2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

髪長姫は最後に笑う。第四章(48)

第四章 「叔父と義姉」(48)

「……今まで接触してきた他の六主家のヤツらは、自分らの眷属の総意を即答をしてこなかったぞ……」
「……それはぁ……」
 不審がる三島に、シルヴィ・姉は不敵な笑顔をみせる。
「秦野と姉を除く他の六主家は、所詮、能力だけが自慢の烏合の衆ですから……それに……」
 ……女って基本的に噂話が好きなんですの……おかしな動きをする姉崎がいたら、すぐに他の姉に知れ渡りますわ……。
 と、シルヴィ・姉はつけ加える。
「……先生……わたしたち姉について、どのように聞かされています?」
「……ええと……埋伏の上手、天正あたりに海外にでてって、明治辺りから一族に合流してきたって……」
「そうそう。口伝によると、もともとわたしたちの祖先は歩き巫女の一派として代々女系相続を行ってきたそうです……」
 諸国を渡り、神になりかわり、あるいは、神前に供えるものとして、性をひさぐ。しかし、現在の経済活動としての売春行為ではなく、その当時には房事も神事として扱われていた。少なくとも、姉の祖先にとっては……。
 しかし、時代を経るにつれ、周辺の事情は変化する。
 神事よりも経済が重視されるようになり、同じように寺社を渡り歩く芸能民たちや職人との融合も始まる。旅を止め、諸国に根を張り、元の仲間たちに拠点を提供するものも多くなる。それに、諸国を渡り歩く、という祖先の性質上、情報を収集し、それを諸侯へ売買することも、はじめるようになる……。
「でも、当時の日本、諸国の併合がどんどん進んで、すぐに統一されちゃうでしょう?」
 姉ははるか昔のことを、数日前の事を話すかのような気軽な口調で語った。
 当時、羽振りの良かった者たちが、時の権力者に過分な打撃を食らったのを契機に、大半の者が、一旦海外に出ることになった。
「伝承によると、当時興隆を極めた女歌舞伎には、わたしらの祖先がかなり関わってたって話しなんだけど……」
 そんなことを言われても、三島は理系だったので、とっさに出雲の阿国の故事とかが連想できないのであった。
「……鎖国の時も、なまじ文物の出入りが規制されていたもんで、かえって密貿易は旨味があったそうでね……」
 国外に出た姉たちは、倭寇や行く先々での土地の有力者たちと体を張って結びつきを強めながら、アジアからヨーロッパまでに届く「血のネットワーク」を張り巡らせ、今では、それはは世界中を覆うものになっている。
「だからぁ……すごいですよぉ、姉の情報伝播力……。
 姉様方や婆様方、身内についてのあることないこと、始終触れ回っている。だから、滅多な隠し事なんて出来やしない……」
 怪しまれない程度に間隔を置いて到着する車両に順番にけが人を乗せて搬出する作業を、手配したり監督したりしながら、姉はそんなことを三島に話して聞かせた。
 路地の入り口と出口には、三島が来たときから「工事中につき車両歩行者通行止め」の看板が出されており、警備員も配置されていた。もともと通行人のほとんどいない、塀に囲まれた狭い道だったので、いきなり交通閉鎖されても、あまり人目を引かないようだ。
 そうした場所を選び、五十人からの護衛を連れてシルヴィは二宮荒神に接触したのだが……相手が、悪かった。あの「神」を自称した「最強にして最凶」は、シルヴィの予測と思惑を遙かに超越した存在だった。
 ……いろいろな、意味で……。
「……そんなんだからぁ、わたしたち姉は、他の六主家ほど、個人の能力には期待してないのです。
 どんなに超人的な能力を持っていても、個人にできることは、所詮、集団にできることに及ばない。わたしたちの力は、点ではなくて、線であり面。グローバルなネットワークと豊富な資金、それに、がっしりと根を張った組織力……」
 ……特異な能力が必要なら、外部からそうした能力を持つ者を雇うか懐柔するかして、引っ張ってくればいい、というのが、姉の発想だった。だから、姉は、遺伝子操作などに、興味は持たない……。
「……さらにいうと……」
 姉にとって「子を産み、育む」ということは、かなり神聖な行為だ、ともつけ加える。
「わたしたち姉にとって、婚姻を結び、子供を作ることは、自分たちの基盤を強化するという意味でも重要な行為です。また、実際に血の繋がりがなくても、一度家族とみなした者に対する愛情は、終生変わることはありません……」
「……だから、『わたしのコウ』かい……」
 今朝、職員室の前で、姉が荒野に抱きついている光景を思い出して、三島は半眼になった。
『……コイツに……荒神も、ほとんど同じ事を荒野にやっている、って知らせたら……どんな顔をするかな……』
 三島百合香は、ふとそう思った。
 そんな三島の思考など知るよしもなく、姉は自分の頬を掌で覆い、
「……だってぇ、コウったらあんなに恰好よく、逞しく育っているなんてぇ……」
 とかいいながら、一人で顔を赤くして、ぶんぶんと首を振っているのだった……。
『……荒野のやつ……』
 三島は、どんどんしらけた気分になりながら、そんなことをぼーっと考えていた。
『……年上の身内だけに効果があるフェロモンでも分泌しているんじゃないのか? あいつ……』

