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髪長姫は最後に笑う。第四章(46)

第四章 「叔父と義姉」(46)

「おっそーい!」
 居合いの銀二、あるいは人斬り銀二はあり得ない筈の事態に直面して目を見開いた。
「……そもそも、速さで忍に勝てるっと思うほうが、無理!」
 つかつかと一見無防備に銀二の間合いまで歩いて来た荒神の胴体を薙ぎ払った筈の銀二の白刃は、荒神の胴体に届く直前で、荒神の親指と人差し指の間に挟まれてピクリとも動かせない状態になっている。万力のような力だった。加えて、銀二のヤッパは、荒神の胴体と荒神の掌に挟まれた合間にあった。
『……あ、ありえねぇ……』
 居合い、あるいは抜き打ち。
 常人なら、ひらめく白刃に気づかぬうちに斬られ、刃が鞘に納められてから斬られることに気づく、迅速の技……それが、居合いという技だった。ことに銀二の技量は確かなもので、抜くタイミングを気取られることもなく相手を討ち果たす必殺の技である。今まで銀二が片づけてきた相手も、例外なく自分が絶命していることに気づかぬままに息絶えた。

 現在の姿勢から判断するなら……荒神は、ただ防いたしのいだ避けた、というレベルの話しではない……達人のみが果たせるという「真剣白刃取り」でさえなく……ただの指二本で、それも、向かってくる刃を掴むのでもなく、刃を故意に胴体ギリギリにまで通らせて、峰のほう方向から無造作に指で摘んだだけ……と、いうことになる……。
「と、いうことで……銀二さん、しっかーく!」
 あっけにとられている銀二の額に、荒神の人差し指が迫る。
 特に力を込めたようにもみえなかったが、荒神の指に額を弾かれると、銀二は五メートルほども後方に吹っ飛んだ。
 そして、吹っ飛んだ先にはシルヴィ・姉崎がいた。
 当然、シルヴィは飛来する銀二の体を避けようときびすを返す。
「駄目だよー……姉崎ぃー……」
 しかし、そのシルヴィの耳元で荒神の声がして、足下を掬われた。
 声は聞こえたが、荒神の姿は感知できない。
「供物が弱っちくて荒ぶる神はお怒りなのだぁ! 神の怒りをうけとるのだぁ!」
 飛来した銀二の体の下敷きになった姉崎の頭上、空中に、突如、何人もの男たちが出現する。
 万が一に備えて、荒神の周囲を囲ませて置いた姉崎の手の者だった。
「わは。わはぁっ。わはははあはっ! 最近、毎日のように弟子を放り投げているので、ぼくはすっかり人間投げが巧くなってしまったぞ! 今では高度二十メートルくらいまでなら軽く投げられるのだ! 神はなにをやっても巧い!」
 どこに潜んでいたのか、四方八方から「人間」が次々に放り出され、荒神の言葉通り、地上十メートル以上の地点でぶつかり合い、落下してくる。
「弟子? 弟子ですって?」
 姉崎は自分の上にのしかかった銀二の体を押しのけて、相変わらず姿を消したままの荒神に問いかける。姉が起きあがった次の瞬間から、銀二の上にどしゃどしゃと際限なく人間の雨が降り注いだ。
「あなた……毎日、コウを放りなげているの?」
 姉崎が知る限り、荒神がとった弟子は、加納荒野ただ一人だった。
「最近、もう一人見込みありそうな雑種ちゃんをみつけたのだよぉ!
 退屈だ退屈だ!
 銀二さんも思ったより弱かったが、その他の雑魚はやっぱり雑魚だ! 投げるのが簡単すぎてつまらないぞ! 君たち! 少しはぼくの可愛い雑種ちゃんをみならいたまえ! 最近の雑種ちゃんはあの手この手で抵抗してくるので、君たち雑魚どもより数倍投げ甲斐がある! 神はお怒りである! わざわざ挨拶にはせ参じるならもっと歯ごたえあるお供えを用意してからにしろぉ、姉崎ぃ!」
 荒神の哄笑とともに、空中に出現する姉崎の手下の数も増えていった。空高く放り上げられて、空中でぶつかり合ったりしながら、次々に銀二の上に落下していく。
「みだりに神の名を騙るのは控えなさい!」
 指で十字を切りながら、姉崎は叫んだ。「荒神が最近とった弟子」のことも気になったが、それ以上に、神を冒涜する荒神の言動が気に障った。姉崎は某宗派の敬虔な信徒である。
