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髪長姫は最後に笑う。第五章(6)

第五章 「友と敵」(6)

 狭間紗織の視点から見た事態の推移は、次のようになる。

「……でも、誰がどうやって、っていうのは今すぐ指摘できるよ……。
 ……こんな風に……」
 いきなり椅子から立ち上がった加納荒野がそういって、ケーキを食べるのに使っていたフォークを自分の顔に突き立てようとした。
 狭間紗織は、決してすぐれた動体視力の持ち主ではない。まず人並、といっていいだろう。その紗織の目からみても、荒野がなにを持っているのか、しっかりと視認できた。だから、紗織は、
『……荒野は、本気で危害を加えるつもりではない』
 と、瞬時に判断した。
 数年前、紗織が佐久間源吉に聞いていた加納(佐久間源吉の話しに出てくる加納は、だいたい涼治という名の老人だった)は、とりわけ高い能力の持ち主であって、本気で誰かを傷害しようとしたら、被害を受ける人間が気づく前に仕事を終えている……ということを、何度も話していたからだ。
 紗織は、動体視力や筋力、反射神経などは人波だが、一度見聞したことは決して忘れない。だから、幼い頃聞いた細切れの源吉の話しも、すぐさま脳裏で鮮明に思い出すことが出来る。

 加納荒野はその加納の直系であると聞いている。
 ……だとすれば、これは、荒野が何者かに自分の意志を伝えるためのパフォーマンスだ……。
 自分の目のあたりにめがけ、荒野が手にしたフォークを振り下ろすのを見ながら、佐織が一秒もかからずにそう結論した時……。

「……涼治に似て、平然と無茶な真似をしますな、若」
 忽然と……懐かしい……あまりにも懐かしい……背中が、目の前に出現していた。
「ご明察の通り、この老いぼれが佐久間源吉にございます」
 荒野と紗織の間に、忽然と現れたのは……数年前に死別した筈の、義理の祖父の姿……声……。

「わははははっ!」
 いつの間にか、小柄な源吉のすぐ側に、二宮浩司……いや、二宮荒神、と呼ぶべきだろう……が、立っている。
 源吉と荒神のまわりに、もの凄い風音がなっている。
 荒神の両腕が……見えない。
「面白い! 面白いではないか!
 ……これが佐久間か!」
「左様。
 この片眼と引き替えに、この老いぼれに指一本触れられないように暗示をかけさせて頂きました」
 源吉が、静かな声で答える。
 荒神が源吉を攻撃しようとして、それが源吉に届いていない……ということらしい。
 紗織は、幼い頃の源吉の話しを再び想起する。
 源吉をはじめとする佐久間は、知力に優れ、洗脳、扇動、暗示など……他者を思い通りに動かすのを得意とする集団だった筈だ……。

「……無茶でも、効果的でしょ?」
 荒野も、平静な声で突如出現した源吉に話しかけていた。
「自分の存在をおれらに感知できないように暗示をかけて監視していた源吉さんを炙りだすには……源吉さんにとって不測の事態……しかも、咄嗟に姿を現さなければならないような状況を、作らなければならなかったわけで……。
 いろいろ考えたけど、こんな方法しか、思いつかなかったよ……」
 紗織は、荒野の言葉を咀嚼する。

 源吉は、なんらかの理由で、紗織たち家族の前から、死亡を装って姿を消した。そして、紗織たちに、自分の姿を感知できないように暗示をかけ、何食わぬ顔をして、何年も過ごしていた。
 なんらかの理由、というのは、多分……忍としての仕事……なのだろう。
 そして現在。
 荒野の言葉によれば……源吉は、荒野たちに、源吉自身の姿を感知できないように暗示をかけて、荒野たちの様子を監視していた……。
 その源吉の術を破るために、荒野は、源吉の身内である狭間紗織にあかるさまに危害を加えることで、隠れている源吉を炙りだした……。

『……これが、一族の人たちの闘い……』
 そこまで現在の状況を推測した狭間紗織は、目眩にも似た、地面がぐらつくような感覚を味わっていた。
 なんという能力、なんという駆け引き。

「……しかし、若。
 よくこの老いぼれがこの場にいる事に気づけましたな……」
「そこは……まあ、状況証拠しかなかったけどね……。
 うちのじじいなら、おれらになにも言わず、誰かにおれらの事を監視させているんじゃないかって……。
 あと、こっちの生活が落ち着いた所で他の六主家におれらの居場所リークしたり、新学期が始まったた途端、狭間先輩が姿を現したり……大体が、都合よく行きすぎなんだよ……。
 まるで掌の上で踊らされているようで、居心地が悪くてしょうがない……」
 荒野は肩をすくめた。
「……まあ、源吉さん。もう源吉さんの術は破れちゃったんだから、後はおとなしくお客さんしていってよ。そこにお孫さんも来ているし……。
 楓、向こうの部屋から医療キット持ってきてくれ。先生、それで源吉さんの傷、治療してあげて。茅は、紅茶をもう一人分、頼む……」
「……紅茶、ですか?」
 それまで小さく縮こまっているように見えた源吉の背筋が、ここで初めて大きく伸び上がって、背中を細かく震わせた。源吉が、笑ったらしい。
「それは、いい。
 いつも指をくわえて見ているばかりでしてな。一度茅様の紅茶を頂きたいと思っていたところで……」
「うん、うまいよ。茅の紅茶」
 荒野は源吉に頷いて、空いている椅子に座るようにすすめた。
「……源吉さんもこうして姿を現した、ということは、暗示をかけて身動き出来ないようにして、おれら全員の記憶を封印するとか……その程度のこと、朝飯前にできるって自信があるからなんでしょ?
 だったらゆっくりしていってよ。いろいろ聞きたいこともあるし……」
「……そういう理由だ、紗織」
 椅子に座った源吉は、狭間紗織のほうに顔を向けて、照れているようなはにかんだような顔をした。
「……あれからも、ずっと、見守っていたよ……」
 その、しわがれた声を聞き、どこか焦点のずれている源吉の義眼をまともに見た時……狭間紗織は、静かに涙を流していた。

[つづき]
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