2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

髪長姫は最後に笑う。第五章(3)

第五章 「友と敵」(3)

 部活のことは考えておく、といって嘉島と別れ、本田といっしょに帰路につく。
「二人きりだと、いろいろ大変じゃない? 食事もそうだけど、掃除とかその他の家事とか……」
「そういわれれば、そうかなって感じだけど……でも、慣れた」
 実際には、「茅が」慣れたおかげで、家庭内での荒野の仕事はかなり少なくなっている。料理も掃除も、最近はもっぱら茅の仕事になりつつある。
 料理は、買い出しと下拵えくらいしか手伝わせて貰えない。荒野の掃除の仕方は、茅にはかなり大ざっぱに見えるらしく、荒野がやっても後で茅がやり直してしまう。
 荒野も、茅の世話に追われていた以前に比べれば、かなり暇になった、ともいえる。ただし荒野自身は、その空いた時間は、自分個人の自由時間というよりは、有事の際のための待機時間だと思っているが……。
 荒野は「商店街に寄って夕食の買い出ししてから帰る」といって、本田と別れた。

 学校と、駅前商店街と、荒野たちのマンションを地図上で結ぶと、扁平な二等辺三角形になる。つまり、学校から商店街に寄るには少し遠回りをしなけばならず、かといって、一旦マンションに帰ってから引き返すのも馬鹿馬鹿しい、半端な距離である。そこで荒野は、学校帰りに少し遠回りをして、買い物を済ますことにしている。
 制服姿のまま鞄を抱え、肉や魚や野菜を買い漁る荒野の姿は、傍目には滑稽にみえたのかもしれないが、荒野は頓着しなかった。
 もともと目立つ容姿であったことと、マンドゴドラの店頭CMに出演したことなどから、荒野の顔や噂は予想以上にその界隈に浸透しているらしい。
 商店街で買い物をしても、「いつも、偉いねえ」などといわれながら、商品を余分に包んで貰うことが、少なくない。どこでどう間違えたか、荒野と茅の二人については、「年少ながら、苦労しながら二人きりで生活している兄弟」という美談調の尾ひれがついた認識が、商店街界隈では一人歩きしているらしい。
 もちろん、荒野の側がそのようなバイアスをかけて情報を流布したわけではないし、また、誤った認識に陶酔している商店街の人々の幻想を壊すのも大人げないと思うので、荒野はそうした誤解を誤解のまま放置している。
 その日、制服姿のまま食材がびっしり詰まったポリ袋を大量に抱えた荒野は、商店街のはずれにあるマンドゴドラで休憩することにした。マスターから「一年間ケーキ食べ放題」を言い渡されたのはいいが、学校に通うようになってから顔を出していない。また、それにマンドゴドラは商店街の外れにあり、自宅までの帰り道、休憩するのにちょうど良い位置にある。
 年末年始は長蛇の列を作っていたマンドゴドラも、最近では流石に落ち着いていていた。持ち帰りのお客さんは頻繁に出入りしていたが、喫茶コーナーのカウンターは半分弱しか埋まっていない。
 いったん、空いているスツールの周りに鞄とポリ袋を固めて置いてから、セルフサービスのカウンターでコーヒーとショートケーキを注文する。高校の制服にエプロンを掛けた顔見知りになっているバイト店員は、「お久しぶりです」と荒野に挨拶してから業務用のエスプレッソ・マシーンでコーヒーを作って番号札と一緒にお盆の上に置いて荒野に渡し、「カウンターでお待ちください」といって、店の奥に消えた。
 コーヒーを飲みながらケーキが出てくるのを待っていると、「お。来た来た」といいながらマスター自ら注文したショートケーキを運んできてくれて、「女の子の方、茅ちゃんは元気にやっているか?」などと話しかけてくる。
 ちょうどその時、荒野の電話が鳴った。液晶を確認すると、茅からだった。
『同級生の子が、荒野がマンドゴドラに入っていく所をみたと、教えてくれたの』
 と、電話越しに茅はいった。
 どうやら、茅は茅で、独自のクラスメイト情報網を築きつつあるらしい。
 マンドゴドラのマスターに、「今、茅から、電話」といって携帯を渡し、荒野はマスターが運んできたショートケーキを賞味する。

 相変わらず、うまい。
 甘いけど、甘すぎない。
 三角形で上に苺が一粒ポツンと乗っているだけのシンプルなケーキが、どうしてこうもうまいのか。コンビニやスーパーで売っているものよりもずっとうまく感じてしまうのは、何故か……。
 こういうのを職人芸というんだろうなぁ……。

 などと、毒にも薬にもならない思考を展開していると、「ほい」と、マスターに携帯を返される。
「今、みやげ箱詰めするから、もうちょっい待っていてくれ」
 といって、マスターは再び店の奥に姿を消した。
 なにやら熱心に話し込んでいる、と思ったら、茅におみやげを注文されたらしい。
『……やれやれ……』
 と思いながらふと視線を落とすと、店のショーウィンドウ越しに五、六名の小学生らしき団体様が、荒野の顔を覗き込んでいるのと目が合った。
 荒野と目が合うと、子供たちは「ねこみみー」とか「すげー、ほんと、ビデオと同じ顔!」とかいいながら、わっと一斉に逃げ出した。
『……そりゃ、同じ顔だろうよ……本人だもん……』
 その荒野の頭上では、未だ正月モードのままの、荒野と茅のプロモーション・ビデオがエンドレスで流されている。マスターの話しだと、成人式を過ぎる頃までは、流しっぱなしにするという。そのビデオは当然荒野も見ているわけが、そのビデオの中の荒野は、ケーキを口に入れた途端、どうしようもなく緩みきった、締まりのない表情をしているのだった……。

 帰宅し、着替えてから買ってきた食材を冷蔵庫に放り込み、米を五合磨いで炊飯器にセットする。荒野はもとから大食らいだし、毎朝走るようにしてから、茅も以前よりはずっと食べるようになってきている。時折、三島百合香も一緒に食卓を囲むことがあるので、いつもこれぐらい炊く。ご飯が余ったら(滅多に余らないが)、後で夜食のお茶漬けにして食べる。米だけは、近所の専門店に定期的に配送して貰っている。
 そのうち茅が両手に本の山を抱えて帰ってくる。学校に通うようになってから、茅は放課後、学校の図書館に寄ってくるようになった。そんな時はたいてい楓も一緒で、時間が合うときには、部活帰りの香也たちと集団で下校してくることもある。
 マンドゴドラのおみやげを空けながら、茅に紅茶を入れて貰い、荒野は部活の話題を出す。下校する時、クラス委員に呼び止められて……。
「……で、あの学校、部活必須で、なにかしら入らなけりゃならないんだってな……:。
 茅、知ってた?」
「茅、もう入ったの」
 茅は、荒野の分の茶器を荒野の前に置きながら、こくりと頷いた。
「文芸部。
 放課後、図書室にいたら、誘われたの……」

[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking HONなび

無修正動画スキヤキAV
↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのよん]
Muhyoo-Japan! WA!!!(総合ランキングサイト) ブログランキングranQ アダルト列島No.1 創性記 あだるとらんど 大人向けサーチ Secret Search!  裏情報館 Hな小説リンク集


Comments

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