 堺と香也が他の連中をぞろぞろと引き連れて母屋に入っていくのと同時に、
「ぼくも、ちょっと用事があって、これから遠出してきます。今夜中には帰りますが、ぼくの分の夕食は要りません」
 と、荒神も腰を上げた。
 用事とは、多分、本業の荒事、のことなのだろう、と、荒野は予測する。荒神にとって「二宮浩司としての仕事と生活」は、あくまでかりそめのものである。
「いや、お食事、実においしかった……」
 最後にそういいながら、荒神は狩野家を後にした。
 庭の入り口で出て行く荒神を見送り、荒野は内心、かなり安心した。同性とはいえ、いや、同性であるからこそ、か、人前で、あれほど頻繁に肉体的な接触行為を強要されるのは、一種の精神攻撃ではないか、と、荒野は思う。
 荒神の背中が小さくなるまで見送って、ほっとしながらきびすを返し、荒野が母家に入ろうとすると……。
「コウ! わたしのコウ!」
 その背中に、いきなり、抱きつかれた。
 誰に、というのは、確認しなくても分かっている。荒野を「コウ」と呼ぶ人間は一人しかいない。朝の職員室前の再現。しかし、今いるギャラリーは、ほとんどが香也たちの同級生だった。
 シルヴィ・姉の声に反応し振り返った、母屋に入りかけた連中が、時ならぬ珍事に目を見開いて「おおっ!」と、声を上げ、騒ぎはじめる。
「プラチナ・ブロンドがブロンドさんに抱きつかれてるYO!」、「あれ、始業式の時に挨拶してた、なんとかってやたら名前の長いおねーさんじゃ……」、「年上か! 時代は年上なのか!」……などなど。
「……はぁーい!」
 シルヴィ・姉は荒野の背中に顔を埋めながら、片手を上げて、生徒たちに挨拶をした。
「わたし、コウ……荒野の姉代わりやってた、シルヴィ・姉崎! フルネームはちょー長いのでここでは省略。
 シルヴィかヴィって呼んでね!」
 その「シルヴィかヴィ」の後ろには三島百合香も立っていて、なぜか達観したような表情で「やれやれ」とでもいいたげな表情をして、肩をすくめながら首を左右に振っている。

「荒野……年上キラー?」
 玄関口に固まっていた生徒たちの戦闘あたりにいた茅が、荒野たちのほうに向き直り、誰にともなく、真顔でそう問いかける。

 加納荒野の新学期と学生生活は、このようにして開始された。

 [第四章・完]

[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking HONなび


↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのじゅういち]
アダルトサーチエンジンA エログランキング一番街 サーチデアダルト アダルト屋.COM えっちblogランキング Sexy Queen ランキング ぬるぬるナビ アダルトサーチ E-SEARCH ADULT 女神information 早抜きサーチ


アダルトアフィリエイト

RSSSmoothの新作ムービー情報をRSSでご提供しています。RSSリーダーをご使用の方は、このバナーをリーダーにドラッグ&ドロップしてください。

Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