香也は、樋口大樹からそういわれた。
 香也にしてみれば、ゴールデンウィークに写生を目的とした無銭旅行の日程が大幅に後ろにずれたのを機に、なんとなく。学校に行ったり行かなくなったりしただけなのだが……香也たちの年齢で、学校に通うことをそのように軽々しく考えられる、という香也の感覚自体、世間的にみれば「かなり、ずれている」のだろう。
 その香也の「不登校」は、もともと「なんとなく、行かなくなった」程度のことで、香也が主体的に登校を拒否したわけではなかったので、大樹の姉、明日樹が香也の家に訪ねてきたことを機に、終わりを告げた。
「前、職員室に呼び出されて説教された時さ、一年にもうひとり不登校のやつがいて……そん時に、カノウコウヤの名前、初めて聞いたんだよな……確か……。
 どっかで聞いたような名前だなあ、と思ってたけど、それでなんとなく覚えてたんだ……」
 樋口大樹は、そういう。
 言い換えれば、今まで同じクラスなったことがない樋口大樹と狩野香也の接点は、本来ならせいぜいその程度で終わった筈……だった。
「……ねーちゃんの友達ってだけなら、この家にくることもなかっただろうけど……」
 大樹がこの家に来るようになったのは、加納荒野が頻繁にこの家を訪れる、と聞いたからだ。
「……あっちのカノウコウヤ君も、話してると普通だけど……結構独特な子だよね……」
 大樹の姉、樋口明日樹は、この場にはいない加納荒野について話し始める。
 明らかに平均的な日本人とは異なる、目立つ風貌……流暢に日本語をしゃべらなければ、あの外見だけで、初対面の日本人はドン引きになるだろう……。
 それと、あの、妹に対する気の遣いようは、やはり異常だと思う……。
 弟と自分の関係を振り返ってみても……荒野が茅を大切にしていることは確かなようだが……それは、家族とか身近な者に対する愛情というのとは、微妙に違うような気がする……。
 壊れやすい貴重品を扱っているような神経質な部分を、樋口明日樹は、荒野の茅に対する態度から嗅ぎ取っている……。
 そんな内容を明日樹がしゃべると、加納兄弟の事情を知っている人々は露骨に視線をそらし、詳しい事情は聞いていないが、なんとなく「なんかあるな」くらいには察している飯島舞花は、
「茅ちゃん、最近まで長期入院してたっていうし……その、長いこと、離れて生活していたせいじゃないか?」
 とか、さりげなくフォローを入れる。
「……それで……。
 あの二人、ジョギングしはじめたみたいですわ……。
 今朝、スポーツウェアの二人が汗まみれでマンションに帰ってきたのを見ました……」
 そのフォローにのっかって、才賀孫子が、今朝、実際に目撃した情報を披露する。
「……そういや加納君、なにかというと『茅のリハビリが』とかいう……時々……」
 香也も、そう付け加える。
 もっとも香也のほうは、話題が自分のことから離れてくれたほうが気が楽でありがたい、という気持ちが強かったからだが……。
「そういや、あの兄弟の両親の話しって、聞いたことないけど……」
 なにげに謎が多い加納荒野について、大樹がさらに聞き込みを続ける。
「保護者はお爺さんで、でもその人はやたら忙しくてあちこち飛び回っているから、今は二人だけで住んでいるって話しだな……。
 こっちでの保護者代わりは、三島先生だっていってた……」
 それに、羽生譲が応じた。
「……そういうのって、アリなんすか……」
 あの年頃の子供だけで世帯を持つ、ということは、通常ありえない……。
「荒野君、うちのこーちゃんと違って、しっかりしているし……」
 羽生譲は、声を潜めた。
「あと、保護者のお爺さんが結構大物らしくてな。あのマンションもお爺さんの持ち物だ……」
「え? うそ!」
 その賃貸マンションに父と二人で住んでいる飯島舞花が反応する。
「……あのマンションのオーナー、あちこちに同じようなマンションとかビルとか持っている、って聞いてたけど……じゃあ、あの兄弟のこと、大金持ち?」
 それから、すぐそばにいる才賀孫子に気づき、
「……あ。もっと大金持ちがここにいた……。
 才賀さんとこに比べれば、この程度、どうってこともないのか……」
「……まーねー……それ、どういうこと……」
「あれ? セイッチ知らなかったっけ? こちらの孫子ちゃん、あの才賀グループの会長の姪御さんだから……粗相のないように……」
「マジっすか?!」
「マジっすか?!」
 栗田精一と樋口大樹の声が、重なる。
「……ど、どうりでなにかと気品あふれる御方だと……」
「大樹、声が震えているし、日本語ヘンになっている。
 それに、心配しなくても、才賀さん、あんたのことなんて眼中に入ってないから、気軽に構えていて、いい……」
 樋口姉が樋口弟を、そうたしなめる。飯島舞花は、何事か隣りに座る栗田精一の耳元に囁くと、栗田の顔色が目に見えて悪くなった。
「……まあ、ソンシちゃんも下々の日常生活を勉強するために伯父様にここに放り込まれたわけだから、普通の友達してればいいと思うよ……」
 そういう羽生譲自身が、孫子に対しては、普段から一番遠慮がなかった。
 ……普段から、平気で「買い忘れた醤油一本」とか、買いにいかせてるし……。
「マジっすか?!」
「マジっすか?!」
 再び、栗田精一と樋口大樹の声が、重なる。
 彼らの感覚でいえば、
『……才賀のご令嬢を使いっぱにするんて……』
 というところだが、羽生譲は、
「くノ一ちゃんがいる時はそっちに振るんだが……いないときは、ソンシちゃんだな……」
 と、涼しい顔をしている。
「……そういや、羽生さん、時々楓ちゃんのこと『くノ一ちゃん』って呼ぶけど、それ、なんで?」
 飯島舞花が指摘すると、羽生譲の視線が泳ぐ。
「……あー。それはだなぁ……。
 あれだ! 楓ちゃん、ザ・ニンジャみたいに身が軽いから!
 ほれ、『くノ一ちゃん』、今ここで、なんか芸やってみ!」
「……えっとぉ……ピンクレディですか?」
 芸というと、咄嗟にそれが思い浮かぶようになっている松島楓だった。
「そっちじゃない。脱ぐほうでもない。
 こう、ぽーんぽーんと……トナカイやってた時みたいに、身軽さをアピールするの、なんかやってみ……」
「……あ。はい」
 立ち上がった楓は、天井の低い居間で足音もたてずにその場で二度三度ととんぼを切ると、見守っていた人々の間から「おおっ!」と、感嘆の声が漏れた。
「な! くノ一ちゃんだろ?」
 羽生譲はにかっり笑って、そういうと、
「お。そろそろお仕事の時間だ……」
 と腰を上げ、外出の支度をし始める。
 東京から帰ってきたばかりだというに、これから朝までファミレスのバイトを入れているらしい……。

[つづき]
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  • 2006/05/16(Tue) 01:01 
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