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髪長姫は最後に笑う。第四章(44)

第四章 「叔父と義姉」(44)

 その後、荒野は蒼白な顔色をして即されるまま才賀孫子とともに大清水先生の後について行く。教室に入ってから大清水先生が荒野と孫子の名前を黒板に書いてクラスメイトに紹介された。ざっと見渡しても事前にクラスメイトの経ざっと歴を洗った荒野にとっては大半が知った相手であり、そうした事情はともに調査にあたった松島楓も同様の筈だ。
 結局、数日前の調査では不審な点はみつからなかったわけだが……。
『……なんのことはない』
 こうして見渡して見える顔の大半について、家族構成や交友関係などの表面的な概要は、荒野の頭の中に入っているのである。もちろん、時間があまりなかった関係でそんなに深い部分まで突っ込んで調査できたわけではなかったが……名前と親しい友人同士などのコネクションが紹介される前から荒野は知っているわけで……。
『……クラスメイトのことを二人で予習してきたようなもんだな……』
「本来なら、ホームルームの時間を二人の紹介に当てるところだが、始業式まで時間がないから」ということで、大清水先生はすぐに、生徒たちに体育館へ移動するように指示をした。
 そのおかげで荒野と孫子は当初予想していたように生徒たちに質問攻めにされることなく、ぞろぞろと廊下を体育館へと移動する列の中に紛れることが出来た。荒野たちが紹介されるときも体育館へ移動する際も、生徒たちの間ではほとんど私語がない。
『……日本の学生はみんなこんなもんなんかな……』
 荒野は一旦そう納得しかけたが、廊下を移動中に他のクラスや学年の生徒の様子を伺うと、割合にクランクに話し合いながらだらだらと移動している。
 どうやら、自分のクラスだけが特別と、荒野は納得した。

 体育館でクラス毎に整列して始業式とやらが始まる。校長先生の挨拶の前に代理教員というふれこみの二宮荒神ではなくて二宮浩司とカルネアデス財団国際語学教育研究所の研究員というふれこみのシルヴィ・姉が紹介される。前者はあまり生徒たちの興味を引かなかったようだが、後者のシルヴィが壇上のマイク前に立つと体育館内に大きなどよめきが起こった。
「カルネアデス財団国際語学教育研究所」とは世界中に散らばる姉が連絡などの隠れ蓑として使っている国際的な民間学術団体で、資金を提供しているのは姉だが、ちゃんとした学術研究も行っている。
 言語や暗号などの研究は、荒野たち情報を主な商品とする稼業の者にとっては無関心ではいられない事柄で、ことに姉は六主家の中でもいち早く海外でのネットワーク網を築いた血族なので、そのアドバンテージを失わないためにも持続的な研究は必要だったのだろう。
 たしかカルネアデスの名前を出して「研究」という名目を掲げれば田舎の公立校に一人二人の人間をねじ込むのは容易だろう、と、荒野は思う。しかし、そうした用意をする時間もたいしてがなかった筈で、その分はかなり強引なねじ込みも行ったに違いない。その分は、金とかその他のダーティ・ワークに頼ったことも容易に想像できた。
『……相変わらず、強引なことだ……』
 ……ヴィ……外見はともかく、中身はまるで変わってないじゃん……。
 目的のためには手段を選ばない。
 荒野が知るシルヴィス・ジョゼフィーヌ・カテリナ・サンタマルタ・エリス・ジェリカ・ジェシカ・マグダレーナ・アンジェリカ・エレンディア・アゴタ・ナンシー・クロエ・クリス・クローディア・カルネアデス・姉とは、そういう「姉」だった。

