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彼女はくノ一! 第四話 (10)

第四話 夢と希望の、新学期(10)

 その日、香也のクラスメイトら来客者たちは、日が暮れる前に帰っていった。もともとその場のノリと勢いで狩野家に乗り込んだあげく昼食まで出されたわけで、さすがに長居はしずらかったらしい。
 松島楓も加納茅も、転入初日から知り合いが増え、おまけに香也もなりゆきで一方的に顔を売ってしまった形でもあり(香也のほうは、例によって顔は覚えていても、ほとんどの来襲者たちの名前までは記憶していなかった)、結果としては良かったのではないか……というのが、狩野家関係者の大方の意見であった。
 来襲者たちが帰って行くと、残された狩野家の人々と加納兄弟は例によって居間の炬燵に集合した。夕食まで少し間があったし、茅が本格的な紅茶をみなに御馳走したかったからだ。どうやら、紙コップの一件で意外にフラストレーションが溜まっていたらしい。
「まあ、なんだ……柏妹ちゃんのやり方は、強引といえば強引だったけど……」
 羽生譲が茅がいれてくれた紅茶の香りを楽しみながら、炬燵にあたっている面々にいった。羽生はもともとコーヒー党だったが、茅が御馳走してくれるようになってからは、紅茶の良さを再確認させられている。
「……あれ、結果的には良かったんじゃないのか?
 こんなことでもなけりゃ、こーちゃんの性格だと、クラスの人たちと打ち解けたりしないだろ?」
「好奇心旺盛でなんにでも鼻突っ込みたがる……あの年頃の子たちは、どこの国にいっても同じねぇ……」
 加納荒野の左腕にしがみつくようにして密着している金髪女性がいった。浅黒い肌と青い瞳が、複雑な混血であることを物語っている。
「……そういや、当然のようにいつの間にかそこにいるあんたは誰かね? おねーさん……」
「あら? 失礼、自己紹介がまだでしたわね。
 わたくしは、シルヴィス・ジョゼフィーヌ・カテリナ・サンタマルタ・エリス・ジェリカ・ジェシカ・マグダレーナ・アンジェリカ・エレンディア・アゴタ・ナンシー・クロエ・クリス・クローディア・カルネアデス・姉。カノウコウヤを幼少時、預かっていた家の娘で……いわゆる、姉代わりです……」
「……なっげー名前……」
 羽生譲は新しい煙草に火をつけ、その女性に抱きつかれている加納荒野のげんなりした表情を観察した。
「そっちのこーやくんの関係者ってことは……ひょっとして、おねーさんもザ・ニンジャ?
 まさか、二宮さんみたいに家に下宿したい、なんていいだすんじゃないでしょうな……」
「二宮? あんなのがこの家に住んでいるの? コウ!」
 シルヴィは羽生譲の質問には答えず、抱きしめていた荒野の腕をがくんがくんと揺さぶって尋ねる。
「……大丈夫だよ、ヴィ。あれ、今日は仕事で遅くなるっていってたから、当分帰ってこない……」
 揺さぶられた荒野は、どこか遠い目をして答える。
 ……なんとなく、悟りを開いたっぽい表情だ……と、見ていた羽生譲は思った。
「……そういや、ヴィ……しばらくこっちにいるんだろ? どこに住むつもり?」
 荒野がそう聞いたのは、シルヴィまでがこの狩野家や荒野たちのマンションに転がり込んでくることを懸念したからだ。
 荒野にしてみれば、これ以上、心配の種を増やしたくない。
「まだこっちに着いたばっかりで、決めてない……。そのうち適当なところ見繕うつもりだけど、当面はホテル住まいね。
 ……そっかぁ……二宮がこの辺に居着いているってきいたけど……こんなに近くに住んでいるの……。
 では、コウのマンションに転がり込むってプランは却下ね……」
 荒野が知らない昼間の一件で、シルヴィは荒神に強い警戒心を抱くようになっている。
『あんな化け物の近くにいたのでは、落ち着いて生活できやしない……』
