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彼女はくノ一! 第四話 (5)

第四話 夢と希望の、新学期(5)

『……ピカソみたいに長い名前だな……』
 生徒たちに混ざって整列していた香也はシルヴィ・姉の自己紹介聞きながら、そんなことをぼんやり考える。香也はクラスメイトのほうでも背が高いので、列のかなり後ろに立っているため、壇上に立つその長い名前の女性は、かなり小さく見える。また、当然のことながら、この時の香也は、その女性がその後、自分たちに大きく関わってくる存在になるとは、まるで予測していない……。
 ちなみに、ピカソのフルネームは「パブロ=ディエゴ=ホセ=フランチスコ=ト=ポール=ジャン=ネポムチェーノ=クリスパン=クリスピアノ=ド=ラ=サンチシマ=トリニダット=ルイス=イ=ピカソ」という落語の寿限無並の代物だったりする。誕生時に親族が勝手につけた名前で、本人も正確には記憶していなかったそうだが。

 その後、いつも通りに校長先生の長いお話があって、始業式は終わりとなった。ぞろぞろと教室に帰り、簡単な連絡事項を岩崎先生が伝えて、その日は解散となる。岩崎先生は終業の号令が終わると加納茅と松島楓の二人を呼び寄せ、「本当は始業前にやりたかったんだけど……」断りを入れながら、二人自身が使う机と椅子を運んでくるようにいう。
 香也たちは知る由もなかったが、荒野がシルヴィ・姉崎に抱きつかれたことで、机を運び込む分の時間をロスしたのである。
 岩崎先生が学校の備品が置いてある倉庫代わりの空き教室へ転入生二人を案内するため姿を消すと、待ちかまえていたようにクラスメイトたちが香也の周りに群がった。
 あっという間に香也を取り囲んだ生徒たちは、同音異義語に、
「あの二人と同棲しているって本当ですか?」
 という意味の質問を香也に浴びせかけた。
「……んー……」
 たじたじとなりながらも、香也はなんとか答えようとする。
「その……かえ……松島さんのほうとは、一緒に住んでいるけど……それは下宿っっていうか……」
「うぉぉぉお!」と、男子連中がうなり声を上げた。
「松島さんってぇとあのまるっこいほうだな!」とか、「今かえでちゃんといいかけたぞもうそうなのか名前で呼び合うような仲なのか」とか、「君は自分の境遇がどれほど恵まれているのかまるで理解していないまったく理解していない」などなど句読点無しに興奮した面持ちで香也に詰め寄る。
 やかましいことこの上ない。
「……あのぉ……」
 勝手に盛り上がっている男子連中をかき分け、取り囲まれて逃げるに逃げられない状態の香也に、二人の女生徒が近づいてきた。
「……それで、今朝頼んだサインのほうは……」
 今朝、香也の前で同人誌を取り出した女生徒たちだった。
「……んー……名前書くだけならいいけど……サインなんてどう書いていいのか、よくわかんない……」
 女生徒たちは顔を見合わせる。
「……それもそっか……」
「プロじゃないし……」
 それからごにょごにょ二人で小声で話し合い、すぐに香也に向き直った。
「……わたしたちマン研で、これから同人誌作るんですけど、それに寄稿して……」
『……勘弁してくれ』と思った香也は、話題を逸らすことにした。
「……んー……それより……今朝の同人誌、あちこちに散らばったままなんじゃないの?」
 香也が指摘すると、二人の女生徒たちは「はっ」とした表情になり、香也の周りに群がった生徒たちの襟首をかたっぱしから掴んで「今朝の、持っていったままでしょ!」、「返しなさい! 今すぐ返しなさい!」とすごい形相であたりにいる生徒たちに片っ端から凄んで回収にかかる。
 モノがエロ系同人誌なだけに、ここで回収しておかないとそのまま持ち帰り私物化する者が続出することは想像するに難くない。さらに、まかり間違って先生などに見つかって没収されたら、目も当てられない。
 同人誌を回収しようとする女生徒たちが他の生徒たちに組み付いていった結果、香也を取り囲む人垣が崩れたので、香也は抜け出すことにした。教室の中は、今や同人誌を回収しようとする女生徒たちを鬼とする鬼ごっこの会場と化している。
 香也は鞄を持って、そろそろと目立たないように教室の外に出ることに成功した。
 少し離れたことで、クラスの全員が香也に興味を持ち取り囲んでいたわけではなく、せいぜい総数の三分の一ほどだったことが、確認できた。それでも人数にして十人以上はいるわけで、それまで学校で人付き合いらしい人付き合いをしていなかった香也を慌てさせるのには十分な人数であった。

