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彼女はくノ一! 第四話 (15)

第四話 夢と希望の、新学期(15)

 風呂上がりの才賀孫子が庭のプレハブに向かうと、狩野香也が黙々とキャンバスに向かっていた。いつのも光景であり、その後ろに松島楓がちょこんと座っているのだが……その夜は、その他に加納荒野までもが腕を組んで香也の背中を見守っていた。
 なんで加納が……。
 と、孫子は思ったが、自分も毎日のようにプレハブに来ている身で、荒野がこの場にいることをただすのも筋違いに思えた。思い返してみれば、孫子に香也の絵をみるように最初に薦めたのは荒野である。
 それで孫子は、無言のまま荒野に合図をし、プレハブの外に出るように手招きした。基本的に勘がいい荒野はすぐに孫子の意図を察し、素直に合図に従う。

「……この間の姉の件だけど……」
 庭に出た孫子は、前置き無しに切り出した。
 始業式の日、孫子がシルヴィ・姉に「一族の術を伝授する」と言われた場には荒野もいた。それで、通じるはずだった。
「どうするかは才賀の自由だけど……」
 孫子の言いたいことを察した荒野は、端的に切り返す。
「……正直、あまりお薦めはしないね。
 相手が悪いというのもあるし、それ以上に、才賀にはおれたちに深入りして欲しくないんだ……」
「それを判断するためにも、姉がなにを目論んであんなことを言い出したのか、予測つかない?」
「才賀とのパイプ、太くしたかったんじゃないの?
 姉、実戦力欲しがっているし……」
 荒野は、孫子が予測した範囲内のことしか言わなかった。
 孫子は、順当にいけば、将来、才賀の中でもかなりの地位を占める筈である。その孫子に恩を売っておけば……という思惑は分かりやすいのだが、それだけではないような気もする。
「あの時、二宮と楓がどうのとかいってたけど……」
「ここ数日、荒神が楓に稽古つけているのは、本当」
 荒野は、その稽古で楓の動きが見違えるように良くなったことは、孫子には伏せておいた。もともと素質があった楓は、超一流の荒神と直接模擬戦を行うことで、荒野でも目を見張るほどの上達ぶりを見せている……。
 孫子の性格だと、楓に対する対抗心から、姉と組む……と、言い出すことは必至なような気がしたからだ。
「……そうよー……」
 その荒野の配慮を、不意に背後に発生した気配が台無しにする。
 いつの間にか、シルヴィ・姉が荒野の背後に立っており、そのまま背中に抱きついて、荒野の耳に息を吐きかけるようにして囁いた。
「……あのくノ一ちゃん、もう、凄いんだから……才賀ちゃんも、うかうかしていると、どんどん差が開いちゃよぉー……」
 最弱、といわれようが姉も忍。気配を消して近寄る、くらいの芸当は、難なくできるのであった。
『……いつの間に……』
 荒野は内心で冷や汗をかいた。
 ヴィの接近に気づかなかったということと、ここで孫子とヴィに好きに会話をさせると、どうにもヤバイ方向に事態が進展するのでは……という予測。二重の危機感が、荒野を圧迫する。
「……楓は、そこまで……」
「なんっていうか、最強が側についちゃったからねぇー……。
 もともと、素質はあり余るほどあったようだし……」
 深刻な顔をして考え込む孫子と、それを煽るシルヴィ・姉。
 事態は、荒野にそうなって欲しくないと思う方向に進みつつあるようだった……。
 正直、ただでさえ「六主家同士の内紛」の様相を呈している不透明な現状の上に、さらに「才賀」という部外者、かつ、不確定窮まる要素までが、しかも姉と手を組んで本格的に参入してくるのは……荒野としては、歓迎できなかった。まったく、歓迎できなかった。
「……仮に、あなたが、わたくしに一族の術を教えるとして……」
 孫子は、荒野が歓迎しない方向に話しを進めていく。
「……その代償は、なに?」
 才賀は海商の末裔でもある。なにかを貰えばなにかを支払わねばならない……ということを、弁えている。そして、可能な限り値切ろうとする。
「さっきコウがいっていた、将来の才賀とのパイプも欲しいけど……」
 シルヴィ・姉は、言葉を選びながら、いった。
「……それ以上に、今は荒神の弟子に一泡吹かせたいっていうのが、本音?」
『……やはりそれか……』
 荒野は思った。
 具体的な情報を掴んでいた訳ではないが、荒神とヴィとの様子から、来日したばかりのヴィが荒神に軽くちょっかいを出して、手ひどく返り討ちになったのではないか……と、荒神は予想していた。
 二人の性格を熟知している荒野にしてみれば、その程度のことは容易に予測できた。
 その予想は、当たっていたらしい。
 つまり、ヴィが孫子に肩入れしようとする最大の動機は……「私怨」、だった。
 シンプル、かつ、採算度外視……これ以上、荒野にとって望ましくない動機はないであろう……。
「もしも……わたくしが、そこまで成長しなかった場合は?」
 孫子はあくまで慎重である。流石に、取引の基本を抑えている。
「ぜーんぜん、関係ない……」
 荒野の背中にしがみつきながら、シルヴィ・姉は婉然と笑う。
「だってぇ、わたし、恋する乙女の味方だもん……技、以外にもぉ……女にしかできない戦い方、いっっぱい教えてあげちゃう……」
 荒野の耳元に息を吹きかけるようにして、そういう。
『……やばい。本格的に、やばい……』
 荒野の心中で警鐘が鳴り響いている。
 女系の姉は、男性を虜にする技術を何百年も磨いてきた血族である。その姉が、才賀孫子に本格的に肩入れしたら……結構、とんでもないことになるのではないか……。
 容姿や才覚、という要素以外にも、才賀孫子には「いざとなれば、目的のためには手段を選ばない」という側面もある。
 そう。その名が示すとおり、才賀孫子は、孫子の兵法を諳んじており、いざとなれば実践することを躊躇わないメンタリティの持ち主でもある。
 ……これは、現在の所、危うくもなんとか平衡を保っている狩野家周りの人間関係が、バランスを崩す前兆ではないのか……。
『……コウ……余計なこと、なにもいわないように……』
 荒野が持った危惧を見透かしたのか、シルヴィが荒野にしか聞こえない小声で囁いた。
『……でないと……「あのこと」を、みんなにばらすわよ……』
 その言葉で、荒野は動きを封じられる。
 幼少時の荒野と家族同然に生活し、姉代わりとして面倒を見てきたヴィ……には、荒野を脅すための材料には、事欠かないのであった。
「その取引……乗りますわ……」
 しばらく考え込んだ後、孫子はシルヴィ・姉に片手を差し出した。どう考えても、損はしない取引だ、と、判断したらしい。
「そうこなくっちゃ!」
 シルヴィ・姉は、荒野の背中から離れて、孫子の手をがっしりと握りしめる。
『……ああああああ……』
 荒野は、二人の女が文字通り「手を組む」のを、黙ってみているしかなかった。
 これは……今の荒野にとって、ある意味、最悪の組み合わせではないのか?
『……強く生きろよ、狩野君……』
 荒野は、強くそう念じた。

[つづき]
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