 というのが、シルヴィの本音だった。
 そんなシルヴィの思いは知らず、荒野は、返答の内容のみを了解して、一人安堵のため息をついた。ようやく落ち着きかけてきた荒野と茅が住むマンションに、「シルヴィ・姉」なんて要素が新たに入り込んできたら……確実に、荒野の気が休まる暇もなくなる。
「……それで……コウ。
 二宮の二番目の弟子ってのは、どの子?」
「あ。はい。
 たぶん、わたしの事かと……」
 松島楓がおずおずと片手を上げる。
 楓にしてみれば、荒神に一方的に師弟宣言をされてそれに従っているだけ、なので、自分が荒神の何番目の弟子にあたるのか、などということは、考えたこともない。
「……だってさ。おれも後で聞いたんだけど……」
 荒野は冷めかけた紅茶を啜った。徐々に、普段の自分のペースを取り戻しつつある。
「楓は確かに素質あると思うけど……あの人も、なに考えているかなぁ……」
「……で、後の二人のうち、どっちが姫?」
「あっち。メイド服のほう……」
 荒野は炬燵に両手をつっこんだまま、顎をしゃくっただけで忙しく立ち働いている茅を示した。見ると、狩野香也のほうも香也と同じような姿勢でふったりと炬燵にあたっている。
 ……慣れないことして気疲れしたんだろうな、と、荒野は思った。
「……なに? あの服装?
 最近の日本ではああいうのが流行っているの?」
「ごくごく限定的な流行らしいね」
 まだ詳細な経緯を話せるほど回復していない荒野は、適当に答える。
「……それじゃあ、こっちの娘は?」
「才賀孫子。あの才賀の。いろいろ事情があって、この家に下宿している」
 例によってかなり投げやり気味に荒野が答える。
 今はただ、疲れた体にしみいる炬燵のぬくもりだけが愛おしい……。
「……へぇ……才賀の、ねぇ……」
 シルヴィが珍獣をみるような目で炬燵にあたっていた孫子を見つめる。その視線をうけた孫子は、不快そうに眉をひそめた。
「二宮がそっちのタヌキみたいな娘に肩入れするんなら、わたしはこっちのキツネみたいな子に肩入れしよっかなぁ……」
 さらっりととんでもないことをシルヴィが言いだしたので、荒野は炬燵の天板に思いっきり額を打ち付けてしまった。
「タヌキみたいな娘」とは丸みを帯びた体つきの楓、「キツネみたいな子」というのはほっそりとした長い手足を持つ孫子のことだろう。
 もちろん、どちらの少女も動物に例えられるほど野卑た雰囲気は漂わせていないので、記号化された印象なのではあろうが……。
「ヴィ!」
 顔を上げた荒野は、叫んだ。
「なにを考えている!」
「……あっらぁ……」
 いかにも心外そうな顔をして、シルヴィは荒野の顔をまじまじと見つめた。
「わたしはいつだって恋する乙女の味方よぉ……。
 それに、片方だけが六主家のバックアップ受けているなんて、アンフェアじゃない……」
『……そういう問題じゃないだろ!』と、荒野は叫びたかった。
「……ねーえぇー、孫子ちゃん……。
 見ればわかるわよ。そこのタヌキ娘に敵愾心燃やしているんでしょ? あなた……・
 このおねーさんがぁ、女の戦い方ってもの、おしえたげよーかー……」
 そんな荒野は無視して、シルヴィは猫なで声で孫子に語りかける。
「……あなた、みたところかなり鍛えているようだけど、才賀なら、忍の技なんてほとんど知らないでしょ?
 本当なら門外不出の技、特別にわたしが教えてさしえげてもいいのよぅ……」
 シルヴィの悪魔の囁きに孫子が回答する前に、
「……まあ、なんだ。そういうことはまた、食事の後にでもゆっくり話し合うんだな……」
 台所から顔を出した三島百合香が、シルヴィの言葉尻を引き取った。
「……とりあえずは、少し早いけど、メシだ。
 わたしと姉崎は、いろいろあって昼抜きだったからな……」

[つづき]
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