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髪長姫は最後に笑う。第五章(1)

第五章 「友と敵」(1)

 荒野と茅の学生生活は当初予定したよりもずっと平穏に推移した。
 社会経験が極端に欠乏している茅は、相変わらず時々とんちんかんな言動を繰り返しているようだが、同じクラスの楓とか香也、それに、始業式の日に狩野家に遊びに来たクラスメイトたちにうまくフォローされている……らしい。
 らしい、というのは、茅が学校にいる間は荒野も別の学年、別のクラスで授業を受けているから直接知りようがないからで、授業中の茅の様子に関しては、伝聞に頼るほかない。
 また、そろそろ茅にも荒野以外の様々な人と接して欲しい、という期待も、荒野にはあった。
 その面でも「学校」という環境は、今の茅には必要かつ適切に思えた。あえて難をいうのなら、知り合うのがほとんど同年輩の人間に限られるのが、学校という場所の難だとは思うが……その辺は、後で別の場所で解消するよりほかないだろう。学校とは、同年輩の若年者が集まり、集団生活を通して社会的なルールを学ぶ場所であり、その伝でいえば、茅ほど「社会的なルールを学ぶ」必要性がある生徒も、珍しい。
 楓の報告によれば、茅の時折見せるとんちんかんな言動は、「多少風変わりな所がある生徒」と認識されている程度で、本格的に茅の自出や経歴に不審な目を向けている者は、今のところいないらしい。
 今のところ、茅は、朝起きて、少し走り、シャワーを浴びてから、みんなと登校し、帰りに図書館かマンドゴドラに寄って(両方に寄る場合もある)から、夕食の材料を買ってきて、荒野と一緒に夕食を作って食べる、という生活をルーチンで行っている。携帯に登録されるアドレスも日々増えていて、友人、と呼べる者も学校に出来始めているようだった。

 だから、「茅には」ほとんど問題らしい問題がなかった。

「……なにぃ? 給食の量が少ないだぁ」
 荒野が昼休みに保健室に寄って「深刻かつ重要な当面の課題」について三島百合香に相談すると、三島は本気で呆れ返った声を出した。、
「そうっす」
 荒野は憮然として答えた。三島がどのような態度をとろうが、荒野にとっては深刻に問題である。
「あの量だと、いざという時、力が出せません」
 この学校の給食の味は、学校給食というものがたいていそうであるように、あまり芳しくない。しかし、くそまずい野戦用のレーションなども食べ慣れている荒野にしてみれば、上々、といったところだろう。少なくとも、食べ物の味がする。
 だから、給食の味には特に不満がない。味については不満はないが、量については大いに不満があった。
「……って、いってもなあ……基本的に学校内、飲食物の持ち込み禁止だし……」
 もちろん、給食のない日、部活などで学校に残る生徒が弁当などを持参する事は許されている。しかし、平日に関しては、飲食物を持ち込んで校内で飲み食いすることは禁じられていた。
「それに、別にすぐに飢え死にするってわけでもなかろう。
 我慢しろ、我慢」
「もちろん……死ぬわけではないですがね……。
 おれ、腹が減ると、通常時の半分も力が出ないんですよ……」
 事実、何年前に計測してみたところでは、荒野が十分な食事をとっている時ととれない時とでは、反射速度は半分ほど、筋力は三分の一ほどに落ちる。
 そのデータを三島に告げても、
「お前さんの場合、そんくらいでようやく人並みだろ……」
 と、にべもない返答しかもらえなかった。
 平和な日本に生まれ育った三島には、危機管理の重要性がよく理解できないのだ、と、荒野は引き下がるしかなかった。

 しかし、完全に校内での食量確保を諦めたわけではない。
 いつ、どのような状況で茅や自分が襲撃されるかわからない現在の状況では、運が悪ければ、最悪の事態も招きかねない。
 ……荒野は、そう判断する。

「……それでぇ、わたしの所にきたってわけぇ……」
「こんなこと、先生以外に相談できるとしたら、ヴィだけなんだ……」
 三島がいる保健室の次に荒野が赴いたのは、シルヴィ・姉崎が学校内での根城にしている生徒指導室だった。どういう手管を使ったのか知らないが、この生徒相談室に私物持ち込み、シルヴィは私室のように使用している。
 もっとも授業時間中は、英語教師の誰かに張り付いて、「研究用の資料」とやらを収集したり授業の手伝いをしているので、ほとんどここにいる時間はない筈だったが……。
 荒野にしても、シルヴィ・姉崎に相談をするのは不本意である。しかし、だからといって……「もう一人の関係者」に相談するのは、問題外だった……。
「……そうね……あの罰当たりな天災野郎に持っていくよりは、わたしのほうがまだしも無難かぁ……」
 シルヴィにとっても荒野にとっても、その突出した能力と行動の予測し難さ、という二つの要因のため、「二宮荒神」という存在は鬼門に近かい存在である。
「……わたしがなんとかしてもいいけどぉ……」
 シルヴィは蠱惑的な表情を浮かべる。
 途端に、荒野の姉代わりをしていた子供時代には、とうてい浮かべることができない妖艶さが漂う。
「わたし、コウのベイビィ欲しいなぁ……」
 シルヴィの要求は、冗談でも奇異なものでもなく、むしろ、「姉崎」としては当然そうくるであろうと予測できる要求だった。
 血縁に拘る姉崎にしてみれば、加納本家の跡継ぎの子を宿し、太いパイプを作ることは、大きなメリットになる。成功すれば、姉崎の中でのシルヴィの地位も向上するだろうし、生まれてくる子供には、最高の教育環境も用意されるだろう……と、予測できた。
 だから、荒野は、そのシルヴィの要求を聞いた時「やはり」と思い、口に出しては、
「やっぱりいいや。この相談、忘れて」
 あっさりそういって、生徒指導室を出た。生徒指導室を出たところで、ちょうど昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴ったので、シルヴィも荒野の後を追ってこない。荒神もそうだが、シルヴィも潜伏先の学校内では、普通の常識人として振る舞い、非常識な言動はしない。
 シルヴィの誘いというのは……シルヴィが懐妊するまで、何度かシルヴィと同衾するだけ……で、荒野は、姉から、途方もない優遇措置を受けるはずだった。見方によっては魅力的な取引……と、いえないこともなかったが、それだけになおさら、慎重に身を遠ざけなければならない……と、荒野は思う。
 うっかり誘いに乗れば、自分は姉崎に骨抜きされ、姉にいいなりの傀儡にでもなってしまうだろう、と。
 姉はそうした「寝技」には熟練している。なにせ相手は、関係した男をいいように操る技を、何百年も磨いてきた一族なのだ。

 そんなわけで、その日も「空腹問題」について解決を見なかった荒野は、帰りに駅前まで夕食の材料を買いにいくついでに、特盛の牛丼を買い食いしなければならなかった。

[つづき]
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