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髪長姫は最後に笑う。第五章(4)

第五章 「友と敵」(4)

 茅は、続けて、
「それで、その文芸部に誘ってくれた先輩のおじいさんが、引退した佐久間だったといっていたの……」
 といったので、荒野は危うく紅茶を吹き出しそうになった。

 佐久間、は、六主家の中でも最も得体の知れない集団である。煽動や洗脳に長け、他者をほぼ思い通りに動かすことができる……と、言われている。
 だから、たとえ他の六主家の者でも直接佐久間の者と接触した者は極めて希でもあった。接触する必要がある時は、以前なら施術された傀儡が出向いてきたものだし、ここ数十年は通信機器が発達してきたおかげで、その傀儡にさえ、接触する機会が極端に減少した。
 佐久間が他の六主家の力が必要になった時は向こうからその時々の窓口(今ならさしずめ長老の加納涼治になるわけだが)に連絡してくるし、逆に、佐久間の助力が必要だと仕事を依頼すれば、確実に任務を遂行したので、それで不都合はなかった。
 また、六主家に属するか属しないか、という違いにかかわらず、引退したり、足を洗う一族の者は、決して珍しい存在でもない。
 負傷や加齢などの理由の他に、結婚や育児などの一般人なみの月並みな理由や、スランプとか仕事に嫌気がさした、などのメンタルな原因で辞めていく者もいる。
 一族の側は、仕事に意欲を失った者を引き留める、ということは一切しない。よほどの事がない限り、希望通りに引退させる。そうした引退者の中で、公にしてはならない極秘事項などの記憶を部分的、選択的にに封印するのも、佐久間の大きな仕事だった。

 だが、「元」佐久間の引退者、という者となると……荒野が知る限り、そのような者に誰かが接触した、という話しは聞いたことがなかった。
 そもそも、通常の佐久間に直接会った者さえ、極端に少ないのだ……。

「……でも、そのお爺さんはもう何年も前に亡くなっているし、引退してからは、佐久間とも他の一族とも連絡をとったこともなかったって、いってた……」
 しばらく唖然としていた荒野をよそに、茅は淡々と説明を続けている。
 とりあえず、荒野は、茅にその先輩に引き合わせてくれるように頼んだ。
「……そうだな、学校ではいろいろ都合が悪いから……今度の週末にでも、うちに招待してくれるか?」
 茅は、承諾した。

 週末までの時間を利用して、茅のいう「狭間紗織」という三年生のデータを、荒野は収集する。
 役所の資料によると、生まれた時からこの市に在住。両親は平凡なサラリーマン。この両親のうち、父親の義理父にあたる人物の名が、「佐久間源吉」。
 つまり、佐久間源吉は、引退後、一般人の女性と所帯を持ち、その女性の子供は、結婚時にはすでに成人していて、これが狭間紗織の父親にあたる……。
「狭間紗織」と「佐久間源吉」の関係を戸籍などから検証すると、そのような形になった。
 紗織の側からみれば、長年寡婦だった、いい年齢になった祖母がいきなり再婚して、その再婚相手が佐久間源吉だった、ということらしい……。

「狭間紗織」自身の評判も、特に怪しむべき点はない。というより、狭間紗織は、在校生の中でも、かなり評判がいい生徒だろう。
 二年生の時、一年間、生徒会長を勤めている。下級生にも同級生にも人望があって、誰に聞いても、いい評判しか聞かない。他の三年生が追い込み入って殺気立っているこの時期、悠然と部活に興じているほど、成績も優秀。模試で全国数百名の上位者にも再三入っているし、志望校にも、充分に合格圏内……というより、この成績で、何故もっと上の学校を受験しないのか、という点で、周囲の人間に首を捻らせていた。
「狭間紗織」とは、一言でいって、「非の打ち所がなさ過ぎて、かえって怪しいぐらいの優等生」といえた。

『……でも……』
「狭間紗織」の周辺を調べた荒野は、そう感じた。
『……トラップだとしたら、やり口が回りくどいんだよなぁ……』
 何かしら、向こうが荒野たちに掴ませたい情報があって、そのための接触の口実に「義理の祖父が……」という生徒を用意する……というのは、偶然を装いすぎて、かえって不自然に思えた。それに、「佐久間源吉」の名前にも、荒野は覚えがある。
 十年くらい前まで、涼治の手足のように働いていた佐久間の名が、たしか、「源吉」といった……。
 荒野自身は直接の面識はないが、少し昔の報告書や書類の中で、頻繁に出てくる名前だ。偶然を装ったのだとしたら、あまりにも出来すぎで、いかにも「警戒してください」といわんばかりの、わざとらしいさがある……