「わはははは。ここは秋津島、八百万の神々がおわす国なのだ! 唯一絶対の神しか許容せぬ了見の狭い場所などではない!」
 その八百万の神々の三主神の一柱と同じ名前を持つ男は叫び返す。
「これほどの実力を持つぼくが八百万一番目の神でないと誰に断言できよう! 八百万もいればもう一人くらい増えたって誰も気にしやしないし支障もないのだ! そうこうことで、このぼくは神認定! せいぜい神を敬いたまえ! でないと祟ってやるぞ! ついでに、捧げ物としてもっと強い奴、よろしくぅ! 銀二さんクラスだと、ぼくの弟子の雑種ちゃんの噛ませ犬くらいにしかならないから、わざわざぼくが相手をするまでもない! 弟子の教材として払い下げてやるぞ!」
 姿を消した荒神は絶好調で姉が用意した伏兵を片っ端から空中に放り投げ続ける。
『……こいつ……噂以上に無茶苦茶……』
 ……姉崎が用意した伏兵も、決して弱い者たちではない。むしろ、時間が許す限り、精鋭を集めたつもり……だった。
 が……その精鋭たちが、為す術もなく、姿さえ関知できぬ荒神に片っ端からいいようにされている。基本的に、空中に放り投げられれば、後は物理法則に従って落下するよりほかない、非常に無防備な状態になる。放り投げられた男たちの中には、せめて手足を振って重心を変え、足から着地しようと姿勢を変えようとする者も少なくなかったが、次から次へと荒神が人間を放り投げるので、すぐに空中で激突し、玉突き状態になりながらもみ合って地上に落下する。
 銀二がいた場所には、今や人間の山ができあがっていた。
「退屈だ退屈だ。姉崎が手配した奴らはあまりにも雑魚雑魚しくてつまらないぞ! 飽きたしぼくも忙しいのでこれで失敬する! これから下宿先に帰ってお昼を頂いて、長老から出された宿題を片づけて、明日の授業に備えて休まねばならんのだ! 神は多忙だ! この程度の挨拶でわざわざ足止めするなど不敬極まりない!」
 荒神の声がそういったのを最後に、姉の足下に銀二が持っていた日本刀が投げつけられた。その日本刀はアスファルトに易々と切っ先を潜り込ませ、刃渡りの半分以上を地下に潜り込ませて、ようやく止まった。
 こうなるともはや……シルヴィ・姉崎は、荒神の罵倒を否定する材料を持たなかった。現に、五十人以上伏せておいた者たちが荒神一人にいいようにあしらわれている。人間一人を地上十メートル以上の空中に投げ出すより、のど笛を掻き切ってまわる方がずっと容易だ。荒神は、姉が「手練れ」のつもりで用意した五十名を、単身で殲滅することが可能だった、ということになる……。
『……噂以上の……実力……と、性格……』
 シルヴィ・姉崎は、二宮荒神が一族の関係者の中で「アンタッチャブル=不可触」な存在とされる理由を、様々と実感した。
 ……あんなの、まともに相手にするだけこっちの損害が増えるだけ……。
『本当……経費の無駄遣いだわぁ……』
 そう思いながら、姉崎はバックアップ要員に連絡し撤退の指揮をするため、携帯電話を取り出した。
 六主家の中でも最弱とされる姉は、組織的なバックアップ体制に関しては、六主家の中でも最大規模のものを整備している。個人の資質に頼るよりは組織の力で問題を解決する、というのが、姉の方法論だった。個体の身体能力を最大限に引き出す、というテーゼを持つ二宮とは、対極にある在り方といえる。

 二宮荒神が下宿先に帰ると、何故か狩野家には、荒野と茅、才賀の小娘、それに制服姿の生徒たちが十名以上も庭に集まっていて、パスタと紅茶の食事をしているところだった。
 荒神は気配を消して荒野の背後に近づき、いきなり抱きついて、
「……こぉやくぅぅぅん……」
 と鼻にかかった声を出して、荒野の背中に頬ずりをする。

 荒野の背中が硬直し、何人かいた女生徒たちが「きゃー!」と黄色い声を張り上げた。

[つづき]
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