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髪長姫は最後に笑う。第五章(5)

第五章 「友と敵」(5)

 茅は、狭間紗織を観察していた。
 狭間紗織は、いつもの、茅が知っている狭間紗織よりは快活で、別の人格を演じているようにも見えた。
 荒野や荒神、それに姉崎など、一族の実物を目の前にして、年齢相応の少女を演じているのかも知れないし、目の前にいる人たちが、尋常でない能力を秘めた存在であることを肌で感じ、無意識裡に、「自分は無力な存在である」とアピールしていたのかも知れない……。
 だとしても、狭間紗織の脈拍も体温も平常通りで、特に変化は見られなかった。

 茅は、戸籍上は狭間紗織の「義理の」祖父にあたる佐久間源吉は、狭間紗織の実際祖父だったのではないか、と、思っている。
 現役時代、長年危険な任務についていた佐久間源吉が、身分を偽って娶っていた妻が、狭間紗織の祖母なのではないか、と……。 そして、現役を退いた佐久間源吉は、ようやく佐久間源吉本人として、狭間紗織の祖母の元に返ってくる……。
 この土地は、加納涼治が長い年月をかけて根を張ってきた場所だ。涼治も、事情を知った上で、現役を退いた佐久間源吉が安心して暮らせる環境を提供したのだろう。
 その証拠に……狭間紗織は、茅と同じように、驚異的な写像記憶力を持っている。茅には明かしていないだけで、その他にもいろいろな能力を隠し持っている可能性も多分にある。
 茅の本の読み方を見て、「自分と同類なのでは?」と思った狭間紗織が、図書室で茅に声をかけてきたのが、つき合いの始まりだった。
 話し合ってみると、狭間紗織の資質の多くは、茅のそれと類似していた。
 たぶん、そうした資質こそが、「知力に優れる」とされる佐久間の遺伝によるものなのだろう。
 狭間紗織は、佐久間の血を引き、多くの良質な資質を受け継ぎながら、しかし、後天的な修練で獲得する「術」は引き継がなかった……そんな存在ではないか、と、茅は推測している。茅の推測が正しければ、佐久間源吉は、自分の子孫を「一族」の中に組み入れるつもりはなかったのだろう。だから、長年、自分の妻と子と、別れて暮らしていた……。
 自分と同じような資質を現しはじめていた幼い紗織に接した源吉は、突出した能力を持つ者が一般人に紛れて暮らす際の処世術などを、それとなく伝授していたのではないか……。

 そうした推測を、茅はその場では口にしなかった。
 この場には、二宮荒神がいる。シルヴィ・姉崎もいる。
 二人とも、個人としては、むしろ茅は好ましく感じていたが……事態が今後、どのように転ぶかわからない現状では……余分な情報を与えない方が懸命だ、と、茅は判断する。彼らが今後も、永劫に茅たちの味方のままでいる……という保証は、どこにもないのだった。

「……ひとつ聞くがね、お嬢さん……」
 狭間紗織が一息ついたところを見計らって、二宮荒神が言葉を挟んだ。
「その、お嬢さんの義理のおじいさんにあたる源吉さんは……目が不自由ではなかったかね?」
「ええ。よくご存じで……」
 狭間紗織は荒神のほうを向いて、微笑んだ。
 この時の荒神は朱い舌を踊らせて、学校で見せている「二宮浩司」のものではない、凶暴な素顔をかいま見せていたのだが……狭間紗織は、少しも怯んでいるようには見えなかった。心拍も体温も、正常だった。
「……源吉さんは、左目に義眼をいれていました」
「ああ。じゃあ、本物だ……」
 荒神はうっそりと笑った。
「そのじいさん、十年くらい前まで、長老とよくつるんでいた人だよ……。人前に出る佐久間は珍しいから、よく覚えている……。
 その人の左目はね、このぼくが、この指でえぐったんだ……」
 荒神は笑いながら、自分の人差し指を示し、自分の指先に舌を這わせる。
「……長老が止めなかったら、そのまま頭蓋骨を握りつぶしていたのに……」
 ……まあ、弱かったけど、その他の手応えだけはありすぎる、食えないじいさんだったよ……。
 荒神は懐かしむように、そう付け加えた。

「レディの前で指をくわえるのはお辞めなさい。不作法です」
 シルヴィ・姉が荒神を窘めた。
「この血に飢えたけだもののことはあまり気にしないでいいわよ。
 こいつにとって他人を傷つけたり殺したりすることは、日常茶飯事なんだから……」
 シルヴィ・姉は狭間紗織に微笑んで見せた。
「わたしも聞いたことある。
 わたしの身内は噂好き。世界中にちらばって、あることないこと始終くっちゃべってるの。グローバルな井戸端会議ね。
 そんな中で、長老……加納涼治とつるんでいる義眼の佐久間のことは、何度か聞いている。
 だから、小さい頃、あなたが源吉さんに聞いた話しは、だいたい本当にあったことだと思う……。
 それにあなた、このけだものが『目が不自由ではなかったか?』と聞いたら、『左目に義眼をいれて』たって即答したわね。けだもののほうは義眼のことは一言もいってないのに……。だから、あなたの義理のおじいさんとわたしたちが知る佐久間源吉は、かなり高い確率で、同一人物。
 ……でも、こんな偶然ってある?」
「偶然では、ないと思う」
 それまで黙って話しを聞く一方だった荒野が、いきなり立ち上がって話し始めた。
「……ずっと考えていたんだ。こんな偶然、いくらなんでも出来すぎだって……。
 でも、狭間先輩が嘘をついているとは思わない。
 もっと根本的な所で……大昔から仕掛けが作られ、何年も、おれたち引っかかるのを待っていたんだ……。
 何故そんなことをするのか、っていう点が、実のところよく分からないけど……。
 でも、誰がどうやって、っていうのは今すぐ指摘できるよ……」

 ……こんな風に……。

 と、荒野は何気ない、しかし素早い動作で、手にしていたフォークを挾間佐織の顔に突き立てようとした。
「……涼治に似て、平然と無茶な真似をなさいますな、若」
 しかし、荒野のフォークを、小さな皺だらけの掌が遮る。
 その義眼の老人は、フォークを掌に突き立てられながらも表情ひとつ変えることなく、平然と荒野たちに挨拶した。
「ご明察の通り、この老いぼれが佐久間源吉にございます」

[つづき]
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