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彼女はくノ一! 第三話 (49)

第三話 激闘! 年末年始!!(49)

 羽生譲のスーパーカブのエンジン音が遠ざかった後、残された少年少女たちの間に、しばし沈黙が降りる。白々とした、しかし、決して不快ではない空気の中、つけ放しになっているテレビ番組の軽薄な音声だけが居間に流れる。テレビをみている者は誰もいない。
「……そういや、樋口たち……まだ帰らないのか?」
「うん……帰っても今日は誰もいないし……なんとなく……」
 飯島舞花の問いに樋口明日樹が答える。同学年の二人は以前からの知り合いでもあった。
「両親、今、旅行中だし……未樹ねーは仕事終わった後、打ち上げで飲みに行くっていうし……」
「……まあ、今日は、いつ帰っても同じか……わたしらも、すぐそこのマンションに何故か帰りたくなくなっているしな……」
「……栗田君は、飯島の所によく泊まっているの?」
「んー……うちのとーちゃんもセイッチの所の両親も、こんな小さい時からわたしらの事知ってるかな……信用あるっつうか、他のワケのわからないのとくっつくよりはよほど安心しているというか……」
 自分の話題になって、飯島舞花の隣に座る栗田精一が、照れくさそうにこりこりと自分のこめかみあたりを掻きはじめる。
「……うちの両親、まーねーのとこに通うようになってからおれの成績上がっているんで、なにげに喜んでいたり……」
「だって、ほら……セイッチには、将来稼いで貰わないと……」
 要するに栗田の自習を一年上の飯島が監督している、ということなのだが……飯島舞花は照れもせず、当たり前のことのように、そういう。二人の関係について知っている周囲の者のほうが、かえってどういう反応をすればいいのか困った。
「勉強……春にはもう、三年になるんだよね、わたしたち……」
「……受験かぁ……まあ、大丈夫だろ。学校の勉強なんてアレだぞ。時間をかければかけるだけ成果がでる科目がほとんどだから……筋トレみたいなもんだぞ……」
 この春に三年生になる樋口明日樹と飯島舞花だったが、共に比較的いい成績をとっているのにも関わらず、前者はどことなく悲観的、後者がなんとなく楽観的なあたり、性格が出ている。
「そういや、才賀さんも同じ学年だったな……でも才賀さん、頭良さそう……」
「……全力で挑むだけですわ……」
 話しを振られた才賀孫子は、あでやかに笑った。あでやかな中にも、いかにも不敵な雰囲気を漂わせる、肉食獣じみた笑みだったが……そんな表情も、孫子が浮かべると実に絵になる。
 受験にかかわらず、「やる以上は万全を期し、確実に成果を上げる」というのが、才賀孫子の基本方針だった。
 受験の話題となると、その他の一年生にとっては、まだ、遠い。実感が湧かない……というか、楓や香也、大樹などは、あまりその辺のことを真剣に考えたことがないに違いない。のほほん、とした顔で、他人事のような表情をして、話しを聞いている。
「……そういえば、松島さん……学校のほうはどうなの? 成績とか、いいほうだった?」
 樋口明日樹に話しを振られ、松島楓は視線を泳がせた。
「……ええとぉ……」
 この場に加納荒野がいれば何らかのフォローがあったはずだが、「身元が割れるような言動を取るな」と命じられている楓自身は、極端に素直で、かつ、機転の利かない性格をしている……。
「……わたし、普通の学校って、いったことないんで……その、よく、わかんないです……」
 狩野家の関係者は、加納兄弟や楓の境遇について、あらかじめ話しを聞いている。飯島舞花は、具体的な話しを聞いているわけではないが、「背後に複雑な事情がありそうだ」ということくらいは、荒野の言動から察している。
 そういった予備知識のない樋口兄弟と、舞花ほど察しがよくない栗田精一が、突然なされた楓のカミングアウトに、目を丸くした。
「ちょっと、それ! どういうこと!」
「樋口、大声出さない」
 驚愕の声を上げた樋口明日樹のことを、飯島舞花は、悠然といなした。
「松島さん、怯えているじゃないか……。
 わたしも詳しく聞いていないけど、この家に預けられているくらいだから、松島さんにもいろいろと事情があるんだよ、きっと……。
『普通の学校』にいっていない、っていうのは……あれだ。たぶん、特殊な学校に通ってた、っていうことなんじゃないかな、フリー・スクールみたいな……」
 そういわれた樋口明日樹は、松島楓が狩野香也の上に降ってきた、初対面の時の恰好を思い出し、なんとなく納得する。
『……サーカスの人とかパフォーマンスの人を育てる所にでもいたのかしら……』
 常識人であり、詳しい説明もなされていない樋口明日樹には、松島楓が、初対面の時着ていた服装そのままの「忍者」である可能性を、最初から除外して考えている。
「……で、松島さん……。その普通でない学校では、今までどんなことを習ってきたんだ……」
「……ええっと、ですねえ……」
 樋口明日樹が何事か考え込んでいるうちに、飯島舞花は松島楓との会話を進行させている。
「まず、体術……あと、語学とか、物理とか……」
 楓本来の「仕事」に、これらの知識は必須であった。
 投擲武器や弾丸がどのような軌道を取るのか予測するのに、初歩的な物理の知識は、充分に実用的である。
「……それから、コンピュータのことも習いました……でも、そっちは基礎理論とサーバ・サイドの制御がメインで、パーソナルユースのアプリケーション・ソフトのこととかは、実は全然知らないんですが……」
 要するに、「ハッキングとかクラッキングの仕方だけは教えられている」という事なのだが、楓の言葉の意味を充分に理解した者は、その場にいる人々の中では才賀孫子一人だけだった。
 その他の面々は、「へー」とか、「本当に、特殊な学校なんだな」くらいの感慨しか持っていない。持ちようがない。
「語学と物理が大丈夫なら……」
 飯島舞花は、さらに続ける。
「学校の勉強も、そんなに大変じゃないな……」
 物理が出来る、ということは、数学についても、ある程度の予備知識があるということだった。
「……それはどうかしら……」
 それまで首を傾げていた才賀孫子が、楓の前に、自分の参考書を開いて見せた。
「楓。
 このページに書かれていること、理解できる?」
「……英文の意味はわかりますけど……。
 あの、『関係代名詞』って、なんですか?」
 実用性に重きを置いた楓の語学知識では、日常生活における会話や読み書きには不自由しなかったが……日本の教科書で使用されている、一部の特殊な語彙群は、全く意味不明に映った。
 楓には、英文は読めても、問題の日本語の文章が、まるで理解できない。

[つづき]
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