『……実際に会ってみれば、なにか掴めるか……』
 調べるだけ調べたら、後は考えすぎてもなにもかえって疑心案擬に駆られるばかりだ……と判断した荒野は、荒神とシルヴィ・姉崎、それに楓と三島百合香に「狭間紗織」と「佐久間源吉」の事を伝えた。
 荒神とシルヴィは完全に荒野たちの味方ではない(せいぜい、「好意的な中立」といった所だろう、と荒野は思っている)とはいえ、一族の関係者である。
 真偽のほどは「保留」とはいえ、情報が極端に乏しい「佐久間」の係累と会見する、と伝えれば、興味を示すだろう。

 そんなわけで、その週末、荒野たちのマンションには、荒野と茅の他に二宮荒神、シルヴィ・姉崎、松島楓、三島百合香が集合して、狭間紗織を待ちかまえる事になった。
「……うわぁ! 可愛い!」
 メイド服に猫耳装備の茅に出迎えられた私服姿の狭間紗織は、玄関口でそう叫んだ。
「その恰好、似合うね、茅ちゃん! 噂には聞いてたけど、わたしん家、年末旅行しててさ、商店街のクリスマス限定イベントはみてなかったのよね!」
 狭間紗織は以外にテンションの高い少女だった。
 集まった人々を見渡して、紗織は驚きの声をあげた。
「あ。荒野君だ! 加納荒野君! 二宮先生に姉崎さん、それに三島先生まで? 三島先生とかこっちの子まで、関係者なの?」
 とりあえず、テーブルにつかせて、マンドゴドラのケーキと紅茶を勧める。こちらがなにか聞く前に、狭間紗織はしゃべりまくった。
「……茅ちゃんから聞いたと思うけど、うちのおばあちゃんの再婚相手が佐久間さん、っていって、うち、同居じゃなかったけど、近くに住んでいた関係で、小さい頃、わたし、おばあちゃん家によく預けられていたのね。
 で、その佐久間さんって、わたしのおじいちゃんに当たるんだろうけど、わたし、まだ子供だったし、いつまでも佐久間さん、佐久間さん、って呼んでた。で、その佐久間さんがね、むっつりとしたおじいさんだったけど、たぶん、子供のあやし方、あまり知らなかったんじゃないかな? いろいろと話してくれたのよ。今でも活躍している忍者の話しを……」
 その佐久間源吉は八年前に亡くなっている。
 再婚相手の孫である紗織に、晩年になって自分たちの事跡を語ることは、源吉にとってどういう意味を持っていたのだろうか……と荒野は思った。
「……おじいさんの話しだから、昔のことがほとんどでね。
 今思い出してみると、戦時中の話しとかまだソビエトがあった時の話しとかなんだろうけど……その時は、正直な話し、あんまり細かいことは理解できていなかったと思う。
 なんか、佐久間さんの若い頃はいろいろと大変な時代で、そこで一生懸命に戦っていた人たちがいた……みたいな理解をしていた。
 その話しに出てくる人たちは、みんな子供向け番組のヒーローみたいに強くて、佐久間さんにしてからが、催眠術みたいなので何十人もの人をいっぺんに操った、とかいう話しを、何度もしてくれた……。
 佐久間さん、わたしが退屈な様子みせるとすぐに別の話に変えたし、切れ切れにしか聞いてないんだけど……佐久間さん、すごい真面目そうなおじいさんで、普段冗談いうような人じゃなかったから、なんで子供相手にあんな話ししてたんだろうってずっと思ってたんだけど……あの話しが全部本当だったとしたら、佐久間さんって、実はすごい人だったんだなあ……」
 狭間紗織は遠い目をしていう。
「……その佐久間さんの話しによく出てきた名前が、二宮だったり姉崎だったり加納だったり……。
 佐久間が頭で、そうした人たちは手足のようによく働いてくれた……って、佐久間さんは、よくいってた……」
 佐久間の側から他の六主家をみれば、そのような認識になるのだろう……。
「……ここん所、立て続けに佐久間さんのいっていたのと同じ名前の人たちが学校に集まってきて……しかも、だめ押しが茅ちゃんと荒野君だもんなぁ……」
 狭間紗織は、荒野の目をまともに見つめて、尋ねる。
「……荒野君のお父さんって、ひょっとして仁明さんっていわない?
 だとしたら、佐久間さん……源吉さんが、最後にした仕事というのが……茅ちゃんと仁明さんに関わった人たちの記憶を消すことだったって……」

[つづき]
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