 長く退屈でさしてありがたくもない校長先生のお話が終わって教室に戻ると、大清水先生が二、三の連絡事項を行い、それで解散、ということになった。
 始まったときと同じように日直が「きりーつ、れいっ!」という号令をかける。この号令というヤツも荒野は初体験だったわけだが、「こういうのも儒教の影響なのか?」とか、思った。飯島舞花あたりが同じクラスだったら質問してみただろうが、あいにくと同じクラスにいる知り合いは才賀孫子と樋口明日樹にしいない。この二人が相手だと質問しても面白そうな答えが返ってこない気がしたのでそのまま帰ろうとすると、いつの間にか周囲に人垣ができていた。
「これ、地毛?」、「ケーキ食え、猫耳!」、「あの黒猫ちゃんは君のなんなんですか正直に答えなさい是非答えなさい」等々、荒野の周りを取り囲んだ生徒たちが荒野に向かって口々に質問を浴びせる。
 みると、才賀孫子も同じように生徒たちに囲まれていた。

「……ああ、それから……」
 大清水先生が不意に教室に戻ると、それまで騒がしかった生徒たちはピタリと静まりかえる。
「加納君と才賀君は、ちょっとこっちに来なさい。君たちが使う机と椅子を運んで貰おう。その後、この間もいった簡単なテストを生徒指導室でやって貰う……」
『……なるほど、あの先生の影響か……』
「……ということだから、ちょっと失礼……通して……」
 とりあえず、クラスメイトたちが大清水先生を恐れているおかげで、荒野と孫子は難なくクラスメイトたちを掻き分けて脱出することが出来た。

 少子化、とかで使用されていない教室が校舎内に幾つかあって、そういった空き教室は倉庫代わりになっている。そこから机と椅子を一つづつ抱えて荒野と孫子が廊下を歩いていると、たまたま廊下にいた生徒たちが荒野たちに注目するが、二人の前にむっつりとした大清水先生がいるのを確認しすると途端に道を空け、足早に立ち去る。
 机と椅子を荒野たちの教室に置き、やはり大清水先生の先導で「生徒指導室」とやらに案内される。普通の教室の半分ほどの面積しかないその部屋の使用目的がよくわからなかった荒野が大清水先生に質問してみると、
「主に個人的な相談やカウンセリングに使用される。進路指導のための資料なども置いてある」
 と、大清水先生は答えた。続けて大清水先生は、
「どうだね、この学校は? うまくやっていけそうかね?」
 逆に荒野のほうに問いかけてきた。
「……ええ、まあ……まだ、全然わからない事ばかりですけど……」
 荒野の返答は、歯切れが悪くなる。
「おれ……ぼく、日本にもまだ馴染んでないし……出来れば、平穏に過ごしたいんですけど……」
 荒野自身がそのつもりでも、周囲の諸条件によっては不本意ながら「とてもではないが平穏とはいえない学生生活」になってしまうわけで……。その、「周囲の諸条」は、着々と「平穏とはいえない」方向に向かっているような気が……ひしひしと、した……。
「……なにか、心配事でもあるのかね?」
 いきなりうつむき加減になった荒野に、大清水先生が心配そうな声をかけた。
「……まあ、君らの年頃なら、それで自然か……。
 教師が生徒に出来ることなんかたかが知れているが……わたしに力になれるようなことがあったら、いつでも相談に来たまえ」
「……はぁ……」
 大清水先生は悪い先生ではないと思う。しかし、現在、荒野が抱えている心配の種を除去するのには、多分役に立たないとも、思った……。

「……荒野を荒野と呼ぶの、どこが悪いのかわからないの」
「……んー。でも、お兄さんとか目上の人を呼び捨てにするのはどーかなー、と先生は思うわけで……」
 しばらくすると、その「心配の種」が岩崎先生と松島楓を伴って生徒指導室に現れた。岩崎先生と茅の会話から察するに、岩崎先生は茅に「敬語」の概念を教えようとしていたらしい。つい一年ほど前まで仁明以外の人間を知らなかった茅に、その手の社会的な立場の違いによる言い回しの変え方を教えるのは一石一鳥にはいくまい、と、荒野が後回しにしていた部分であり、案の定、岩崎先生も苦戦しているようだった。

[つづき]
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