 教室から廊下に出てしばらく歩いて、香也はようやく緊張を解いた。
「あれ? 香也様、今お帰りですか?」
 緊張を解いたところでいきなり声をかけられて、どきりとして立ち止まる。
 みると、階段のほうからやってきた松島楓と加納茅が、机と椅子を抱えて立っていた。
「『こうやさま』ですとぉ!」
 香也の背後から、複数の絶叫が聞こえる。
 振り返ると、香也を追って来た生徒たちが大げさに驚いたり悲観にくれたりするジェスチャーをしていた。
「ちくしょー!」、「聞きました、奥さん」、「名前呼び、しかも、様づけ」、「愛だな愛」、「……負けた」とか、例によって各々勝手に騒ぎはじめる生徒たち。
「松島さん、いえ、楓ちゃんって呼んで良い? わたしたち、応援するから!」
 同人誌持ち込み女子二人組は、いつの間にか松島楓に近づいて楓の手を握り、そんなことを言っている。
「せ、先生ね。おつきあいするのは悪くないと思うの。そういうことに興味ある年頃だと思うし。でも、学生は学生らしいお付き合いの仕方というものが……」
 楓や茅と一緒にいた岩崎硝子先生も、微妙に取り乱していた。
『……もう、どうにでもしてくれ……』
 香也はその場で立ちつくし、深々とため息をついた。
 その香也の肩を叩く者がいる。
 顔を上げると、すぐそばに柏あんなが立っていた。
「ごめん。狩野君。
 なんか、こんなことになると、は思ってもみなかった……」
「……んー……」
 たしかに、柏あんなが元凶といえば元凶だとは思うが……柏あんには悪気はなく、むしろ、香也によかれと思って根回しをしてくれたわけで……。そう思うと一概に責める気もなれず、それに今更柏あんなを責め立てても、なんの解決にもならないのであった……。
「……彼らに、あまり騒がないようにいってくると、助かる……」
 現実的な線で望めるのは、せいぜい、そんなことくらいだろう。

「……で……」
 校門でいつものように香也を待ちかまえていた樋口明日樹は、香也の背後に十人以上の一年生がぞろぞろついてきた理由を一通り聞いて、なんともいえない表情をした。
「……彼ら、ついて来るんだ……」
「……んー……すぐに飽きると思うけど……今日は、家に来るって……」
 始業式の日はすぐに学校が終わる。その場しのぎの暇つぶし、のつもりでついて来ている生徒も、多いに違いない……と、香也はみている。
「まあ……狩野君がいいっていうんなら、わたしがとやかくいうことではないけど……」
 そんなことを小声でぼそぼそ樋口明日樹と香也が話し合う様子見て、香也についてきた生徒たちがまたまた、「おい、今度は眼鏡っこの先輩だよ!」とか「ふざけてますねー」とか「なんであいつだけ主人公特権を行使しまくりますか」とか勝手なことを囁きはじめる。
 漏れ聞こえてくる言葉に反応して、樋口明日樹のこめかみに青筋が浮かんだ。
「すいません!」
 慌てて、柏あんなが香也と明日樹に向かって、深々と頭を下げた。
「……こんなことになるなんて、わたし……」
『……あー……』
 顔を上げた柏あんなの目に涙が浮かんでいるのをみて、樋口明日樹は一気に白けた。
『……可愛い子は、こんな時にも得だよなー……』
 明日樹は、そんなことを思いはじめている。

[つづき]
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